俺を否定しない目《ジークside》
何度目かわからない怒鳴り声がする。耳が酷く痛くて、何度も聞いた言葉が俺を否定する。
“化物”
なんで俺はそう言われるんだろうか。今まで優しくしてくれた人もいた。俺のことを憐れみ息子にしようとした老夫婦は俺の目を見て悲鳴をあげた。
目を見る前までは優しく俺の頭を撫でてくれたのに。腹をすかした俺の汚れた髪を愛おしげに撫でてくれていたというのに。
なのに、化物と叫んで、結局俺を捨てた。
分からなかった。俺が何をした?そこまで否定され、罵られることをしたか?
「この…っ役立たずめ!」
振り上げられる腕を見上げる。殴られる。それでも俺は動かない。もう、どうでもいい、痛みなんて慣れてしまった。
なのに。
「やめて!」
声がしたんだ。高い、強ばった声が。
俺を殴ろうとするやつの後ろから聞こえたその声の主は、気がつけば俺のことを抱きしめていた。
「やっと、あえた」
「…え」
何かを耐えるような声だった。何かを喜ぶような声だった。俺とは違う綺麗なサラサラの銀髪が風に煽がれて、声の主は俺を見る。
怖かった。この柔らかな温かい手で俺を守る存在が、俺の目を見て化物と罵る姿が思い浮かぶから。だから目をそらそうとした…したんだ。
でも…。
昔見ることが出来た教会に奉られた女神の絵と同じ緑の澄んだ目が、それを許さない。意思の強そうな目は俺の目を見つめ返す。
逸らすこともない。
化物と罵ることもない。
その目で俺の目を見て…彼女は笑う。
今まで見たことのないような綺麗な笑顔を浮かべて、フニフニの柔らかい手で俺の手を包んで。
…俺のことをまるで、愛しいかのように。
暫くしてきた暗い金髪の男は慌てたように彼女を見てサーレと呼んだ。サーレ、それが彼女の名前だと言う。
アルファーニル・サーレという女神の名から取られたのだろう名は、彼女によく似合うと思う。
話は聞こえなかった。目の前で俺を抱きしめる存在しか目に入らず、彼女の呼吸音や、心臓の音しか聞こえなかった。
浮遊感に驚けば俺ごとあの金髪の男は抱き上げて、豪華な馬車に乗せる。…俺はまた売られるのかという思いよりも、サーレと離されることに絶望する。
俺を否定しなかったサーレ。
俺に綺麗に微笑んだサーレ。
温かな手で、俺を抱きしめるサーレ。
絶望と今まで持ったことない恐怖が身を包んで、サーレの温もりが遠のいた。




