衝撃の事実、そしてプチ災難
「どういう事ですか!? 説明してください!」
ミツレが血相を変えながら坂田に詰め寄る。まぁ、あんだけ頑張って受験勉強したのだから怒るのも無理もないか。
「まぁ、お前らを騙した事は悪いとは思っている。だが、学力を付けておいて損はないはずだ。」
「うぅ…………それはそうですけど……………」
坂田に言いくるめられたミツレはしょんぼりとしている。
「まあまあ、落ち着けよミツレ。筆記試験が無いって事は余裕で合格するじゃないか!」
ミツレを慰めるつもりで俺は話しかける。しかし、ミツレは呆れた顔で俺を見る。
「はぁ、神崎さんは私たちの中で一番おバカさんだから嬉しいかもしれませんけどね……………」
「おい!?」
予想外のことをミツレから言われたので、心に大ダメージを負う。
だが、ここだけの話、筆記試験が無いって知って俺は心の中でガッツポーズをしてしまった。
「神崎悠真、まるで心の中でガッツポーズしたみたいな顔してるぞ。」
氷華が、ゴミを見るような目で見てきて顔が青ざめる。おいおい、コイツはエスパーか何かかよ!
「なわけないだろ! さ、早く行こうぜ!」
そして、俺たちは再び足を進めようとする。その時、坂田が再び呼び止める。
「お前ら、いや悠真だけか? 神高受験は筆記試験があったら合格出来たって言う人が多いんだ。つまり、裏を返せば、お前たちが今から受ける試験は筆記試験なんて比べものにならないからな。」
「ん? 坂田さん、どういうことですか? 筆記試験が無いなら、面接かと思っていたのですが…………………」
ミツレが、坂田の方を振り返る。確かに、筆記試験が無いのならば面接による適正審査が普通なはずだ。だが、坂田の言い方だと面接ではなさそうだぞ。
「まぁ、行ってみたら分かる。お前らを騙してた俺も悪いから、今日はご馳走でも用意してるから頑張るんだぞ。俺たちは応援してるから。」
坂田はそういうと、ふらっとどこかに歩き出す。
「ご馳走のためにも頑張らないとね!」
氷華が、キラキラした顔で言う。そうだ坂田の言い方が気になるが、ご馳走のためにも頑張らないとな。
「あぁ、そうだな。よし、今度こそ行こう!」
何度も足を止められた俺たちは、やっと受付所に着いた。
受付所には、神高の生徒と思われる女子生徒がいた。受付は生徒がやるのが風習なのだろうか。
「こんにちは、ではお名前と契約者の名前を教えてください。妖獣の方は、本名の方もお願い致します。」
ポニーテールの受付所の人から見つめられる。あー、やっぱり俺は女耐性がゼロに近いな。何故かドキドキとしてしまう。
それにしても、この人オッパイがデカイな……………
「えっと…………神崎悠真です。契約者は、俺の隣にいる九尾ミツレです。」
受付所の人は、書類にサラサラと俺の名前とミツレの名前を書く。
「はい、分かりました。九尾さん、妖獣界でのお名前を教えてください。」
「キュウビです。契約者は、神崎さんが仰りましたが、この頼りなさそうな神崎悠真さんです。」
ミツレが、何故か汚物を見るような目で俺を見る。おいおい、何故だ!?
「ミツレさん!? 頼りなさそうなは余計じゃないすか!?」
「ごめんなさい、つい……………」
ミツレは笑っているが、目は笑っていない。もしかしてだが、受付所の人のオッパイを見てたのがバレたのか……………?
ミツレは、何でか知らないがオッパイには厳しいからな。
「ふふ、仲良いですね。はい! 受付は完了しました! では、頑張ってください。」
俺たちの後に、氷華と流風の受付も終了した。そして、俺たちは神高の中に入ろうとする。
「あ! 忘れてました! コレを預かっていたんですよ!」
入ろうとした瞬間、先程の受付所の女の人が小走りで近づいてきた。手には、細長い真っ黒な布製の袋が握られている。
「先程、受付を済まされた神々廻さんに預かっていたんです。コレを、神崎さんに渡して欲しいって。」
「神々廻……………? アイツが!?」
受け取って分かったが、コレは日本刀を入れるケースだ。
それにしても、何で神々廻が俺に? アイツとは、少し前に一度会っただけだぞ? それに、全然話してないし………………
「はい、そう言われました。では、私はこれで失礼しますね。」
そう言うと、受付所の女の人は去って行った。
「おお……………ピッタリだ。」
貰ったものは使わないと申し訳ないので、早速使うことにした。俺が持っている煤けた七聖剣はスッポリと入った。
「神崎さん、神々廻さんって誰ですか?」
ミツレから聞かれたが、何て答えれば良いのだろうか。あの会議の事は秘密って言われたし……………………
「あー、少し前に東京に行った時に会った人だ。接点は、あの時だけなのに何故だろうな。」
「ふーん、そうですか。」
ミツレの目はどことなく冷たい。何か、まずいことを言ったのだろうか……………
ミツレと流風は、俺と氷華を置いて先に進んで行く。
「あははは…………… まぁ、悠真君があの人のオッパイ見てたから怒るのも無理ないかぁ………………」
氷華は、俺に苦笑いをしてミツレ達を追う。そして、三人は横並びに歩き、試験の会場である中心部の建物の自動ドア前で止まる。
「何してるんですか、オッパイガン見さん。早く行きますよ。」
「さすがに引いたぞ、神崎悠真。」
「ちょ、ちょっと二人とも! 言い過ぎだよ〜!」
どうやら、俺が受付所の女の人のオッパイを見ていた事が分かっていたらしい。
いや、一つ言い訳するのならば、ガン見はしてないぞ! ガン見は!
「わ、悪かったって〜!!」
とりあえず、ここで辺に反論したら殺されそうな勢いなので、謝っておく。
そして、俺たちはついに自動ドアを潜り抜け、試験会場に足を進める。
「ここが、神高………………!」
中心の建物内は、敷地の大部分を占めるだけあってかなり広い。他の受験者らしき人が数多くいるのを見ると、俺たちが転送された第三ターミナル以外の、転送ターミナルもここに一直線で繋がっているようだ。
そして、なんといっても驚愕なのはこの建物の高さだ。これは何メートルあるんだ? 目を窄めて見ても、天井がぼんやりとして見えない。
何階まであるのかは定かではないが、かなり大きな建物だと言うことが分かった。今俺たちがいる一階だけでも、直径1キロメートル以上はありそうだ。
「あ、どうやら受験者はあちらに集合するようですね。」
あまりの広さにポカンとしていたが、ミツレの声で現実に戻される。ミツレが指差した先には、制服を着た受験者らしき人が集まっている。どうやら、中央にステージのようなものがあるようだ。
「よし、行こう!」
俺たちは、少し小走りで建物の中央に向かう。ここから見るだけでも、かなりの人数が集まっている。何百人いるんだ?
俺たち四人が中央のステージに着き、指定された席に横並びで座って待っていると、ステージ上にピエロの格好をした派手な男が現れた。
男は、マイクを整列係の人から勢いよく奪い取る。そして、思いっきり息を吸う。
「レディース、アーンドジェントルメェン! ヘイヘイヘイヘイ! 今日は神高受験へようこそ!」
辺りを、キーンというマイクの嫌な音が響き渡る。うぅ、この音は嫌いだ………………
だが、男は大声で叫ぶのを止めない。何のためのマイクなんだよ!
「おおーっと! 申し遅れた! ワタシの名前は須防 亮平! 今年の神高受験のMCを任された、ただの神奈川神対策局の隊長任されてるオッサンでぇす!」
須防と名乗った男は、相変わらず大声のまま自己紹介をした。
てか、アレが神奈川の神対策局の隊長かぁ………………… あの人の下で働いている人は大変そうだ。
「まぁ、こんな枯れたオッサンの話なんてどうでもいいな! では、ここに集いし四百人の未来の隊員達よ、」
須防が現れてから、ザワいていた会場は急に鎮まる。この、おちゃらけた須防だが、急に迫力のあるオーラが出たからだ。
チラリと、横に座っているミツレを見たが表情が張り付いている。さっきまでは、呆れた顔してたのに。
「おいおい、急に静かになんなよ〜! ま、そういうことで諸君らの検討を祈る!」
須防はそう言うと、鼻に付けていた付け鼻を取り外す。それは、よく見るとスイッチのようなものだ。アレは、なんだ?
「これより! 第45回 国立神対策高等学校実戦受験を始める!」
「あのオッサン、何言ってんだ……………?」
そして、須防は付け鼻もといスイッチをカチリと押す。
その瞬間、俺たちが座っていた椅子が消える。いや、消えたのではない! 地面に大きな穴が空いたのだ!
「は、はぁぁぁぁ!? ヤバイヤバイヤバイ!!」
俺たち四人を含めた四百人の受験生は一気に奈落の底へと落ちる。
「か、神崎さん! 手を! 流風達も!」
「ああ!!」
そして、四人は空中で手を繋ぐ。だが、このままだと落下してしまう!
空中で手を繋いだ三秒後、俺たち四人、いや受験生四百人は眩い閃光に襲われる。




