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願うのは笑顔  作者:
第2章 第3節【悍ましい執着】
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馬車の中《レルムside》


 

 サーレ達を見送った後、私はすぐに王宮へ向かう事にした。元々仕事で伺う事は連絡してあったのだから別段問題は無い。

 

 ターニャとくれぐれも陛下と揉めることがないように話し合う事と子供たちの考えを尊重することを約束してから出た馬車の中。

 

 向かいはアルとアルの祖母…カルネが座っている。カルネをアルの屋敷に送ってから王宮へ向かうのだ。

 

 「声をかけて頂きありがとうございました、マーシェル伯爵」

 「レルムと呼んで頂いて構わない、貴女は友人の祖母であり娘の義理の祖母になるのだから家族のようなものだろう?」

 

 友人の下りであるが笑みを深くする。何を今更照れているのだ、随分と長い付き合いだろうに。

 

 「では、お言葉に甘えまして、レルム様と…」

 「あぁ…それと貴女を呼んだのは貴女にジークが懐いているからだ、良い関係を築けているのがよくわかったよ」

 

 カルネは柔らかく微笑み、ゆっくりと噛み締めるように目を伏せる。

 

 「…あの子はとても良い子ですし、可愛くて仕方ないんです、私自身あの子に救われてますから余計に」

 「救われているとは…?」

 「ご存知の通り息子夫婦は戦場で死にました。そしてこの馬鹿な孫も戦場に赴き感性が壊れてしまった。孫が望めなくなってしまった。きっと私が強く望めばこの子も嫁を取り子を生してくれるでしょうが、強いられ続けた上で私が死んだ後まで強いる人生など与えたくないのです」

 

 困ったようにアルがカルネの手を取る。彼女はそれにため息をついて続けた。

 

 「子は宝である。レルム様の言葉はとても素晴らしいものでした、確かに宝なのです。この馬鹿な孫もあの我慢だけやたらと覚えてしまっている曾孫もそして、失礼ながら伯爵家の方々も…やはり私もかつては子供でありました。子供の時代を生き残ってやっと歳を重ねることが出来る。ならば子供こそ未来」

 

 カルネは若くして王宮魔術師の名を与えられた才能ある人だった。彼女の息子がその力を引き継ぎ魔力は少なくとも剣を得意とする嫁を迎えアルが子供として産まれた。

 

 元々が戦場に近い家系なのだろう。カルネは愛情深く沢山の人に慕われていたが体を壊し引退した。

 

 カルネ自身戦場に赴くことも多くその分考えることが多かったのだと思う。

 死んでいく者たちにも家族がある。だが自分達にも家族があり、互いに守り合うためにちっていく。

 

 相手を恨むことは出来ない。

 多くの命を私達自身奪っていて、たまたま生き残れただけなのだ。それが向こうが勝ちこちらが死ぬ運命もあったのだろう。だから敵兵を恨むことは無い。

 

 ただ悲しみが溢れていくだけだった。戦場に残るのは沢山の死体と絶望と果てのない喪失感。戦場を作り出した者たちへの怨み。そして途方もない後悔。

 

 「……戦争が始まる可能性も高いと思っている」

 「えぇ、そうでしょう。王家に近い英雄と名の知れた家の、女神の子と噂される者が産まれたマーシェル伯爵家が女神教ではなく精霊教に鞍替えすることを神聖国は良くは思わない。ですが、神聖国を恐れて従うままではいずれ国の命すら消えてしまう」

 「俺は戦いに出ます、もし老いていたとしても」

 

 それが俺に出来る事だからとアルが強く吐き出す。サーレが産まれた時アルに抱かせてやったことがある。小さく弱いサーレを見てアルの瞳に強い意志が宿ったことは知っている。

 

 何を思い、何を志し、何に向かっているかは知らないが。強いあの意思がとても心落ち着くものだった。

 

 「守るためにか」

 「えぇ、国を領民を……家族を」

 

 神聖国は厄介だ。宗教は広がれば広がるほど力を持つ。しかも神聖国の名の通り教会のものが殆どだ。つまり回復魔法などの使い手が多い。

 確か今の聖王は五十半ばの男だったはずだが厄介な事に傀儡ではなく実権を握っているそうで、女神狂いとも言われている。しかも双子女神ではなく光の女神に強い信仰心を持っている。

 

 そんな存在からすればサーレはそれこそ神に等しく見えるだろう。ましてや私とターニャが女神の色を持っている訳では無い。

 

 家系のものでもない色を持って産まれた子。ターニャと私の先祖の血を見ても女神の色は見つからなかった。

 

 なのに何故銀髪の神に女神の瞳を持って生まれたのか。

 

 ……改めて考えれば神話の一部として書かれそうな出来事だな。

 

 「サーレを隠したことなど一度たりともない。目立つものを隠そうとすればなお目立つものだからね。教会はすぐに飛びつき産まれてから今まで一切要求の手紙を絶えさせたことは無い」

 

 まだ年端も行かぬ子を親元から離し教会の巫女姫として敬うことだけしか考えていない手紙からは強い執念がうかがえる。だからこそ強くこちらも拒絶することは無かった。

 

 「ジークはアルの前で泣いたことがあるか?」

 「ないですよ、一度も」

 「……そうか。私も初めてだったよ」

 

 娘が泣いているのを見るのは。赤子の時とは違う。意志を持ち信念が揺さぶられることで流れる涙。恐怖する涙。

 人とは違うものを身に宿したが故に私達への遠慮がやはりあったのだろうか。

 

 「アルはどう思う。サーレの話は」

 「別段疑う必要も無いかと、そもそも幼い頃からあまりに行動が成熟している箇所がありましたし。子供らしい行動を行ったと思えばまるで達観したような目をすることもありました」

 

 確かに、特にジークの事に関してサーレは年齢にそぐわない行動が多かった。前世から…ジークを幸せにしようと足掻いていた……か。

 

 「……………………いくらなんでも親離れが早すぎる」

 「前世からですし親離れと言っていいんですか?」

 「うるさい」

 


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