この目は優しさだった《リトside》
────お母様は、僕が嫌いだと否定しても僕をその紫の瞳に映してただ微笑んだ。
僕の感情がドロドロに溶けてお母様に醜い姿を見せているのにお母様は僕にいつも汚いだけじゃないのと笑ってた。
───分かってたんだ。
僕があの商人に会うまで人の汚さに叫ばなかったのはお母様が僕の周りに優しい人だけを置いてくれてたから。
分かってたんだ。
本当に怖い人はお母様が遠ざけて、汚くても僕に害を起こす人を寄せなかったのを。
お母様が僕の代わりに沢山の欲望を受け止めて僕のことを守ろうとしてたのも。
お母様の魔力が僕を優しく守ろうとしてたのも、僕のことを大切に、そして。
───こんな目を引き継がせてごめんなさいと謝ってたお母様の言葉も。
夜になるとお父様に謝罪と僕らを捨ててもいいと言ってたのも。お父様がそれを許可しないで、僕とお母様を絶対に守ると言ってたのも。
聞いた、見てた、香ってた。
耳を塞いで、目を閉じて、逃げ出して。それら全てを否定した。
辛かったから、もう嫌だったから二人が悪いんだって押し付けて。
僕自身が否定したものに僕の魔力がなってしまっていると知っていても目をそらしてた。
「リト、見える?」
サーレが僕の目元から手を離して僕のことをじっと見る。
柔らかなサーレの魔力が怯えるように震えていた。
「やっぱり君の魔力は素直だ」
それ位僕の魔力も素直であったならお母様は笑って逝けたのかな。
『リト、人は汚いだけじゃないのよ』
うん、汚いだけじゃない。それら全部ひっくるめてその人なんだ。この目は僕を守ろうとしてたんだきっと。
怖いものを人よりも早く教えてくれる。
近寄らない方がいいことを教えてくれる。
僕を危険から遠ざけようとしてくれる。
でもそれだけじゃなくて魔力が人の優しさをより教えてくれる。人の綺麗な感情を伝えてくれる、その時の色は何よりも美しいんだよ。…お母様もお父様もこの目も全部本当は大切だった。
汚いものばっかり見えるのは、僕が汚いものばかり見てたからだ。汚いからってそこで見るのをやめたから、それしか見えなかったんだ。
「リト?」
サーレが不思議そうな顔をしてる。お父様も、ユミルも、護衛の人も不思議そうで、ジークだけは僕の考えてることがわかるのか少し目を細めてた。
きっと僕は笑ってる。嬉しいんだ。嬉しいんだよ、お母様。僕はこの目が有ったからサーレとジークに会えた。この目だったから友の役に立てる。
貴女の子だったから、この誇らしい力を引き継げた。
『ごめんなさい、リト』
床に伏せるお母様の最後の涙を思い出して、ぽろりと口から零れる。
「謝らないでいいんだよ」
お母様も、サーレも、お父様も。
みんなの魔力が教えてくれるんだ。
いつだって。僕が好きだって。
「僕は力になれる?」
「…もちろんよ、リト」
サーレがぎゅっと僕を抱きしめてくれる。温かな腕の中でジークを見れば少し怖い顔をしていて、本当に素直な友人達にまた笑った。
怖かったよ、痛かったよ、憎かったんだ。でも僕だから出来るならそれは誇れるものだよね。
だから仕方ないなぁって笑えるよ、許せるよ。じゃなきゃ僕の大切な人たちが笑えないでしょう?
ね、お母様。
もう僕、逃げないよ。この目で守るんだ。お父様も、ユミルも、サーレも、ジークも。他の皆も。
お母様がしてたように。




