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願うのは笑顔  作者:
第1章 第3節【正しさ】
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闇色の娘レペテ


 闇は彼らと共に常にあった。朝起きた時は光の届かぬ小さな隙間で夜を待ち。夜には彼らが怯えることの無いように優しく包み見守り。獣に脅える時はその獣を深き闇に落とし、守り。彼らと共にあった。

 

 「ルトゥール、大丈夫?」

 「…ああ、いまエテルネルが無事に会場(なか)に入り込んだぜ」

 「そう、時間はどう?」

 「そろそろ王族共が入ってくる頃合いだとよ、エテルネルが女共に囲まれてて笑うぜ?」

 

 顔が焼け(ただ)れた男、ルトゥールがケラケラと目を閉じたまま腹を抱えて笑う。それに黒い髪に黒い瞳の少女、レペテは馬鹿なものを見る目を向けて立ち上がる。

 

 「王族共がでてきたぜ、やっぱりあの女もいる、女に移るから少し待て」

 「準備は出来てる、タイミングは任せる、“とぶ”時一声頂戴。」

 

 レペテの声に軽く頷き、ルトゥールは目を閉じたまま。そしてソファーに腰掛けた状態で不意に横に倒れ込む、だらんと力が抜けていくと、小さな声でその時を告げた。

 

 「とぶぜ」

 「任せて」

 

 レペテは闇と共にあった。エテルネルやルトゥールの方が歳は重ねているが、闇に最も近いのはレペテであり、それを他の二人は確り受け入れていた。

 

 だからこそ、この幼いレペテに全てをかけると言えるほどの大役をまかせた。

 

 レペテにとって闇とは、魔法とは、魔力とは友であった。家族であった。誰に教わらずとも、彼女は闇魔法を使えたし、誰にも使えないような闇魔法を使えた。

 

 「“時はかけり、駆けて欠ける、時に生き、時に死に、時と共に消えゆく”」

 

 長い詠唱だった。王宮の結界を破るほどの強い魔力の乗った詠唱だった。

 

 「“闇よ、救いとならん、その身をもって全てを覆い、隠せ───ダ・ベール”」

 

 小さな彼女はその手を前に祈るように組む。まるで祈りを捧げる巫女のように美しい動作で。

 

 そうすれば闇が勝手に応えてくれる。願った通り、祈った通り彼らにとって心地よい闇が煌びやかな世界を覆い隠す。

 

 真っ暗な視界にレペテはほっとした。レペテの仕事は結界を破壊し闇を広げ見えなくすること。

 

 そして、レティーリアに乗り移っているルトゥールがエテルネルより魔法で作られた剣を受け取り、グランシアノを切る。レペテ達はそうすればやっとレティーリアから解放され、ジークを救い出すことが出来る。

 

 彼らにとってジークとは宝であった。宝で、救いで、彼らがなにをしてでも守らなければいけない存在だった。

 

 「っえ?」

 

 レペテは目の前の光景に唖然とする。美しく彩られた煌びやかな王族用の休憩室。それが視界いっぱいに広がる。

 

 ──────闇に遮られることも無く。

 

 

 「なんで、一体何が解いたの? 光魔法を使える者は全員王都から遠ざけたのよ!?」


 闇を払うのはより強大な光。光を覆えるのはより強大な闇。闇と光は他の属性と比べて別の枠に置かれている。

 

 例えば風で闇は晴れないし、光は遮れない。土では光は遮れるが、一時的なものにしかならず、闇は晴れない。

 

 闇と光はそういうものなのだ。この世界が生まれた神話の時代から。双子の女神が魔法を生み出した時から。

 

 だからこそ彼らも光属性持ちのことはよく調べたし、特殊な手によって彼らを誘い出すことも成功した。自分たちに気づきそうな魔眼持ちも目を潰しておいたはずだ。

 

 ならばなぜ、誰がどうやって。

 

 唖然とするレペテの向かいで倒れるように目を閉じていたルトゥールが目を開けて、勢いよく立ち上がる。

 

 そしてレペテの手を引いて部屋から逃げようとする。

 

 「ちょっとどうしたの!?」

 「嵌められた! エテルネルが捕まりやがったんだよ!」

 

 悲鳴にも近いルトゥールの言葉にレペテは息を飲む。王族を傷つけたものは総じて死刑と決まっている。例外は同じ王族の場合だ。だからこそ彼らはあの女自身も使うと決めたのだから。

 

 「そんなに、急がなくたっていいだろう?」

 

 扉を開けて走り出そうとした二人に後ろから声がかかる。冷たい、無機質な、殺意だけが乗った声が。

 

 

 

 

 

  

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