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表口からの裏口入学

 女子寮の一室。

 カーテンの隙間からは朝陽が差し込む。

 室内では三人の女子高生が着替えの真っ最中。

『んんんんん、まだかねまだかねまだかね』

「やかましいっ」

 机の上で、何重にも目隠しされたヤタガラスがひっきりなしにわめく。

「透視魔法で覗いたら斬り殺す。魔法なしで覗いたら絞め殺す」

『透視魔法の心配などせんでいい。あれはグロく見えるだろ。服どころか皮膚まで透けるものな』

「じゃあ絞め殺すわ」

『待て待て。いつの間に覗いたことになってるんだよ。おかしいだろ』

「できました」

 響が大城戸ガラスと栗子の会話に割って入った。

『うむ! なかなか似合うぞ!』

「まだ目隠しが」

『心眼さ!』

「てめっ、やっぱ見てんじゃねーか! 斬り殺す。クリエイト、【サージカルナイフ】」

 四本のサージカルナイフを作り出し、五本の指の間に挟んだ。ネコの爪のようになった。

『むむむ、また魔法メスか! だが捕まらなければいいだけさ!』

 大城戸ガラスは狭い部屋の中、ばたばたと羽ばたく。どんどん上昇して、天井にぶつかって墜落した。

『おををおぉぉっ!?』

「うし、つかまえた」

「見えていないよ」

 梓も着替えを終えていた。

「あ、そっか」

 響がカラスの目隠しを解こうとする。布の結び目をつまんだ。

「すごく、かたいです……」

「メスで切るわ」

『え、ちょっ、おま、肉まで切るなよ、絶対に切るなよ! あっあっあっ、羽毛が少し切れてるだろうが! あふぅ~んんん……』

「あーうっさい。ピクピク動くな」

 目隠しが切られ、女子三人の姿がカラスの目に映った。

 梓、響、栗子の三人は学校の制服姿だった。しかし、いつもの防災大附属校のものではない。紗都希と大城戸の母校、香甲第二高校のものだ。姫宮と十六夜はかつて潜入調査をした際、制服を魔法で偽造して同校の生徒に成りすましたという。そのときの技術を応用したのだった。

『うむ、紗都希くんのときとほぼ同じだな。こうなることはわかっておったのじゃよ……』

 違っているところは一つだけ。

「スカートの丈が……」

 響はスカートの裾を下に引っ張るものの、それで長くなるわけでもない。

「まあ大丈夫っしょ」

「まだ最後の仕上げがあるよ。これを」

 梓は響に白のリボンを二本、栗子にはウィッグと水色のヘアゴムを一つわたした。

「ヅラ?」

「校長特製。『蒸れない、ばれない、着脱かんたん。三拍子そろった優れものだぞフハハハハ』と」

「クール面でしれっとフハハハハまで再現すんな。ウザい」

 響はストレートロングからツインテールに。栗子はセミロングからサイドポニーテールに。

「あんたは」

「これを」

 栗子のとは異なる形のウィッグだ。髪型はショートから縦ロールに。

「似合わねー」

「にあいません」

『似合わんな』

「『玉葛たまかづら 聞こえ悪しきに なりぬれば 飾る心の うれしげもなし』。出発しよう」



 電車に乗って移動する。香甲第二高校は防災大附属校と同じ県内だったが、両校の位置する市はそれぞれ異なり、結構な距離がある。

 大城戸ガラスは響のかぶる帽子の中に窮屈そうに身をひそめ、そこからわずかに顔を覗かせた。

 女子三人の制服以外の服装は、帽子とマント。手荷物は梓の箒、響の杖のほかはスマートフォンぐらいで、取材用にと渡されたデジタルビデオカメラは部屋に置いたまま。手揚げ袋もないので、カラスが隠れる場所も限られる。

 カラスは周囲の様子を窺い、注意を向けてくる者がいないことを確認してから、テレパスで話し出した。

『梓くん。変装のやり方や見取り図まで教師に聞く必要があったのかね。あの高校のことは私が詳しく知っておるんだが』

「最近は魔法使いの事故死・・・多発のせいで、行き先を知らせておく決まりです。何かあったときに駆けつけてくれますよ」

『うむ。そうなのかね』

「つっても、あんたたちは置きっぱなしの道具を取りに行くだけなんでしょ」

 見物気分の栗子が口を挟んだ。

 一行の全員に、模擬戦の潜入取材をするつもりはない。あくまで校長向けの建前だ。

『そうだが、決して安全とはいえんよ。奴も……Tも狙っておるからな。その道具はな、強い力をもつ魔法使いが暴走したときに食い止めるためのものなのだ。今の魔法使いと非魔法使いの共存社会を支える鍵でもあるぞ』

「それは、どういう」

 響は思わず顔を上に傾けた。

『おっとバランスが。いいかね、響くん。その道具は君たちぐらいの、まあ、こういっちゃなんだが、あまり強くない魔法使いにしか使用許可が下りん。道具を持っても持たなくても、ハイテク科学兵器の軍隊に勝てないレベルだな。君たちミサイルは落とせるかね』

「むりです」

「無理ですね」

「できるわけないでしょ。でもさ、前きいた話だと、波動砲発射を防ぐんでしょ。道具持っても・・・・強くないんじゃ、意味なくない?」

『相手は波動砲ではないといっただろ。人の話はよく聞きたまえ。取りに行くのは対魔法専用の魔法具だ。純粋な科学兵器には役に立たんが、強い魔法使いや魔法兵器には有効なのさ。上位の魔法使い、下位の魔法使い、科学兵器で三すくみを作り出す。上位の魔法使いは専用魔法具持ちの下位には勝てない。魔法具持ちの下位は科学兵器には勝てず、科学兵器は上位の魔法使いに勝てない。だから、どこも横暴なことはできんというわけだ。ほら、三権分立とか三国鼎立ていりつとかいうだろう? 三という数は不思議と安定感があるのだよ』

「ふうん」

『んんん、なかなか意味深長なこと言ったな!』

 大城戸ガラスは満足げに自讃し、響の帽子の中に引っ込んだ。車中ではそれきり出てこなかった。響は「ねてるみたいです」と上級生二人に告げた。

 その後しばらくして、ある駅で一人の客が乗車した。

 その客の持つ新聞の見出しが大きく目立つ。

『また一歩、宇宙そらへ 火星に大型魔法基地敷設』『功労者・池田氏のインタビュー第2面に』

「やっぱ波動砲じゃね? 火星から」

「防ぎようがないね」

 何度か乗り換え、目的の駅に到着した。

 バスターミナルがあり、そこから魔法技術産業団地や魔法農業公園を巡る便が出ている。駅を含め、この地域全体が魔法開発特区に指定されている。駅ビル内には実験的魔法料理を提供するレストランがあり、ウインドウには各種保険の手書きメニューが貼られていた。料理のメニューはわからない。

「バスには乗らずに行けたっけ」

「はい」

 栗子と響は受験時に来たことがある。

 目指す高校は駅から徒歩で十数分。

「あそこだ」

 白い校舎が見える。

 香甲第二高校はエリート魔法校であったが、外観は普通の学校と違わない。校舎、運動場、プール。学校公式のサイトの写真を見るかぎりでは、非魔法校と同様の設備だ。

 一行は校門の前で立ち止まった。

 梓がスマートフォンのアプリを操作する。響と栗子も覗き込み、大城戸ガラスも帽子の隙間から覗いた。

 見取り図を呼び出す。

 左下に縮尺表示があり、それをもとに概算すると、図示された面積は航空写真や学校公式サイトによる敷地面積を大きく超える。

「正門、通用門、非常階段、非常口、防火扉、非常ベル、スプリンクラー、非常照明、配電盤、放送室、監視カメラ、ダミーカメラ、金庫……細かく書かれてる」

「かんしカメラ」

「金庫って」

『私がいたときはテスト問題が入っておったぞ。今は知らんが』

「このヴラックキューヴって、なんですか」

 響が指差した箇所のみならず、随所に黒の四角マークがある。『3×3×3』の文字がその横に。

 カラスが遠い目をして言う。

『管理教育の悪しき象徴とでも言おうか……忌まわしき装置じゃよ……。だが心配せんでいい。他校の生徒や授業時間外には作動せん』

 今は五月初旬の祝日。授業は行われていない。

「特訓装置かな」

「ああ、授業すごくきついのね」

「姉も、むずかしい実技があると」

 別のアプリも開く。

 姫宮と十六夜からのメッセージがそれぞれ一件。

『見取り図は送信した。いいか一文字。避難経路を把握しておくことが何より大事。潜入がばれたときにいかに速やかにエスケープするか、潜入調査ではこれが重要だ。見つからないように姿勢を低くし、相手を煙に巻いて逃げろ。学校の教え通りにな』

『それ違うから! 学校で教えてるのと絶対に避難経路の使い方違うから! 低い姿勢も煙に巻かれないためだから!』

「避難経路……」

 呟きつつ、素早くスマホを操作する。

「陽動用に壊せそうな窓ガラス、追手の足が置いてある駐車場、駅周辺で隠れて服に迷彩できる場所、行きと別ルートの鉄道路線……。よし、大丈夫。確認したよ」

「何でガチの犯罪計画みたくなってんの」

「古代のある政治家は、こう言っている」

「なんて」

「『備えあれば憂いなし』」

「あんたの頭が心配だわ」

『そろそろ行くかね』

「行きましょう」

 三人は正門から堂々と足を踏み入れた。

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