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願うのは笑顔  作者:
第1章 第3節【正しさ】
75/143

裏側の彼等


 時刻は少し(さかのぼ)り、とある一室にアルが一人剣を手にして立っている。

 

 「…はぁ」

 

 深い溜息を零しながらつまらなそうな彼が不意に顔を上げると、そこに居たのはこの国の王、ハラールだった。

 

 「すまないな、アルヴァルド」

 「…いえ」

 「相変わらず愛想が無いな…そんなに近衛騎士にさせようとしたのを恨んでたか?」

 「ソンナコトナイデスヨ」

 

 君は面倒事が嫌いだからなぁとハラールが呟きながら既に置かれていて冷め切ってしまっている紅茶をゆっくりと飲み下す。

 

 「折り入って頼みがある」

 「嫌です」

 「聞く前に断るんじゃない、王だぞ」

 「…聞いた上で断ることは」

 「出来ないな、極秘情報だ」

 

 与えられない拒否権にアルはうんざりしたようにゆっくりと首を縦に振った。それをハラールは嬉しそうに目を細めて紅茶を飲んでいた手を止め、組んだ足の上で指をからめて勿体ぶったように口を開く。

 

 「結界が破られるそうだ」

 「…どこのですか?」

 「ここのだよ、アルヴァルド」

 「っ王宮の結界を破るなんて一体どこの国が!」

 思わず叫んだアルを咎めることなく、ハラールは続けた。

 

 「身内さ、恐らくレティーリアだろうな」

 「なにを…」

 「グランを殺せばレヴェルが王になれると思いこんでいるんだよ、実に情けないことに側室でありながら暗殺を計画しているようでね」


 嫌な予感がゾワゾワと背中を撫ぜる。どこかひんやりとした空気にいつの間にか止めていた息をゆっくりと吐き出した。

 

 「…それで私に一体何をさせようというのです?」

 「簡単さ、実行犯は複数の様でね、会場に現れる者はこちらに手がある、君には隠れた実行犯を見つけて欲しいんだ、そしてそれとなく監視して欲しい」

 「見つけ次第捕えなくていいと?」

 「泳がせ、グランが襲われたあとに捕らえろ」

 

 さも当たり前のように口にするハラールにアルは頬が引き()るのがわかる。元々愛想笑いが苦手な彼が最も苦手とする陛下(ハラール)直々の命令。

 

 レルムと同じように自分の子を愛していることは違いないが、やはり王族だからか何処か冷たい所もあった。

 

 「グランシアノ王子の安全は…」

 「グランは賢いだろう、レヴェルの為だからと納得し、案まで出してきたよ」

 「…」

 「酷いと思うだろう? だが、レティーリアの罪を明確にしなければ痛くも無い腹をつつかれかねない、それはとても煩わしいし、なにより情報の精度が知りたい、頼めるか」

 

 ハラールの言葉にアルは目を伏せて、そしてゆっくりと目を開く。

 

 冷ややかな感情の乗っていない目を見てハラールは笑う。これだから私はこの男が欲しかったのだと。

 

 

 けれど王が近衛騎士にと命令をした所でアルが頷くことはなく、強制したところでいつか手酷く噛まれるだろうなと考えるまでもなく分かりきっていた。

 

 この男を見出したのがレルムではなくハラールだったなら、アルヴァルドの人生は全く違ったものとなっていただろう。

 

 レルムに見出されたのはある意味アルに取って、幸せだったのではないだろうか。

 

 一気に存在が薄くなったアルの向こうに怒りを抱き剣をとった先の戦争をハラールは思い出し、そして一人誓った。

 

 

 ────グランシアノやレヴェル達に同じ想いはさせない。それがたとえ妻に迎えた存在を終わらすことになったとしても、(ハラール)にとって、血の繋がりとはとても大切なものだった。

 

 

 

 

もう少しで長かった第1章が終わります

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