心の痛み、体の痛み《リトside》
コツコツと足音を立てながらユミルの姿の誰かが剣をゆらゆらと揺らしながらやってくる。
「憐れよナ、このムスメも…オマエの従者でアったタめに死よリも辛イこトが待ツ」
「死ぬより辛い…?なにを…」
「ワカらナイ? 決まっテルだろゥ?」
コツンと足を止め首をかしげると不思議そうな顔をしてからまた笑う。
「主を傷つケた罪ダよ」
魔力は教えてくれる。いつも僕に。僕が否定する僕のこの目が。
「見ェてル癖に、ほんト見なイふリが好きダナ? リストマ・メシェル・バサールハ?」
だから僕はずっとずっと分かってた、本当は知っていた、何をしたという問いかける意味は僕が縋りたかっただけなんだ。
間違いであって欲しかった、この目に見えることが。
「外道めっ」
「はァ、心地いイ憎しミだ、ヤハリ、この娘ヲ、オマエの場所ヲ選んデ正解だったヨ」
ユミルの顔で頬を赤らめ頬に手をやり恍惚としている存在に吐き気がする。
「わカってルだろ、見ェテルんだロ? その汚イ気持ち悪イ目でさァ?」
「黙れっ」
「こノ娘はオマエの知っテル娘だっテ、目の前にイルノガ大切な大切ナメイドだってサァッ」
香る匂いが、苦しむように動くユミルの魔力が黒に侵食されながら僕の方へ僕の方へとやってくる。
ユミルはユミルだ。
目の前の存在はユミルだと魔力が告げる。だけど違うものだと。
ユミルの中に外道がいるのだと告げる。
「隠し剣ぐらイ持ってルダロ? どぉだイ? この娘を殺スか?」
「ユミルの中から出ていけ!」
「やダよォ? そレじゃァ面白くなイ」
どうやってやったかなんて分からない。だけどユミルの体を動かすこの存在は悪意しか見えない。
「さ、前置キは、おしマいだ…殺しテやルのがこノ娘にとってハ、良かっタダロウに」
剣の切っ先を僕へ向けて、またユミルの顔から表情が抜け落ちる。そしてその表情はいつものユミルに戻った。
帰ってきたのかと思った、立ち去ったのだと、少し期待した、それが本当ならどれだけ良かっただろうと。
「な、んですか、これ…?」
ユミルが震えた声で言う。嫌だ嫌だと首を横に振り拒絶しながら。
「やだ…坊ちゃん…なんで止まらないの…っ」
なのに彼女の手はゆっくり剣を構えて。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ」
僕の目を横に切るその瞬間を最後に僕の目は何も映さなくなり、同時に僕は声にならないほどの痛みを知った。
「坊ちゃんっ坊ちゃんっやだぁっ」
燃えるような痛みが延々と続くんだ。ズキズキと熱い目を押さえ、頭だけは変に冷静にうごいていた。
目を狙うあたり本当にあの存在は外道だ、僕の目がどれだけ貴重とされているか知っていてそれをわざわざユミルの意識だけ戻した状態で斬った。
僕にユミルの絶望の顔と涙を見せるために。
ユミルに自らの手で主である僕を斬らせるところを見せるために。
真っ暗な視界の中、またあの声がした。たくさんの人の声を混ぜたような。下品な笑い声も。そして見えないなか痛みに耐える僕の耳元で、囁いた。
「憐れダナァ、唯一ノ価値を無くしちまってサ? こンナ業をこのメイドに背負わセテ、憐れダが、安心シロよ、オマエだけじャ無クなルかラ」
その言葉を残して、ふと、闇の匂いが消える。
まるで最初からいなかったみたいに。
綺麗さっぱりと。
─────ユミルの助けを呼ぶ声とユミルの魔力の匂いだけを残して。




