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願うのは笑顔  作者:
第2章 第1節【イージス学園小等部入学】
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子守唄


 

 ───よみか よみか

 

 ──うつろいて とおく とおく

 ──あかのみち とわに とわに

 ──よみか よみか 

 ──ないて ないて 

 

 「…では、本当にいいんですな?」

 「ええ」

 「まさかこの国でこんな子が生まれるとはねぇ…不憫(ふびん)な子だ」

 「いいから早く、人が…」

 「そうでしたね、ここには誰も来なかった、貴女も私もそして」

 

 

 「この忌み子も」

 

 真っ白な髪に真っ赤な目の二歳ほどの子供を抱えて男は歩いていく。真っ黒な髪の女から背を向けて離れていくが。

 真っ白な髪の子供が女に手を伸ばす。小さな手を伸ばし、真っ赤な瞳に涙を浮かべる。それでも男の足は止まらずやがてその姿すら消えてしまう。

 

 「ジーク、愛してる」

 

 その言葉はもう遠くに行ってしまった子供には届かない。女はしばらくそうしてから子供と男の消えた方に背を向けた。

 

 ───よみか よみか

 ───やすらかに

 ───よみか よみか

 ────あなたと とわに

 

 女は口ずさむ。短い間しか共に居られなかった子を思って。

 

 破滅の道を歩みながら。

 

 ────────

 ────

 

 「ジーク?」

 メイドにいれてもらった紅茶を飲んでいれば机に伏せて寝ていたジークが身を起こす。

 

 まだ覚め切らない視線を周りに向けた後に私に視線を固定する。

 

 「…なんか歌ってたか?」

 「なにそれ、歌ってないわよ」

 

 十一歳になったジークは毎日毎日会わない間にもっと男らしくなっている気がする。伏せ気味な視線にどきどきしながら返せばまた机にうつ伏せになるんだけどやっぱりそれすら絵になる。

 「夢でも見てたの?」

 「夢…ね、そういえばテストはどうだって?」

 「合格だって、来月にある入学式よりも前に寮に荷物を運ばなきゃいけないみたい」

 「面倒だな、サーレは平気なのか?」

 

 不意に聞かれた言葉の意味を少し考えてみる。平気ってのは、つまり今までずっと一緒だった両親から離れるのがってことだよね、うん。

 

 「平気だよ? ジークはどうなの? 」

 「俺は違うだろ?」

 「違わないような気がするんだけど…」 

 アルのことを思い浮かべながら言えばジークもアルのことを思い出したのか少し渋い顔をする。

 

 「親父は親父でやることがあるし、俺は俺でやることがある、それを曲げたら意味ないだろ?」

 「うーん、そりゃそうだけど… 」

 アルは領主としての仕事とお父様の騎士としての仕事を両立している。エテルネルを時々仕事に使っているから、多分彼のおかげなところもあると思う。

 

 エテルネルとルトゥールとレペテの三人にジークの父親としてアルの事を紹介した時の反応は凄かった。

 

 レペテは悲鳴を上げたし。

 ルトゥールは唸ってるし。

 エテルネルは納得してるし。

 

 とまあ。そんなことはあってルトゥールは陛下の元で働くことに決まった。レペテは私のメイドになり、今回の学園についてくることになっている。

 

 わけなんだけど…。

 

 「…本当にいいの?」

 「……」

 「お祖母様のこと、アルから聞いたわ、もう幾許(いくばく)もないって」

 

 アルの祖母で、ジークの曾祖母にあたるお祖母様は優しい柔らかな空気を持つ、凛とした人で。この世界では長生きしている方だ。

 

 そのお祖母様の病態が悪化したのは一週間前。一命は取り留めたものの、予断を許さず、常に近くに高位の水魔法が使える医師がいる。

 

 「お祖母様は、俺が行っても許してくれねぇと思う」

 「もう一年遅らせてもいいんだよ? 」

 「…それじゃサーレとの入籍が遠のくだろ、いいんだって」

 

 そういうジークの表情がどうしても言葉と合っているように見えなくて。

 

 でも、私がどれだけ言葉を選んでもきっとジークは頷きはしないんだろう。

 

 何れ高齢の人は亡くなるものだから。いつかはそんな日が来てしまう。それでも、そばにいれないことがどんなに寂しいものなのか。

 

 私もジークもまだ分かってない。だから今本当にどうすればいいのかが分からない。

 

 「支度、しましょうか」

 「…そうだな」

 

 




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