闇色の娘レペテ
闇は彼らと共に常にあった。朝起きた時は光の届かぬ小さな隙間で夜を待ち。夜には彼らが怯えることの無いように優しく包み見守り。獣に脅える時はその獣を深き闇に落とし、守り。彼らと共にあった。
「ルトゥール、大丈夫?」
「…ああ、いまエテルネルが無事に会場に入り込んだぜ」
「そう、時間はどう?」
「そろそろ王族共が入ってくる頃合いだとよ、エテルネルが女共に囲まれてて笑うぜ?」
顔が焼け爛れた男、ルトゥールがケラケラと目を閉じたまま腹を抱えて笑う。それに黒い髪に黒い瞳の少女、レペテは馬鹿なものを見る目を向けて立ち上がる。
「王族共がでてきたぜ、やっぱりあの女もいる、女に移るから少し待て」
「準備は出来てる、タイミングは任せる、“とぶ”時一声頂戴。」
レペテの声に軽く頷き、ルトゥールは目を閉じたまま。そしてソファーに腰掛けた状態で不意に横に倒れ込む、だらんと力が抜けていくと、小さな声でその時を告げた。
「とぶぜ」
「任せて」
レペテは闇と共にあった。エテルネルやルトゥールの方が歳は重ねているが、闇に最も近いのはレペテであり、それを他の二人は確り受け入れていた。
だからこそ、この幼いレペテに全てをかけると言えるほどの大役をまかせた。
レペテにとって闇とは、魔法とは、魔力とは友であった。家族であった。誰に教わらずとも、彼女は闇魔法を使えたし、誰にも使えないような闇魔法を使えた。
「“時はかけり、駆けて欠ける、時に生き、時に死に、時と共に消えゆく”」
長い詠唱だった。王宮の結界を破るほどの強い魔力の乗った詠唱だった。
「“闇よ、救いとならん、その身をもって全てを覆い、隠せ───ダ・ベール”」
小さな彼女はその手を前に祈るように組む。まるで祈りを捧げる巫女のように美しい動作で。
そうすれば闇が勝手に応えてくれる。願った通り、祈った通り彼らにとって心地よい闇が煌びやかな世界を覆い隠す。
真っ暗な視界にレペテはほっとした。レペテの仕事は結界を破壊し闇を広げ見えなくすること。
そして、レティーリアに乗り移っているルトゥールがエテルネルより魔法で作られた剣を受け取り、グランシアノを切る。レペテ達はそうすればやっとレティーリアから解放され、ジークを救い出すことが出来る。
彼らにとってジークとは宝であった。宝で、救いで、彼らがなにをしてでも守らなければいけない存在だった。
「っえ?」
レペテは目の前の光景に唖然とする。美しく彩られた煌びやかな王族用の休憩室。それが視界いっぱいに広がる。
──────闇に遮られることも無く。
「なんで、一体何が解いたの? 光魔法を使える者は全員王都から遠ざけたのよ!?」
闇を払うのはより強大な光。光を覆えるのはより強大な闇。闇と光は他の属性と比べて別の枠に置かれている。
例えば風で闇は晴れないし、光は遮れない。土では光は遮れるが、一時的なものにしかならず、闇は晴れない。
闇と光はそういうものなのだ。この世界が生まれた神話の時代から。双子の女神が魔法を生み出した時から。
だからこそ彼らも光属性持ちのことはよく調べたし、特殊な手によって彼らを誘い出すことも成功した。自分たちに気づきそうな魔眼持ちも目を潰しておいたはずだ。
ならばなぜ、誰がどうやって。
唖然とするレペテの向かいで倒れるように目を閉じていたルトゥールが目を開けて、勢いよく立ち上がる。
そしてレペテの手を引いて部屋から逃げようとする。
「ちょっとどうしたの!?」
「嵌められた! エテルネルが捕まりやがったんだよ!」
悲鳴にも近いルトゥールの言葉にレペテは息を飲む。王族を傷つけたものは総じて死刑と決まっている。例外は同じ王族の場合だ。だからこそ彼らはあの女自身も使うと決めたのだから。
「そんなに、急がなくたっていいだろう?」
扉を開けて走り出そうとした二人に後ろから声がかかる。冷たい、無機質な、殺意だけが乗った声が。




