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願うのは笑顔  作者:
第1章 第3節【正しさ】
69/143

交渉


 

 

 「…お父様、お母様」

 口を開く。言ってはいけないとわかっていても口を開いて理想をはきだす。

 

 「この男とその仲間…助けることは出来ませんか?」

 その発言に誰よりも先に反応したのは縛られた男…エテルネルだった。

 「貴女に私を救う理由なんて無いはずだ! 私も頼んでいない!」

 「でも貴方はジークを助けに来た! 国を敵に回したってジークを助けようとしてくれてた!」

 

 誰が襲撃者だったか、ゲームでは明かされなかった。でも。売られたジークを助け出した人の名前も出ることも無かった。

 

 「どんな理由であれ、彼は許されないことをしたんだ、サーレ」

 お父様が悲しそうな顔で私に言い聞かせる。それでも私は。

 

 「リトとグランシアノ王子、二人を傷付けたのは事実です…もう取り返せない罪です、ですが!」

 

 彼等がどれだけジークを思っていたか知っている私は彼を見捨てる選択ができなかった。ゲームの中で憎まれ死を望まれた彼を唯一愛し信じ死なせまいと命をかけて戦った彼らを救いたいと思ってしまうんだ。

 

 「なら、サーレ」

 陛下が口を開く。私の名前を出して。

 

 「私を説得してみせなさい、その男を助けて私になんの得がある?」

 「…そこに捕らえられている男と監視を受け入れたレヴェル王子、私たちよりもずっと幼い王女は再考の余地があります」

 「私が聞いていることをはぐらかしてはいけないよ、サーレ…希望を言ってもそれは希望でしかない、叶えるには自分で足掻くしかないんだ」

 

 優しい目を向けて陛下は残酷な事を言う。でも、その発言が何よりも正しいと知っている。私は子供だけど子供じゃない、我儘を言っているということはわかっている。前世と今世の世界の基準や法は全くの別物で、本来なら私が口出しできるものでもないんだろう。

 

 そう考えると、やっぱり陛下は優しいんだ。きっとレヴェルのこともちゃんと考えている。

 

 「…リトの件、私は襲われることを知っていました」

 「宰相から聞いているよ、君は光とともに現れたと」

 「グランシアノ王子が襲われることも知っていました」

 「私に前もってその情報をくれたね、だからてっきり私は君が未来を見ることが出来る力を持っているかと思っていた…けど、君は襲撃した犯人とレヴェルの今に誰よりも動揺している」

 

 そう。動揺した。私の知らない状況へ進んでしまっているから。

 

 「私に未来を見る力はありません、あったならもっと上手くやっていたでしょう」

 「では?」

 「でも私は私だけが知れる情報源がある」

 

 陛下が微笑む。先を話せと。

 

 私はこの人は信頼できると思っている。こんな小さな私の言葉を逃すまいと耳を傾け、子供だからと侮ることも無く、対等な会話をしてくれている。

 

 「本来であればリトは目を失い、この国は貴重な魔眼を失っていました。グランシアノ王子の件は狙われているとわかっていても陛下はパーティーを行った、リトの件は回避できなくてもグランシアノ王子の件、回避出来たはずです、でも陛下はそうする必要があった」

 「それは何故?」

 「…陛下はレティーリア様がグランシアノ王子を殺そうとしているのを知っていたんですよね」

 

 言葉が重い。まるで鉛のように重くて、口にするのに酷く緊張する。この人を説得する。しなければ救えない。しなければ助けられない。

 

 「陛下はレティーリア様を罰するためにそれを黙認したのではありませんか?」

 「サーレ!」

 

 お父様が私を止めようと肩を掴み名前を呼ぶ。それでも私は止まれない。止まることを陛下は認めない気がしたから。

 

 「彼らは奴隷を助けに来た、陛下が黙認しなければ彼等がこうして王子に手を出すこともなかった…違いますか」

 「そうかもしれないね、でもそれは質問の答えになっていないよ、ただの想像の域を出ていないからね、糾弾(きゅうだん)するだけではなく対価を言ってごらん」

 「私が持つ光魔法の知識を」

 

 陛下が意外そうに目を瞬く。

 そしてそれだけかと首を傾げたので私はにっこり笑う。

 

 「今回のグランシアノ王子の治療のお代、情報提供の報酬、光魔法の知識、それら全ての報酬としてそこの男とその仲間の命とレヴェル王子と王女の解放を願います」

 「足りると思っているのかな?」

 「陛下も加担していたところがある筈です、その責任をとって少しまけるくらい惜しくないでしょう? …それに、転移の魔法…知りたくありません?」


 陛下が面白そうに笑う。笑って必死に話していた私の頭を柔らかく撫でる。

 

 「意地悪しすぎたな」

 「そうですよ、父上」

 

 柔らかで優しげな陛下の声によく似た落ち着いた声がかかった。グランシアノが、目を覚ましたようで、陛下も私もグランシアノに目を向ける。

 「私が襲われることは想定内でしたし、こうして傷も残ることなく治してもらえた、王族に名を連ねるものが奴隷の売買に手を貸したことが根本的な原因…レヴェルの件も元々あの子を解放するためでもあったんでしょう父上? 光魔法の知識と転移魔法の知識、それ以上貰えばむしろ取りすぎです」

 

 ため息をこぼしながら身を起こすグランシアノを慌ててキャロリアンナが支える。

 

 「初めましてサーレさん、キャロリアンナの件、ありがとう…私の傷の件もね? そこの男の命は別に私は欲しないから自由にさせないなら連れて帰ってもいいよ」

 「グラン…」

 「年甲斐もなくはしゃいじゃって…そんなんじゃレヴェルとレティシアに嫌われますよ」

 

 ただでさえ苦手意識持たれてるのに。と小さくグランシアノが呟けば気まずそうに頬をかいて陛下が改めて男に向き合う。

 

 「ということだ、王として、君の危険な力は自由にはできないが、救いたかった子を救っていたサーレの部下になると神の名に誓えるのなら、君とお仲間の罰は数年私の仕事の手伝いで許してやろう」

 

 「…殺されると思ってましたけど」

 

 「まさか、君を殺したら将来有望な子供達にそっぽ向かれてしまいそうだし、素直に従うなら良し、従わないと言うなら…諦めて殺すが」


 どうする?と問いかける陛下にエテルネルは諦めたように息を吐いて。私に目を向ける。

 

 「感謝します、女神の瞳を持ちながら忌み子である彼を守ってくれたこと」

 「私はジークが好きだから好きだと言っているだけです、ジークを守るのも好きだからです…そこに女神の瞳も悪魔の瞳も関係ありません」

 

 エテルネルがそうですかと柔らかに笑ってどうやったのか縄を切って立ち上がる。

 

 「貴女に忠誠を」

 

 そして私の前に跪いて(こうべ)を垂れると忠誠を口にする。私の足の甲に口付けをして…立ち上がりにっこりと微笑むエテルネルの足をジークがグリグリと踏んでいた。

 

 「サーレに何してるんだよ」

 「じ、ジーク今までの話聞いてた?」

 足の甲にキスするのは隷属の意味だよ!? 落ち着いて!

 

 慌ててそれを止めれば踏まれてる本人はとても楽しそうに笑っている。少し心配になりながらも守れたのだとほっと息を吐いた。

 

 

 「じゃあ、子供たちはレヴェルの部屋に行ってくれるかい? きっと暇してるだろうし後始末を考えるのは大人の役目だからね」

 「私も行きます父上、レヴェルの事だから落ち込んでるだろうし」

 「そうしてくれ、グラン…そっちは頼んだ」

 

 有無を言わさず部屋から出される。グランシアノ王子もキャロリアンナもリトも、私とジークと同じように部屋から出され、おまけのようにエテルネルも出される。お父様とお母様は残るらしい。

 

 「そういえば名前は?」

 廊下を歩きながらグランシアノ王子がさっき自分を切ってきた犯人へのほほんとした笑みを向ければ困ったように笑って「エテルネルとお呼びください」と答える。

 

 「エテルネルね、わかった」

 「エテルネルが僕の目を切りに来た犯人じゃないでしょ? ほかの仲間はどこにいるのさ、僕の件は当事者がちゃんと謝れば許すよ? 厄介な力を使える人に恩を売れたと思えば怪我したかいあったかなー」

 

 リトがそんなことを言えばエテルネルは本当に困ったように笑って上を指さした。

 

 

 「天井裏に居ます。二人」

 「…なんだか、ネズミみたいね」

 「まぁ、暗闇は私達にとって住処みたいなものなので…」

 

 落ち着くんですよ、とエテルネルが笑ったのを私たちは揃って首を傾げた。

 

 

 

 

 

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