迂闊な発言
柱の影から飛び出して、“わざと”紺の髪をした少年にぶつかる。心の中ではもう全力で謝っている。こんな小さな子に精神年齢だけならいい大人が体当たりするとか情けない以前にもう最低だ。
「いっ」
「ご、ごめんなさい」
ジークはお父様達と待っていて、私はメイドを撒いてからここまで来た。だから今私は一人。お母様もお父様もジークもいない場所で、初めて私は自分から攻略対象へ関わりだした。
紺の髪はサラサラとしていて、オカッパの様な髪型だ。その切りそろえられた前髪から覗く不思議そうな薄紫の瞳に思わず息を飲む。
「…大丈夫? 迷子?」
ぽかんと口を開けて自分より上にある目を見て固まる。いや、綺麗すぎる。こんなのつい見ちゃうよ。
「あ、…その、ぶつかってごめんなさい」
「謝罪はさっき貰ったけど?」
うん! 確かに言ったね私! 他に何か言うことあるだろうになんで同じこと繰り返してるかな!?
「…ぷっ」
「ぷ?」
思わず少年から顔を逸らし、しでかした自分の口を押さえていれば件の美少年から何やら可愛らしい音がした。
ついっと、視線をあげて再び少年を見ると、楽しげに笑っている。
「…どうして笑っているのか、お聞きしても?」
「…ふっ…いや、あまりにも…正直な魔力だから…ふふ」
笑いをこらえながら教えてくれるけど、意味がわからない。正直な魔力って…見えない私の魔力いったい何をしているの…?!
見えない己の魔力に叱咤を飛ばしてまじまじとリトを見る。うん、ゲームの時の面影そのままだ。ゲームの時も、髪は長くて…でも当たり前だけど目元には傷はない。出来るのは今日だから。
幼いリトは少女と言われても信じそうなほど綺麗で可愛らしい。薄紫の瞳が幻想的な雰囲気を醸し出していて近寄り難さはあるけれど…よく実行犯はリトの目を潰すなんてことやれたね。
私なら綺麗すぎて傷つけるのが恐ろしいし、武器も向けられないと思う。向けないけど。
にしても…
「いつまで笑っていらっしゃるの…?」
「ふふ…」
リトって、笑い上戸か何かな。と目の前の存在を睨みつけつつ呆れる。何にせよ、いい予想外だ。こんなに接しやすいならうまく事が運びそうだし、ゲームの時は無口無表情であまり会話ができない攻略対象だったから、情報も薄いんだ、リトは。
「…ふぅ」
「落ち着いたようですわね」
「うん、君のおかげで結構笑ったかな、頬が痛いよ」
「私は笑ってほしいとは言ってませんが?」
「ふふ、僕も聞いてないかな」
遠回しな嫌味だよ! なんてツッコミつつ心の中で深呼吸。間違えるな、私ならきっと出来る。ここは始まりでしかないんだ。とても長い…一日の。
小さく息を飲んで、スカートを指で摘み軽く挨拶をしてから、本題に入ろうとリトを見る。
「改めて謝罪いたします、ぶつかってしまい申し訳ありません」
「ごめんなさいじゃないんだ?」
「私、もう八歳になりましたの、八歳になったならば、拙いながらも淑女として…」
「ごめんなさいでいいけどね」
「…」
話の腰を折るの好きなのね、君。
ゲッソリしつつ、聞こえないふりをして続ける。
「私は、マーシェル伯爵家の息女、サーレと申します」
「僕はリト」
いや、家名は?
え? 家名名乗らないの? しかも愛称で名乗るわけですか!?
思わず固まってればクスクスとまたリトは笑って私の頬に手をやってくる。
「リトって名乗って固まるってことは僕の名前は知ってるのかな?」
「っ」
「あ、図星? 魔力が素直だからもしかしてと思ったらやっぱり本人も素直なんだね」
何この魔眼持ち…っ! チート過ぎない、?! いや。私がわかり易すぎるだけかもしれないけど、ゲームでは書かれなかった幼少期のリト…訂正するわ…やりにくい、この子。
魔眼が見えてる時はこんな性格だったのね…。ぐっと出かけた悲鳴を飲み込んで目の前のリトを睨む。そして諦めたように装いつつまた軽く淑女の礼をしてから発言する。
「有名な方については調べるようにと、心がけておりますの」
「僕って有名かな?」
「ええ、知る機会がありまして。…可愛らしく、美しく、魔眼を有していると」
魔眼持ちだって知ってるよって言ってるのにリトはニコニコしている。…記憶違いじゃなければ魔眼の存在は秘されているはずだけど…驚く様子すら見せない。知る術があるんだぞって裏の意味伝わってない?
「魔眼のこと知っているのか…お父様に後で教えなきゃいけないな」
「一部の方でですわ、気にする必要も──」
「僕は気にするんだよ、サーレちゃん」
にこにこ顔をやめて私の手をつかむリト。あれ、まって、なんか…。
嫌な予感が…──
「じゃ、行こっか。」
「ど、どこに…」
「お父様のとこ」
ですよね!?
リトは現在十一歳で、サーレよりも三歳上。
ゲームの中では腰までの長い髪を後ろで結って黒い包帯で目元を隠している無口で無表情な立ち絵です。




