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願うのは笑顔  作者:
第1章 第2節【瞳の価値】
34/143

運命の日の朝の外《???side》


 

 深く、息を吐く。

 

 彼女が産まれて八年。彼と出会って二年。僕にとっては一瞬の出来事のような年月(としつき)

 

 彼女はとても愛情深く。

 そして、残酷だと息をつく。

 

 真っ白な世界に唯一ある湖に映し出される彼女のサーレとしての人生は見ていて楽しいもの。彼女はよく笑うから。たとえ先を知っていてもそれでも全力で楽しむから。

 

 “前”の(せい)では、あまり本心で笑えなかったから? それとも──ううん、今考えることは別の所なんだろうね。

 

 彼女と彼を引き合せるのは簡単だった。“忘れてしまった彼女”と“少しだけ覚えている彼”の(えにし)を繋げばいい。

 

 他の何よりも太い縁を。ちぎれることのないように。

 

 でも、いずれ僕を選んでくれることを信じている。いつか、この白い何も無い世界に来てくれるのだと。

 

 

 だから僕はまだ大丈夫。まだ、待てる。ジークとサーレの色を懐かしく想いながら僕は自分の髪を指に絡めてみる。

 

 銀の髪は面白味のない。以前の彼女のような色ならばこの白い世界に僕の存在を主張だってできたろうに。

 どこまでも白に溶け込んでしまう銀に呆れ、でも彼女が僕と同じ色をまとっていると思うとまだ、許せる。

 

 長い僕の髪は色のない地面に広がる。静かに波打つこの髪を波打たせる風もない。

 

 湖に浮かぶ僕の顔は“サーレ”と同じ。鮮やかな緑が白の中で唯一主張する。

 

 早く来て欲しいという反面。来ないで欲しいという気持ちが渦巻くけど、それを噛み締めるように飲み込む。

 

 まだ、まだだ。

 

 クルル─といつの間にか僕の肩に止まったレレが喉を鳴らす。美しい金の翼は白の中でよく目立つ。赤く燃えるような目が僕が嘴を軽く撫でるだけで気持ち良さそうに細められる。

 

 《 いいのカ ? 》

 《 … 》

 《 今カらでも 向かエに 》

 《 大丈夫。まだ待てるよ。 》

 

 僕の事を気遣って向かえに行こうかとウズウズするレレの羽をゆっくり撫でる。“取り上げてしまったら”全てが無駄になる。

 

 それはきっと何よりも許されない事だと思うから。

 

 《 ココに来ル かも分かラナいのに ? 》

 《 きっと■■■■■■は来てくれるよ。 》

 《 主ハ、何千年も 待っていたノに 》

 

 不貞腐れるレレが可愛くて微笑む。まだ、大丈夫。レレがいるから、僕は孤独にはならない。

 

 でももし──全てが終わって僕の元に来てくれなくても。僕はそれでもいいと思っている。

 

 湖の中では彼女が笑顔を家族に向けている。ジークも戸惑うようにその笑顔を見つめている。

 

 

 何年でも待てる。

 

 君がここに来てくれるのを僕は何千年…それこそ人間が罪を犯したあの日から待ち続けているんだから。

 


 幸せになって欲しい。笑って欲しい。

 

 そう願う僕もきっと、残酷なんだろう。僕が“壊す”ことになるかもしれない未来を想像してふぅっと息をつく。

 

 

 《 主? どうシた 》

 《 何でもないよ。ほら、レレ見てご覧。ここから筋書きが変わっていくんだよ…終わるその日まで 》

 

 話を逸らしたように揃って覗き込んだそこで彼女は父親と彼から渡されたドレスに目を輝かせていた。

 

 

 もう、戻ることはない。

 

 もう、忘れた彼女は戻れない。

 

 全ては願ったとおりに。彼女は望んだとおりに。

 

 全ては“約束”と“縁”が繋いだ。


 

 僕はその結末を全て見届けて───受け止めるだけなのだ。この白の世界で。

 

 

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