花は美しく咲いては散った
────お母様達と軽食を食べている時だった。
私の手の甲とジークの手の甲が淡い光を灯し始めた。頭に浮かぶのは同じ花を持つリト。
「サーレ、これは…」
お父様が怖い顔をして私を見てくる。私はただジークを見た。
聞こえてくる。この花から伝わってくる。リトの気持ち、リトの怒り。
私は分かっていた、分かっていて彼を見送った。彼が大人になるまでずっと悪夢に見続けたものを、知っていて見ないふりをした。
「ジーク、私は行くよ」
「俺も行く」
「ジークには何も出来ないのに?」
ジークは口を閉じ、少し考えてから再度口を開いた。
「俺には何も出来ないかもしれない、でも…サーレは俺を守るために必要なことだってリトに言っていた、ならリトに起こったことは俺にも起因してるかもしれない、だったら俺も行って知らなくちゃならない」
それにと続けてジークは困ったようにお母様とお父様を一度見てぎゅっと胸元を握りしめ、綺麗に着飾った胸元がシワを作る。
「伝わってくるリトの気持ちが痛いんだ、リトは俺のこと忌み子じゃないって言い切ってくれた、家族以外で初めての存在で、初めての友人だ……何も出来ないって分かってる、でも俺はリトのとこに行きたい」
私は席を立つ。サンドイッチのパンくずを払って、わけがわからない様子のお父様達の視線の中、ジークに手を伸ばした。
「行こうジーク、リトの所へ」
「ありがとう」
差し出した手をジークが取って私は口を開く。
お父様たちは置いてけぼりだ。私はこの魔法を見せたことがない、きっと怒られるだろうし、私がしたことは最低な行為だ。
「“光よ、誓花へと連れていって───転移”」
「っサーレ?!」
私の最後の言葉を聞いたお父様が大きな声で私を呼んだ。私はただ目を伏せるしかできなかった。
守るため、犠牲を生んだ。それでも守ると決めたんだ、償いや後処理は手を抜けない。
リト、ごめんなさい。
貴方の目を利用する為に行った行動は最低で残酷で。中身が大人な私が小さな本当の子供であるあなたにすべきじゃない事だ。
必要だったのというのは、言い訳にしか聞こえないだろう。少しの浮遊感の後私とジークはどこかに降り立った。
私たちがさっきいた部屋によく似た部屋で、でも違うのが床が真っ赤に濡れており、真っ赤になったメイドが泣き顔のまま私を見て唖然としていた。
彼女だけじゃない護衛も、その護衛対象の宰相も。
この惨状の中心であるリト以外は唖然と私を見ていて。
件のリトは真っ赤な手でメイドの手を握り、空いた手で目元を覆っていた。綺麗な髪も血でベトベトになり、痛々しい傷が見えて胸が締め付けられる。
「サーレ、いらっ、しゃい」
「その状態で歓迎の言葉が言えるのね…」
「そうでも、しないと…意識が飛びそうなんだ…。ジークも…いらっしゃい」
「…あぁ」
ジークが私と握ったままの手に力を込める。痛いくらいなその強さが今は心地よかった。
ドクドクとうるさい心臓を無視して私は目の前のリトの姿をしっかりと目に焼き付ける。
────私がしでかしたことの結果をしっかりと受け入れなきゃいけないから。
「サーレ嬢…?」
宰相が確認するように私の名を呼ぶ。私はそれを無視してジークの手を離してからリトへと歩いていくことにした。
───ぴちゃんと血が音を立てる。
歩く度に血が靴の裏を濡らして、それでも私は歩みを止めない。
私の髪がゆらりと揺れる。ふわふわと風もないのに揺らいで少し光を纏う。
「“聞こえるかしら”」
リトの目元に手をゆっくりと当てた。痛みでリトがたじろいでそれにゆっくり私は目を伏せる。
「“癒しの花よ、水はたっぷりあげるから、傷を穢を吸い上げて花を咲かせてね───カペヒリム”」
魔力が抜けていくのは感覚でわかりはするけど、こういうのは何回やっても擽ったくて慣れない。次いでやってくる倦怠感にうんざりしながらもホッと息をつく。魔法は無事発動したらしい。
私の手の下から…リトの目元から花が咲いていく。光の花だ。金色でたくさんの。見覚えあるものや無いものも象ったそれらは私の手から零れるように咲いては散っていく。
《君が願うなら》
最後の花びらが粒子となり掻き消える中、聞き覚えのある声の嬉しそうな呟きが聞こえた気がした。




