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願うのは笑顔  作者:
Prolog【越える想い】
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新しい両親と望んだ出会い


 

 気がつけば私はどこかに寝かされていた。フワフワとは言い難いが固くはないベッドのようなそこは狭い。何やら木箱の中のようで。天井だけが見えていて、私は困惑する。

 

 

 …恐らく私はなにかの事故に遭い、ここにいる。もしかして、ここって棺桶の中? 焼かれる寸前だったりするのだろうか?

 

 なら誰かに教えないと、このままだと本当に死んでしまう。

 

 

 声をだそうとして口を開けた。

 

 「あー」

 

 …出てくるのは言葉になりきらなかった声。え、脳でもやられたの? 話をすることが出来なくなってるとか…? もうなんなのこの現状。 わけわかんない、お母さん…栄太…私死んでないよ、生きてるよ!

 

 「びぇええええん」

 

 思わず泣く感覚があったけど。待って、ちょっと待って。可笑しい。泣き声がこれって何? これじゃ、まるで、私が…赤ちゃん、か子供…みたい────そこで初めて天井以外が見えた。

 

 私の顔をのぞき込む綺麗な銀髪の女の人。その綺麗な青い目がすぅと細められ、整った口が笑みを作る。

 

 

 「起きちゃったのね、おはよう。サーレ」

 

 「う!?」

 

 サーレ!? てか私を抱き上げるとかこの人見た目によらず力持ち…なんてボケはしない。流石にここまでくればわかってしまった。

 

 

 ぷにぷにとしたもみじのような小さな手。乳白色のような白い肌。そして目の前には微笑む女性。

 

 …私、生まれ変わったんだ。

 

 

 

 そう、理解すると、納得してしまった。それにしてもサーレってどこの人なんだろ?日本人ではないよね、と言うか前世の記憶があるってどうなんだろ。

 

 

 テレビではよくそういう類の話出てたけど…。

 

 

 「ミルクのもうね」

 

 思わず出された胸を見る。前世の私と異なり柔らかそうで大きい胸を見て体が勝手に吸い付いた。本能ってやつなんだろうか。嫌だという感情は浮かばず、むしろ安心してそのまま眠りについた。

 

 

    ■□■□■□

 

 すくすくと成長し五歳になった。最初鏡を見た時驚いたけど五年も生きれば見慣れて違和感の無くなった顔を前世よりも濁った鏡で再度見つめる。前世では平凡な黒髪に茶色い目だったのに今世では銀髪に緑色の目になっているし。

 

 そして驚くべきは顔。流石両親共に美しい作りなだけあって私の顔も幼いながらも綺麗な顔をしていた。

 

 そして、フルネームも無事に知ることが出来た。

 

 父の名はマーシェル家当主レルム・ヴァド・マーシェル。

 母の名はマーシェル家夫人ターニャ・ヴァド・マーシェル。

 

 私の名がサーレ・ヴァド・マーシェルと言うらしい。ヴァドは土地の名前だ。お父様が治める領地の名がヴァドという、それが名前と家名の間にあるのがこの国の決まりらしい。

 

 国王様は国名であるティーシュバルを間に入れて名乗るそう。土地を名前に組み込むのは貴族だけらしく、所謂平民などは名前と家名だけ名乗るのだ。

 

 

 「お父様、どこ行くの?」

 「今日行く場所はね市場だよ、サーレが欲しいものを何か買ってあげよう」

 「ほんと!?」

 「本当だよ、少し早いが誕生日プレゼントさ」

 

 にこやかな金色の瞳に見つめられ少し照れるけど頬が勝手に緩んでいくのが分かって思わず頬に手をやる。にしても、相変わらずお綺麗ですねお父様!



 お父様の容姿は暗めの落ち着いた金髪に金の瞳をしていて、お母様は青い瞳だし、私の瞳だけ緑色だ。不思議だけど、お母様やお父様に聞いても気にしなくていいんだよと笑い返されるだけだった。

 

 ま、いっか。両親(ふたり)が気にしてないなら。もしかしたら祖父母に緑の瞳の人がいるかもしれないし。

 

 市場とやらにわくわくしながらお父様の服を握りしめつつ馬車の中から外をちらりと見る。備え付けられたカーテンの隙間から見える街並みは賑やかでたくさんの笑顔に溢れている。

 

 人の流れが見えなくて気がつけば張りついて窓の外を見てる私をお父様は柔らかく微笑んで見守っていてくれる。

 

 

 そんな中、一つの色が目につく。その色は何度も目にした色だった。


 

 

 「お父様、とめて」

 「…え?」

 「馬車、とめて!」

 

 思わず叫ぶように言えば顔をしかめたお父様が馬車を止めるように御者に言ってくれる。止まった途端に馬車の扉を開けて走り出す。

 

 

 声が聞こえた。

 

 《願ったでしょ》

 

 優しくて、優しくて、甘さを含んだそんな声が。

 

 《ずっとずっと願っていたでしょ》

 

 思わず涙が出そうになった。神様にたくさん感謝をした。走りながらもずっと感謝を心の中で述べ続ける。

 

 短い五歳児の手足を動かして、人の波をかき分けて、後ろから聞こえるお父様の声に心の中で謝って。

 

 

 

 《さあ、愛しい子。》

 

 《全てはあなたが選ぶのよ》

 

 《愛する人も、幸せも、運命すらも》

 

 

 《あなたは全てを選べる子》

 

 

 「この…っ役立たずめ!」

 

 《愛しなさい、願った通りに》

 

 「やめて!」

 

 振り上げられた拳の前に滑り込み、その小さな“彼”を抱きしめる。 ずっと、願っていた。ずっと望んでいた。ずっとずっと“愛したかった”。

 

 抱きしめた腕の中で真っ赤な目が驚きに見開かれる、灰色の髪が本当は白髪だと私は知っている。だって何度も見て、絵だって描いていた。

 

 

 あぁ、神様。ありがとうございます。

 

 「やっと、あえた 」

 「…え」

 

 記憶の中に薄らと残る幼い顔のジークに私は今までで最高の笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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