一つの終りと全ての始まり
愛したゲームがあった。美しい男女が織り成す世界の中で唯一の力を持つ少女がたくさんの人に愛され守られ生きていき、幸せになるという。
所謂、乙女ゲームと言われるそれは。
私に夢を与えた。
「社長、契約について問い合わせが──」
とある会社で事務として働く私、奈江霧 亜沙は毎日毎日仕事ばかりをしていた。 病気の母と幼い弟を養うために働いて働いて生きた今まで。面白みもない人生でこのゲームに出会えた奇跡に感謝した。
そのゲームの名前は神緑の巫女姫。恋愛要素だけではなくファンタジーゲームとしてのバトル要素もある。織り成す世界観は広く、沢山のエンディングが存在し。出てくるキャラクター全員が魅力的。
そんなゲームには、唯一ハッピーエンドを迎えられないキャラが存在した。
沢山のエンドの中ではどんなキャラでもハッピーエンドになるルートが存在した神緑の巫女姫。けれど、彼だけは幸せになれない。
彼だけが笑うことを許されず、悪として殺される。
ジーク・フリート
そのゲームで魔王となる存在を消された王子。白い髪は罪の色、瞳の赤い色は彼が殺した者達の呪い。端正な顔ですら、悪魔に魂を売った証とされた彼。
私はジークが好きだった。卑屈ながらも世界を憎みながらも愛を貪欲に願い、それゆえに殺される。
どんなルートですらも愛を願い愛を妬み愛されたいと死んでいく。そんな彼が私は好きで仕方なかった。
幸せになって欲しいと思った、その表情の変わらない顔が悲しくて、同人ゲームを作り幸せにさせようと足掻いた。
でも、無理だった。
どれだけ絵を描いて笑わせても、頭の中に浮かぶジークの顔はちっとも幸せそうには見えない。苦々しく歪むその顔が私を責め立てるような気さえした。
愛しかった。笑わせてあげたかった。その一心で作っていくゲーム達。やがてそれは仕事にも支障をきたし始め、社長からは一週間休みをやるから目を覚ませと言われた。
…分かっていた。自分が可笑しいってことぐらい。
でも、悲しかったんだ。苦しかったんだ、あの大好きなゲームをプレイする度に苦しみと恨みに苛まれ、愛を求めて死んでいく彼が。
幸せになって欲かった。
だから私は────人生を掛けて幸せな話を作ろうと。
そう考えて、いたのに。
「危ない!!」
どこか聞こえる遠くの声。
俯いたために見える足元は暗くなっている。周りの人が私の上を見上げて、悲鳴をあげ、逃げるようにと叫ぶ。
…私が二十五年の人生で唯一願った夢。唯一執着した存在。諦めきれなかったこと。
それは、ジーク・フリートという男が幸せになって欲しいというものだった。
ぐしゃり
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「…見て、あなた。この子の目」
「これは…なんて奇跡なんだ。」
ある伯爵家に一人の娘が生まれた。
その髪は美しき銀の髪、その瞳は神木の葉のように美しい緑色。長いまつげに彩られたその目は───まるで、天使のように細められた。
「あー…」
サーレ・ヴァド・マーシェル
マーシェル伯爵家の最初の子。ここから全てが始まった。




