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なりゆきの遭遇(であい)

 間一髪。

 得体のしれない瘴気に呑まれる前に、梓と響の乗る魔法の箒は道路へ飛び出した。

 響が後方を振り返る暇もなく箒は猛スピードで低空飛行し、旋回する。

 箒の柄に貼られた園内使用許可証が『警告!』と音声を出した。その後には『速度超過です』と続くことになっているが、音声は途切れた。梓が箒を急減速させたからだった。

 低空中で停止状態になった。

「降りて」

「どうしてですかっ」

 響は恐怖に駆られて問い詰める。

「もう、大丈夫だいじょうヴなんですか!? あの人が、あの大きな鳥に食ヴぇられて、鳥が、お腹いっぱいになって?」

「それはあり得ないと思うよ」

「だったら、もっと遠くへ行かないと、追ってきますっ」

 箒が停止したのは救護センター前。怪鳥のいる管理事務所跡地からは近い。事務所が崩壊する前ならば、互いの建物が肉眼で見える距離だ。現に、謎の巨怪鳥のけばけばしいトサカが左右に動くのが見えた。見失った獲物を探しているようでもあり、武者震いをしているようでもある。

「ここで食い止めるんだ。園内にはまだ客がいる」

 梓が先に降りた。操縦士がいなくてはどうしようもないので、響もやむなくそれに従う。

「わたしたちが、やるんですか!?」

「管理事務所がやられているんだよ」

 梓は救護センターの建物内へ早足で進もうとする。

「待ってくださいっ」

 響は追わなかった。相変わらず入口前に立ったまま、事務所跡地の方を見ている。

「あれっ! あれを見てください」

 巨怪鳥の数が増えていた。

 最初の一羽は魔法種であることに疑いのない形状だったが、増えた数羽は自然界に存在するものが巨大化した形状をしていた。もっとも、巨獣ファスコラルクトスと同様というわけではない。増えた三羽の鳥――巨大な鷲、鷹、コンドルは、動く石像なのだ。

石像鬼ガーゴイル……? でも、君は一撃で倒したじゃないか」

 梓は少しの間立ち止まっていたが、また建物内へ進んだ。

「前のときより、多いですっ。それに飛ヴぁれたら……」

 言いつつ、響も後を追う。

 広いフロアの一角に診療所がある。ログハウス調の建材の中に診療設備が備え付けられた様は、どこかの山岳診療所にありそうな光景だ。医師も看護師も常駐していないらしく、いなかった。見える範囲内ではフロアの他の部分も、梓たちを除いて無人だった。

 梓は各階のフロア案内を見つけ、その内容を素早く確認すると空いているエレベーターに乗り、響に言った。

「くるんだ」

「はい」

 梓は四階のボタンを押した。エレベーターが上昇する。

 見るものもないエレベーター内で、響の目が泳ぐ。

「ここに立てこもっても、壊されたら」

「『緊急避難所』の看板もあっただろう?」

「事務所は、もっと頑丈そうでした」

 壊された事務所は鉄筋コンクリート製。一方、この救護センターは木造。

 怪鳥の群れは手足の力では巨獣ファスコラルクトスより弱そうだが、くちばしで突き回されたらこの建物が穴だらけになることは間違いない。支柱が貫かれれば、事務所と同じ運命に見舞われる。

 エレベーターは四階に到着し、二人は降りた。

 廊下を進む。

 響の不安を知ってか知らずか、梓は平然と言う。

「ここの方が頑丈のはずだよ。見かけによらずね」

「来たこと、なかったんじゃ」

「緊急避難所がどういうものかは、学んだから」

 向かう先にあるドア。

 そこにある表示は二つ。『コントロールルーム1』と『緊急時のほか関係者以外立ち入り禁止』。

 今が緊急時であることは、まぎれもない。

 部外者二人は、ためらうことなくコントロールルームに入った。

 窓のない部屋の壁一面に、たくさんのモニタがある。モニタの前には操作用のボタンやレバー、キーボードが据え付けられた座席が並ぶ。

 モニタはそれぞれに役目が割り振られており、電気や空調の状態管理データを映しているものもあれば、各階の各部屋の様子を撮影しているものや、建物の周囲を映しているものもある。

 梓は建物内の映像に目を凝らして、いくぶん満足げに言う。

「よし。誰もいないみたいだ。魔法入力は、これだ」

 机に嵌め込まれた小さな水晶に左手を当てた。小指に炎瑪瑙ファイアー・アゲートの指輪が嵌った方の手だ。

「ナビゲーション、オン」

 ヴオンと音がして、机上に立体映像が生じた。

 小人こびとサイズの男の像だ。

 年齢は二十代半ば。八頭身のスリムな体型に端正な顔立ち。飼育員用の作業着の上に白衣を纏うという怪しい服装センスがなければ、展示用の魔獣より女性客を集めるであろう容姿だ。

『んんんんんんん! 呼んだかなっ? 私の名前は大城戸半平。みん』

「スキップ」

 梓は先を急ぐ。響も「師匠です」とだけ、言った。

『何でも聞い』

「スキップ」

『緊急事』

「スキップ」

『こういうこともあろうかと! 

「スキップ」

『おすすめは』

「スキップ」

『スキップしすぎなんだよ! もうラストになっちゃっただろ! ええい、とっとと適当なボタンを押したまえ!』

「これだ」

 机上のボタンの一つを押した。

『認、証、中ゥゥゥ! 魔力変換補助装置スキャアアアアアンッ! ンンンッンー! 適性があわんが免許はある! 重大な違反もなし! よかろ!』

 さすがに認証過程のスキップはできなかった。予想通りの変な人だ、と梓は思った。

 響が尋ねる。

「何のヴォタン、押したんですか」

「『格闘モード』」

「かくとうモード。ということは、まさか」

「そのまさか。……あれ?」

 コントロールルームが縮小し、余剰座席が排出され、機体パーツが作られて結合……という過程そのものは梓の予想通りに進んだが、その速度が違っていた。妙にテンポが早い。

『ブレイン、クリエイト、アルケミー、ドライブ、各システムまとめて起動ゥ! 熱、磁力、空気、重力、いっぺんに制御開始ィィィ!』

「大丈夫かな……」

「どうなんでしょう……」

 各パーツのあわただしい合体が部屋を大きく揺さぶる。カツーン、カツーン、カツーン、カツーンと、無数の木材が組み合わされ、再構成されてゆく。

『ほれ完了! 高速スタァタップというものじゃよ!』

 モニタの一つにステータスが表示された。

 救護センターは二つに分離され、その片方が、四頭身ほどのガッシリとした体格の木人形になっていた。

 巨大な木人形は頭部に月桂冠のような葉の冠をかぶり、胴体や手足の表面には硬く分厚い樹皮が鎧のような形で現れた。

 頭部コックピットに梓と響を乗せて、木人形が動き出す。

 ナビゲーター・大城戸の像も腕組みして『フ、フ、フ……』と意味深な笑みをこぼした後、大げさな身振りで動き出した。

『さあ、ゆきたまえ! みんなの平和を守るのだ、われらのウッディ・ゴーレム!』

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