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願うのは笑顔  作者:
第1章 第3節【正しさ】
57/143

踊ったことはあるか《???side》


 

 しゅるりとネクタイを締めて隣で林檎(りんご)を食べる片割れに目を向ける。

 

 「どうでした?」

 「汚ぇ目だったよ」

 「そうではなくて」

 

 聞きたいのはそうじゃないと言えば焼け(ただ)れた顔を私に向けてその顔でニヤリと笑う。

 

 「“種”は消えた」

 「…消えた? 光を使う者はもうこの街に居ないはずだが」

 「知らんね、それは俺の仕事じゃねぇ…でも楽しかったぜ、恵まれた人間が大切な者に傷つけられる様は」

 

 けたけたと緩んだ口から林檎の汁を垂らしながら笑う相棒かたわれに目を細める。楽しそうにしているのを見るとここまで来たことも報われる気がする。

 

 「ルトゥールは踊ったことはあるか?」

 「はぁ? あるわけねぇだろ、この面だぞ。 おめぇの綺麗な面とは違うこの面で誰が踊るってんだ」

 「──そうか、そうだよな」

 

 私はくすくすとルトゥールの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。その時感じた魔力は減っており、心做(こころな)しかルトゥールの目に疲れがあるようにおもう。

 

 「踊ったことなど私にもないさ」

 「人のこと言えねぇじゃねぇか」

 「そうだな、ルトゥール」

 

 お前は

 

 「この先の答えを知っているか?」

 「…エテルネル、てめぇが知らねぇことを俺が知るわけねぇだろ」

 

 爛れた顔をつまらなそうに歪ませ、また林檎に齧り付くルトゥールに確かにとは思うが違う答えが欲しかったとも思う。

 

 「お前も私も変わらないよ」

 「目、腐ってんじゃねぇの」

 「腐っているのかもしれないな」

 

 ああ、でも

 

 「腐っているなら生まれた時から…ということはお前の目も腐っているのかもしれないな」

 「喧嘩売ってる事はわかんぞ、死ぬか」

 

 食べかけのリンゴをこちらに投げてくるのでそれをシャツに汁が飛ばないように受け取る。

 

 「事実だろう」

 「……嫌味なやつだよほんとおめぇ」

 「褒め言葉か」

 「(けな)し言葉だ」

 「良く貶しという言葉を知っていたな、偉いぞルトゥール」

 「……うっせぇ死ね」

 

 ご立腹な相棒に目を細めてから先程から寝こけている“もう一人”の相棒に声をかける。

 

 「もう、起きたらどうだ、そろそろ時間だぞ」

 

 ゆっくりとソファーから顔を上げ、目を私に向けてくる存在に微笑みを返す。

 

 「全ては王のために」

 「「全ては王のために」」

 

 消える命がどれだけ幼くとも手を止めはしない。どれだけ非道だと罵られてもかのお方にしたこの国の罪はとても重い。

 

 「ああ、実に今日は──」

 

 

 良い日だな、我が友よ。

 

 

 遠い日の彼女が嬉しそうに笑っている。もう戻らぬ者ではあるが、任されたものは確かにあったと言うのに。少しの罪悪感と共に、進むしかない。

 

 「準備は出来てるわね?」

 

 扉越しにかけられる声に私は笑みを消して返す。

 

 「えぇ、とっくに」

 

 全ては王のために。

 ───女の手を取ったのだから。

 

 


 

 

 

 

 


  

 

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