リトが来た理由
「それで、何しに来たんだ?」
集まる視線にうんざりしているのか不機嫌そうにジークがリトを見る。それをリトが「ジーク、表情前よりも増えてきたねぇ」と冷やかしてから勿体ぶった様に“要件”を口にした。
「僕、学園通ってなくてさー」
「は?」
「え?」
どういうことなのかと首を傾げる私達にリトが頬をかいて恥ずかしそうに視線を逸らした。紫の目が少し潤んでいるように見えるのは気の所為だろうか。
「だって学園って寮でしょ?」
その言葉に私もジークも理由が思い浮かび思わず顔を見合わせる。確かに私達にとっては家族や親しい人と離れるだけという寮制だけどリトにとっては変わってくる。
「二人ともわかったんだろうけどさ、寮って距離近いし…尚且つ親元離れた子供の考えだよ? 出来たばかりの欲がさ…こう、ぐちゃぐちゃになるっていうの? 僕らは今まで歳近い子と接するのはパーティー位だったけど…」
「でも在籍はしてるんだろ?」
「してはいるよ、でもやっぱり学園にいる時間が少なくてこのままだと卒業は出来ないってこないだ言われちゃったんだよ」
困っちゃうよねぇーと唇を突き出しながら斜め下をみてあからさまに不貞腐れるリトの頭を軽く、本当に軽くジークが叩いた。
「っへ?」
「馬鹿だろお前」
「うん、すっごい馬鹿!」
「な、なにさ…」
思わず顔を上げたリトの鼻をジークが摘む。気の抜けたような音がリトから聞こえて崩れかけた言葉を気にしながらも笑みは崩す事無く言い切る。
「言う事聞かないのではなくて聞けないんでしょう?」
「…」
「リト、リトのお父様はなんて仰ったの? 」
「好きにしていいって…本当ならレヴェルの側近になるべきなんだろうけど、僕はそれが出来ないし」
どうせお父様のあとも継げないからと続けたリトに私が言う前にジークが口を開く。
「お前も俺達と一緒に入学からやり直せば?」
「、え?」
「俺達に声掛けたってことはそれを考えはしたんだろ」
ジークが呆れたように言うと顔を赤らめてリトが言葉を濁す。ごにょごにょと言い訳を並べてるみたいだけど、いいんじゃないかと思うんだよね。
「婚約者に合わせて入学をずらす方もいらっしゃるし、リトがいても大丈夫だと思うわ」
「でも僕婚約者いないよ」
「そんなこと気にしなくてもいいのよ、貴方がしたいならそうすればいいし、したくないのならいっそ学園を辞めてしまうのだって手でしょう?」
学園で学ばなくても他で学ぶ財力と時間があるんだから、なにも学園に拘る必要は無い。貴族として学園を卒業するのが当たり前とされているってだけでべつに通わなくて罰せられる訳では無いのだ。まだ言いきれないリトを見つめ仕方ないかと今度は私から口を開く。
「そう言えば、子爵家より下の方は相部屋と聞いたわね」
「ああ、そう言っていたな」
「ならジークと同じ部屋でも平気な人が必要よね」
「そうだな」
私とジークはもう同じ考えだろうってことは互いに理解している。だからあえて遠回りな話を振り、二人でわざとらしくため息をこぼしてみた。
「でも周りの反応からして探すのに苦労しそうで困ってしまいますね、ジーク」
「そうだな、サーレ」
「誰かいればいいんですけれどね?」
「都合よく俺が相手でも萎縮しないで罵る事もしない奴なんて見つかるか?」
「さぁ? でも探せばいるかもしれませんね」
「っわかった、わかったよ! 示し合わせたように話進めないでよ、もう!」
リトが顔を真っ赤にしながら。恨めしそうな視線を寄越してくるから私は今度は本心から笑う。
「意地を張るからよ」
「だな」
「もー!」
くすくすと笑う私と、無表情ながら片眉を上げて見せるジーク。顔を赤らめてまだぐちぐちと文句を垂れているリト。
どうやら、私たちは揃って学ぶことが出来そうだ。




