アルはやっぱりおかしい
…早く。早くあの子に会いたい。愛しい、愛しいあの子の側に。あの綺麗な緑の目に映りたい、微笑んで、抱き締めてもらえたらもっと嬉しい。
女神の愛子…神緑の巫女姫。
「君の名前が知りたい…」
愛しい人。守らなきゃならない人。
はやく。
はやく。
会いに行かなきゃ────。
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手に馴染み始めた剣を持ち直し前を見据える。向けられる鋭い視線には殺意が乗っており、本気でやらないと死ぬという確信が浮かぶ。
「はぁ──っ!」
足に身体強化を施して一気に踏み込む楽しげな視線が憎らしく、一線でも食らわして見たいという感情が浮かぶ。
勝ちたい。
勝って、見直させたい。
だけど私の拙い剣を軽々と切り上げ、細い剣が私の首へと添えられる。
「そこまで」
ジークの声によってこの先は止められる。…ううん、多分声がなくてもこの先──命を取られるということは無い。
私の首に剣が触れる寸前に殺気は離散したし、何よりもこの人…アルは私を殺さないということは知っている。
「うぅー!また負けたぁ!」
「お疲れ様でしたお嬢様。」
「お疲れ様」
剣を拾いに行きながら叫べば私の背中に向かって声をかけられる。
ジークと出会ってから早いものでもう一年。私も明日で七歳になる。
ジークは私よりも二つ上の九歳だ。
ひたすら丸みを帯びてふくふくと柔らかかった私の体も細くしなやかに成長してきた。この世界では筋肉の発達の仕方が少し違うのか、前の世界なら七歳で持てるはずがなかった剣も、細身なら一人で持てる。
ジークも九歳の割に、大人な雰囲気を醸し出すようになってきた。アルの養子になったことはジークにも良いことだったらしい。
笑うことは無いものの、私だけではなく、アルやお母様とお父様に対しても少し柔らかな反応をするようになった。
メイドや執事に対してはまだ距離をとっている。それに対して私は何も言わない。お母様たちも言うこともない。
「悔しいなぁ」
アルはやっぱり強い。お父様の騎士をしているのにたぶん、能力だけなら王族の近衛騎士団にだって劣らないだろう。
現に、その話も前まではアルに転がり込んではいたみたい。今は来ていないらしいけど、それほどジークの存在は目立つ。
国王様は認めてくれたけど重臣達はやっぱりいい顔をしなかったらしくて、ジークという養子をとった男が近衛騎士団に所属するのは不適切だという事だった。
そのことをジークは初めアルに負い目を感じてたんだけど、ジークの前でその話を持ち出した貴族に向かって言ったアルの言葉で負い目を感じる必要が無かったんだと悟った目で私に報告してきた。
なんでも「いえ、近衛騎士団に所属しても強くなれる気がしないので、以前から断っていたんですよ。むしろ催促が来なくなったことで、レルム様の騎士をやりやすくなり、むしろ重臣の方々には感謝しています」とよそ行きの微笑みを浮かべたそうだ。
安定の強さ思考ですねアルと思いました。嫌味かと疑われ様にもそれはアルの本心です、ジーク関係なく近衛騎士団をやっても強くなれる気がしなかったんだと思います。
加えて言うならこの家の騎士をやることでお父様という強敵相手に定期的にガス抜きが行われるので、アルにとって最高の就職先なんだそうです。
もうやだこの戦闘狂。
ジークの特訓の時だって自分に怪我をさせた相手に向かって輝かんばかりの笑顔を浮かべて賞賛するような狂人なんです家の筆頭騎士は。
まあ、私はアルに傷すら付けれないんですけどね…!




