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願うのは笑顔  作者:
第1章 第1節【変わりゆくもの】
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命の天秤


 

 結果を先にいえばお父様が出て行ってものの数分で全ては収束した。

 

 お父様とアルとレックが女性を人質にとってわめいている男達の元へゆっくりと歩き始め、すぐに男達は後ずさり始めた。

 

 そりゃそうだよね、近寄んな!って人質取ってんのに気にせず歩いてくんだもん。しかも三人のうち一人は嬉嬉として切りかかってきた“変人”だ。

 

 「お、お前ら…! 人質がいんだぞ! こっちに!」

 「そうだな、いるな。」

 

 うん、と無表情のお父様が頷く。いつもは驚くほど笑顔か情けない顔なのに。私が向かってこられる訳じゃないのに少し怖い…きっとあの男達はもっと怖いんだろうなぁ。

 

 「だが、それだけだ。」

 「……は?」

 

 

 「人質を取られる。 それが私の落ち度なら私は命懸けでもその人を助けよう。 私の責任なのだからな。…だが」

 

 お父様の言葉は棘のようだ。丁寧な言葉だというのに、チクチクと痛む。声色もいつもより断然冷たい。

 

 「私の馬車が出くわしたのは、残念ながらお前らが荷物を奪い、その女性を人質に逃げようとしている所だ。 責はそれを止められなかった同乗者や、その関係者たちだろう。 私達は偶然出くわし、“好意”で、手を貸してるに過ぎない」

 

 この世界は、ゲームの時から命のやり取りに対しては辛辣だった。制作会社が何を思ったのか、奴隷も他国になら許されるし個々の命は軽い。

 

 今で言うなら仮令あの女の人が人質にされていてもお父様は気にする必要が無い 気にしていたら自分の命、果ては後ろにいる私とお母様に害がいく。 貴族で、若く、その上容姿がいい。どんな目に遭うのかなんて想像もしたくない。

 

 要は今お父様は天秤にかけた。お母様と私、そして自分とジークと騎士達の命と人質の女性の命を。 そして、私達を選んだ。それは周りから非難を受けることは無い、それが当たり前だからだ。

 

 

 命の格差、他人よりも自分や家族や知人を取ることが許される。ましてやあの女性は恐らく商人の娘か妻だろう。なら陛下に怒られることもない。 助ける利もない。格好からして私達の領民でもない。助ける理由もメリットもない。

 

 「…チッ」

 「っ」

 

 女性も分かっているんだろう。責めることなんて出来ないのを。 このまま人質として連れ去られ何をされるかもわからない。 その上命が助かってもここは山だ。魔物や野生動物もいる。 女性一人がとても生きれる場所ではない。

 

 ゲームにも似たシーンがあった。 バッドエンドルートだったけど、目の前で人質が騎士が近づいた為に殺される場面が。

 

 そして、それに誰も動揺しない。そのシーンを見て背筋がぞわりと寒くなった。だけど、これがこの世界の常識だ。 騎士と言うだけで人だ。 命は惜しむ、惜しむが自分の命まで差し出せとは言われてない。

 

 戦争の時ならまだしも、今はそうではない。お父様がどう感じているのかはわからない。

 

 でも、仕方ない。この場で逃せば次の被害者が出る。今叩き伏せれば盗まれかけた物品も取り戻せる、私たちも安全になる。だから、人質を考慮しない。

 

 「っあああ」

 人質が役目を果たせないと分かると男達は女性をお父様に突き飛ばしてきて、その場から駆け出す。

 騎士と野盗。剣を持ってどちらが強いのか、なんて、聞かずにもわかる。

 

 「そんなに簡単に、逃さないさ」

 

 気が付けばお父様は男達の目の前に回り込んでいた。そして、素早く細身の剣を抜いて野盗の肩を切りつけた。

 

 

 足は潰さない。この後自力で男達を歩かせる為だ。だから、肩を切る。剣を振れないように。

 

 私の目には線が走ったようにしか見えなかった。その線が剣だと気づいた時にはお父様が切った男以外もアルとレックに捩じ伏せられていたのだった。

 

 「…は、やい」

 静かにジークが馬車の扉を開けて乗り込んで来るお母様が向かい隣に座ったままでいるのでもちろん私の隣に座る。

 

 そしてジークが口を開く。

 

 「親父は力、レルム様は速さなんだって、レックが言っていた」

 

 確かにそうだと頷いて後始末をするお父様達を待った。それもすぐに終わり男達は私たちの馬車の後ろを歩かされ付いてくるらしい。王都の方が近いもんね、距離。あの女の人の馬車は私達の領地に向かっていたから逆方向だし。

 

 にしても──。

 

 「お母様がお父様に惚れるのが分かりました、確かにあれはかっこいいです。」 

 「でしょう!? あーもう、あの男達にも感謝ね! レルムのあの姿見たの数年ぶりよ!」

 

 にこやかなお母様に詰め寄られ、こくこくと頷く。ジークが居なくてお父様が攻略キャラだったら私は多分お父様のキャラにハマっていただろうなって位にはかっこよかった。

 

 まあ、有り得ないんだけどね。

 

 追記するなら、ジークが少し悔しそうな顔してたのでとっても可愛かったです。こんな姿が見れて私嬉しいなぁ、ありがとう野盗さん。

 

 

 

 


レルムは自分の身内には割と甘いですが他には冷たいです。この世界では(主人の命令出なければ)騎士だからと言って身を呈して助けろというものはありません。

盗賊などは捕まえなければ後々拡大し、街を襲う可能性があるので討伐対象になるけど、人質がいるから自分も手を出さないってことはしません。割り切り大切、自分の命を大事に、責任問題に気を付けてやってけばよいってことです。

自警団とか、警備隊とかなら人質の命を考慮して動かないといけないけど騎士は絶対的に仕える主がいるので全く別です。

そしてレルムは聖人な訳じゃないので甘くないです、そこんところ本当に殺伐としてます。

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