乙女の事情
問題なく王都へ再び進み出して数時間。馬の蹄の音と馬車の車輪が回る音だけが聞こえるなか、少し跳ねる馬車の中で私は耐えていた。
「ねぇ、お父様…あとどれ位で着くの?」
「後四時間はかかると思うぞ」
「…ですよね」
ガックリと肩を落とせばお父様が怪訝そうな顔を向けてくるが、私は答えないよ。さすがに羞恥ってものがあるから。
「サーレ、心配しなくてももう少しで休憩に入ると思うわよ?」
お母様が私の頭を優しく撫でながら微笑んでくれる、ジークは私が何が言いたいのか分かってないらしく少し首を傾げるだけだ。お父様もあんまり良くわかってないらしい。
分かってくれるのはお母様だけなのね。
「…お母様大好きです」
「私もサーレが大好きよ、両想いね?」
お茶目っ気をきかせたお母様が豊満な胸に私を抱き込んでくれる。お陰で痛みが紛れる。さすがお母様。
「な、なんだ。何の話だ? 私も交ぜてく…」
「あら、女性には秘密が付き物よ?それを聞くなんて紳士らしくないわ、レルム」
グッと止まるお父様にお母様は笑顔を返す。前から思ってましたがお母様ってお父様を弄ったりするの大好きですよね、そういうの素敵です。私も見習おう。
「……休憩は一時間後にしておく、サーレ、ターニャの膝から降りてちゃんと座りなさい」
悔しそうなお父様を見てふとした疑問が浮かぶ。…その悔しいってのはお母様に抱き着いてイチャイチャした私に向いているの? それともお母様ばかりに大好きって言っている為にお母様に向いてるの?
そんな疑問が浮かんだけど、お父様のさっきの勇姿を思い出して口を閉じた。あんまり食いつくとお父様がグレそうな気がするし、限度は必要だよね。
元通りにジークの隣に座ればジークが私の事を持ち上げて膝の上に座らせてくれる。
「ジーク?」
「ジーク、サーレを下ろしなさい」
「あら…」
お父様がピシャリと冷たい声を落とすけどジークは何処吹く風、私のことを揺れないように抱きしめて頭を優しく撫でてくれる。そんなジークの目に浮かぶのは心配の色…心配?
「ジーク、もしかして」
「俺は、大丈夫だから」
完全に私がお尻が痛いってこと気づいてますよね、それ。お父様が鈍感なだけなのか、ジークが察しが良いのか分からないけど、取り敢えず私もジークの服を掴んでおく。
お尻はまだ痛いままだけど普通に座るのとは大分違うと思う。
「ジークは立派ねぇ、紳士としては問題あると思うけれど、サーレの恋人としては満点ね」
「どういう事なんだ?ターニャ」
「あなたが鈍感だってことですよ、レルム。」
お母様の言葉に本気で落ち込み始めたお父様を見て心の中で謝っておく。ごめんねお父様、休憩の時にいっぱい抱きつくから。
お尻事情を言わずに察してくれたジークとお母様に感謝だ。恥ずかしさはあるけど背に腹は変えられないってのはこの事だと思う。




