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願うのは笑顔  作者:
第2章 第1節【イージス学園小等部入学】
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夢と歌《ジークside》


 夢…なんだろうな。

 

 楽しげに入寮の支度をしていくサーレを椅子に座りながらみる。あの、耳に残る歌は、夢なんだろう。

 

 でも、あの歌を歌った存在を俺は知らない。というか、俺に子守唄を歌って寝かせようなんて考えの奴もいないんだが、聞いたことも無い歌を夢に見ることがあるんだろうか。

 

 もし、俺が覚えていないだけならあの歌は誰が歌っていたんだ。

 

 「ジーク? どうかした?」

 簡易的なドレスを着たサーレが戸惑いの視線を向けてくる。それに少し力を抜いて、軽く首を横に振った。

 

 「なんでもない、準備は終わりそうか?」

 「そうだねーレペテも手伝ってくれてるから、今日で終わるよ、そしたら明日の朝に送って───」

 

 レペテ。

 ルトゥール。

 エテルネル。

 

 俺は知らないのに。俺のことを知っている三人。神を前にしたかのように俺に(ひざまず)いて頭を垂れたやつら。

 

 『貴方をずっと探していた』

 

 それは、一体いつから?

 

 奴隷の時。悲惨な目にあいながらも泥水を(すす)っても生き残った。どんなに叩かれても逃げることなく耐え続けた。俺は知っていたからだ。

 

 

 この赤い目を持った者に人は何処までも無情になれると知っていたから、商品であろうと心を閉ざした。

 

 「…あのまま終わると思っていたんだがな」

 

 低級奴隷のまま、家畜以下の扱いをされたまま。いつか死ぬんだろうとぼんやりと思っていた。そんな俺の手を取ったサーレは今も思い出せる。そして、美しく成長し続けるサーレの婚約者として隣に立てることがどんなに幸運なことかも十分理解している。

 

 お祖母様は、サーレが与えてくれたんだ。温かな、母の様に愛を注いでくれるあの人は、母になれる程若くはなく、強くもない。

 

 床に()せっても俺に入学式を楽しみにしていると告げたあの人を裏切れない。楽しみにしているあの人にあなたの為に今年は諦めましたなんて言えない。

 

 こんな風に人を気遣うことになるなんて昔は思いもしなかった。そんな余裕もなかったこともあるが。

 

 

 『あなたは忌み子では無い』

 

 エテルネルが俺にレペテとルトゥールを紹介した後にそう口にした。噛み締めるように。ずっとそうしたかったかのように。

 

 『私…エテルネルとレペテ、ルトゥールの三名は貴方を探すためにこの国へ来てこの国の王族に手を出した。その罪の償いは行います、それが終えたならば…サーレ様と貴方様の下へつきたい、それを許してくださいますか』

 

 (へりくだ)って、下から見上げるように、請われた願いを受けいれたのは。守るすべが少しでも増えるならばいいと思ったからだ。

 

 『ジークと、俺は名をもらった。』

 『じー、く?それは、誰が』

 『サーレだ』

 

 大切な人から送られた大切な名。ジークという名を口にした途端三人は唖然としていた。

 

 『聞き間違い、なのかと…もしくはそこまで調べられたのかと思っていましたが…そうですか、彼女がその名を』

 『何を言っているんだ?』

 『…彼女は一体何者なのですか? 貴方を助けてくれたこと、感謝しています、ですが、偶然にしては』

 

 エテルネルはその後口を開くのをやめた。私の気のせいだと思いますと。勝手に結論付けて。

 

 ────“偶然にしては”

 

 出来すぎている、と恐らくエテルネルは口にしようとしていた。思わない訳でもない。悪魔の目を持つ俺が女神の目を持つ彼女に助けられ、見初められ、名を与えられる。地位を与えられ、婚約者となる。

 

 

 なんて、“俺に”都合のいい偶然なんだと。

 

 「ジーク、馬車に付ける家紋もいるみたいなんだけどね、見当たらなくて」

 「ああ、それならたしか」

 

 出会った当初であったなら、まだ諦めもついたろうに。日に日に美しくなるサーレを手放す事も。だけど今は少しも思えなくなっている。

 

 少女から女性へ変わっていく彼女を。

 

 誰にも渡したくないと。

 

 

 『あなたの力は─』

 「…構うもんか」

 

 サーレが探していた家紋を握り締める。力が入りすぎて真っ赤な血がすこし滲んだそれは俺の目と同じ色だった。

 

 

 

 

 

 

 

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