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願うのは笑顔  作者:
第1章 第3節【正しさ】
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逆鱗《レルムside》


 

 サーレ達を見送り残った部屋で、肌を刺激する程の魔力に体の芯が悲鳴をあげる。

 

 …サーレと話している時の陛下の目がどうしようもなく恐ろしかった。陛下が嫌う様な性格はしていないから見守るだけにしていたが───。

 

 

 『陛下はレティーリア様を罰するためにそれを黙認したのではありませんか?』

 

 あの、サーレの言葉の瞬間陛下の目が変わった。悪い意味じゃない。良い意味でもない。止めなければいけないと本能でサーレの腕を掴んだ。

 

 だがサーレは止まらず、結局陛下がおれて何事もなく済んだように見える。

 

 「レルム…」

 ターニャが私の名を小さく呼ぶ。大丈夫だ。と返す。

 そう、大丈夫。大丈夫な筈なんだ。

 

 「レティーリア」

 サーレは陛下に嫌われた訳では無い、寧ろ気に入られた(・・・・・・)

 

 「私が本当に許すと思っていたのか?」

 そしてレティーリア様は…陛下の逆鱗に触れた。なぜあの人はわからなかったんだろう。なぜあんなにも人の心を…陛下の心を無碍(むげ)にできたんだろう。

 

 「は、らーる…さま」

 「貴女が嫁いでくる時私はなんと言った?」

 「それは…」

 「これだけは絶対に破ってはならないと、なんと言った」

 「人の、命を弄ぶ行為…です」

 

 陛下は揺らがない。私は陛下が揺らいだところを見たことがない。

 

 『私が王になる』

 

 ほかの王子達の骸を前に陛下は微笑んで私に言った。先王がどれだけそれを否定しても折れず、前を向き笑ってみせた。

 

 『貴方のおかげですよ、父上』

 

 長兄でありながら、王妃の血を継いでいながら、王になる権利を奪われた陛下。そして、その隣で前を向くことを決めた奴隷の世話係。

 

 「グランが死ねばレヴェルが王に? 馬鹿馬鹿しい発想だ、本当に」

 「私はそんなことは」

 「してはいないと? リトがレティーリアの中に闇色を見たそうだ、飼い犬に手酷く噛まれたようで心中察するよ」

 

 …ただではつかわれなかったということか。あのジークを助けに来たという男。死んでもいいと本気で思っていた目だった。そして陛下に許しが与えられようとも他の仲間のことを一切口にしなかった。

 

 

 素直に話す? どこがだ。

 きっとあの男は腕を切り落とされた所で口を割らない。どれだけ痛めつけたところで仲間を守る気だった。

 

 陛下もだから彼に許しを与えたんだろう。この人は良くも悪くも真っ直ぐなモノが好きだから。

 

 「でもそれは子供がみたことで、そうです…そうですよ! きっと彼は見間違えたんです! 彼がみたのは──」

 「私だったと?」

 「スティニアぁぁっ」

 

 レティーリア様がおぞましい表情をスティニア様に向ける。それを冷たい目で一瞥しスティニア様がゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 「貴女は子のことを少しも口にしないのですね」

 「なにをっ」

 「関係の薄いはずの女神の瞳の娘ですら、レヴェル達のことを心配していたと言うのに、本当にあなたという人は…いつまで親にならないつもりなのですか」

 

 スティニア様は。陛下に嫁入りする際、伯爵家の養子となり、名を変え、王妃の座に就いた。

 

 「親を亡くした気持ちは私もわかります、故郷を奪われた気持ちもわかります…でも貴女が自分の子に同じことをしようとする気持ちは分かりません」

 「同じ…きもち」

 「若くして異国に嫁いだ貴女が陛下を愛するのも、母国を亡くし陛下に依存するのも納得出来ましょうが、陛下にそれ程までに執着するのならばなぜ! 奴隷になぞ手を出したのです!」

 

 変える前の名はマラル。何も無くなってしまったただのマラル。彼女は陛下の柱だった。彼女が王になれないはずの王子に王になる未来を与えた。

 

 「レヴェルとレティシアは貴女と陛下の子…親の貴女が罪を犯したらあの子達はなんと呼ばれるか…どんな目で見られるか本当にわからないのですか」

 

 スティニア様は母として、陛下は王として、誇りとしていた逆鱗に彼女は触れたのだと、どうしてもっと早く分からなかったのか。

 

 「レティーリア、お前は塔へ送る」

 「っ」

 「レヴェル達のためにもお前は殺せない…だが。もうこの国からお前の名は消える」

 

 分かっているなと無言の言葉が聞こえてくる。王位争いとしては特に珍しいことではない。殺して殺されて。それが露見するかどうか。

 

 だが。それすらも陛下が思い描く未来(さき)には必要の無いもの。

 

 王位継承権剥奪。それの裏に隠された思いを彼女が少しでも知れていたならあるいは────。

 

 

 もう、終わってしまったが。

 

 レヴェル王子やレティシア王女の隣で笑う、彼女の姿を見ることが出来たのかもしれない。

 

 

 「わか…りました」

 

 

 その日、レティーリア側室妃が病に倒れたと国中が知ることとなる。そして、彼女が亡くなったという知らせもしばらく後に流れ、彼女が一生を塔で過ごすことが決まったこの日を、大人になった子供たちはどう受け取るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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