後ろめたい選択《ジークside》
目を覚ますと、まだ見なれない部屋が視界に広がる。静かな吐息が聞こえることからまだリトが寝ていて、さらに部屋の暗さから朝陽が昇っていないことがわかる。
完全に目が覚めてしまった。こぼれる溜息は誰にも届かず闇へ消えるが少し落ち着かない。
「…“淡く照らせ”」
仕方なく淡い光を魔力で生み出して一人ボーッと月を見上げる。サーレも寝ているだろうな。
学園について親父から軽く聞いてはいた。貴族が多いが平民も通うことは出来るらしく、度々問題が起きることがあるのだと。
寮父の対応からして差別は根深いように思う。いや、もしかしたら俺以外にはちゃんとした対応をしているのかもしれないが。
ぼんやりと窓に映る自分の顔に手を当て片目を瞑り、瞼の上から撫でる。
「俺だって欲しくなかったさ」
この目で産まれた、それだけでどうして見下されなければならないのか。それはずっと昔、自我を持ち始めた時から思い続けてたもの。
珍しい色、それだけならサーレやリトも同じだ。緑の目と紫の目は選ばれた者とされ、なぜ赤い目は悪魔とされるのか。
不意にリトにされた話を思い出し、立ち上がる。外はほんの少しだけ明るくなってきていた。
備え付けのキッチンにたち、持ち込んだ材料を引っ張り出して並べると深く息をつく。
「食堂の効果をサーレから奪う…ほんと、自分勝手でクソみてぇな発想だ」
自分がサーレよりも魔力がないことはずっと前から自覚していた。その差は今後サーレが食堂を使うともっと開いていくだろう。
どうしてもそれが嫌だった。許せなかった。俺が選んだのはサーレの成長を遅らせるというものだった。
きっとサーレなら受け入れてくれるだろう。気付きはするかもしれないが、それでも受けいれ、仕方ないと笑ってくれるだろう。
甘えている自覚はある。格好悪いだろう。それでも。
それでも俺はサーレの後ろに隠れるだけは嫌なんだ。できるならサーレを背に隠してしまいたい。彼女の世界を俺で埋めて、俺がいなければ生きていけないとさえ思わせたい。
だけど、そうしてしまったならサーレは変わらず俺を愛していると笑ってくれはしないだろう。
優しいサーレは全てを受け入れてくれるだろうが、彼女が輝くのは自由の場だ。
俺なんかが、それを奪うことは許されない。
ただの願望、ただの欲、最低で愚かな行動。
出来る訳が無い。全てを救ってくれたサーレから全てを奪うことなど。
それでも俺には自信など少しもありはしないのも事実。いつだって不安で、いつだって怯えていた。
奪われたくない、無くしたくない、だから選んだのはサーレの力を削ぐこと。
口内に広がる血の味で、唇を噛んでいたことに気付く自分に勝手に笑いがこぼれる。
サーレに美味いものを食べさせたいという名目で、彼女から力を奪う自分の卑怯さを浮き彫りにさせるように陽の光が窓から差し込んだ。
申し訳なさから心臓が酷い音をたてて脈打つ。
出来上がった弁当を包み、包の上からそれを撫でる。
もう俺はサーレを諦められない。愚かでも罪深くとも、なんと言われたところで、それは変わらない。
諦める選択肢など全て消してしまえばいい。
その選択の裏にどんな感情があったとしても、サーレが俺の前から消える選択肢などあってはならないのだから。




