苛立ち
泣きじゃくるキャロリアンナを宥めに宥めていれば空気を読んだジークがアルからスープをコップにいれて持ってきてくれた。ちゃんとスプーンも入っているし気遣いも素晴らしいと思う。
ジークが恐る恐る差し出せば泣きじゃくってたキャロリアンナが顔を上げる。
「いいにお……い…」
そして赤いジークの目を見て固まり、わなわなと震えはじめ目には悲しみではなく恐怖と拒絶が浮かぶ。
ああ、ダメだと思った。
ジークを止めようとしてもジークはコップを更にキャロリアンナに向けて渡していて──キャロリアンナの手がジークの手を強く振り払う。
「ば、化物!」
硬直し、熱いスープが手に掛かっても動けないジークの顔を慌てて私に向けさせて顔にかかってないかとか、腕以外にかかってないかを確認する。
かかってないことを確認し、ジークの熱く熱をもった手を両手で包み込む、悲しさとか自己嫌悪とかでぐちゃぐちゃになりそうだけど私は必死に治療魔法を行う。
淡い緑の光がジークの手を包んで、しばらくすれば赤みは取れ、辛そうだったジークの表情も和らぐ。
「ジーク、よく、目を見せて。」
「ん…」
「大丈夫よ。ジークは化物なんかじゃないわ、私の素敵な婚約者よ」
「ん。」
ジークの心のケアはしっかりと。否定された分の倍は褒めて、好きだと体現すれば照れた様にちょっと耳が赤くなる。
うん、大丈夫みたいだ。
ふとキャロリアンナに目を向ければキャロリアンナは唖然と私とジークのやり取りを見ていた。
「…キャロリアンナ様、いかがなさいましたか。」
「如何も何も無いわ! なぜ化物がこんな所にいるの!」
ニッコリと微笑んでるうちに口を閉じればいいのにジークをまた責めていくキャロリアンナ。うん、ゲームの中ではジークとは接触するシーンが無かったキャロリアンナはこんな態度を取るのか。へぇ、知らなかった。
「ジークは私の大切な“婚約者”ですわ。化物などではありませんよ?」
左手でジークの右手をぎゅっと握りしめながらキャロリアンナを見る。怒鳴ってはダメだ、冷静に対処しないとお父様に迷惑がかかるから…と噛み締め。とぼけたように言う。
キャロリアンナのお爺様は現国王の父の弟だとたしか…キャラクター詳細にかかれていた。血の濃い王族が親戚に存命している時点でその家は力を持つ。
キャロリアンナを敵に回すべきではないってわかってる。でも、許せないものは許せない、悔しいものは悔しい。
ジークがどんな扱いをされるかは聞いてもいたし、わかっていて、理解もしていた、でも。
でも。納得はしていないんだ。ジークの扱いについて私が納得したことは一度たりともない。
「っ悪魔の目は女神様を陥れた者の証! それが化物じゃないと、なぜ言えるの!」
「ジークは私の婚約者。未来の夫です。聡明なキャロリアンナ様に私の未来の夫を化物と仰られるのは悲しいですわ。」
さも、悲しんでますと言ったように眉を下げてキャロリアンナの表情を窺う。彼女の手には未だに私のハンカチを握っていて流石に恩を仇で返していることに罪悪感が湧いたのかジークを視界に入れないようにして口を閉じた。
…今はこれでいい、でもいつかは絶対キャロリアンナにも認めさせる。ジークは化物なんかじゃない。
「…っ混乱していたようです。…ターニャ様良ければ王都まで馬車に乗せて頂けませんか?」
「ええ、もちろんですわ」
お母様がちらりとこっちを見て頷くので。私とジークはアルとお父様がいる方へと護衛役にきたモリスに二人の事を頼んでから向かう。
その間、私たちの手は握ったままだった。手をジークの熱が包んでくれるだけで、苛立った心が少し落ち着く気がしたから。




