神高受験当日
何かから、引っ張られるようにして俺は目覚めた。ボヤけた視界を目でゴシゴシと擦って、視界を安定させる。
「……………早く、起きてしまったな。」
枕元に置いていたスマホを触る。暗闇を照らす光が示した時間は、午前5時。本来起きる時間の2時間ほど早い。
「はぁ、今日は神高の入試試験なのに変な時間に起きてしまったな。」
そう、今日は神高こと国立神対策高等学校の入試当日だ。昨日のうちにミツレ達とテスト範囲を最終確認しておいたから、復習はしなくてもよいだろう。
「うーん……………今から寝ても中途半端なだけだし、女将さんの手伝いでもしようかな。」
あの人は、朝早くから朝ご飯の仕込みをしていると聞いている。この時間にはもう起きているだろう。
「着替えは……………いや、手伝いだけだし着替えなくて大丈夫かな。」
俺は、部屋を後にして一階へと向かう。同じ階の部屋で寝ているミツレや流風、氷華を起こさないようにそっと歩く。
「お、やっぱり電気付いてるな。」
電気が一階のフロントに付いている事を確認して、扉を開ける。女将さんがいる調理場は、フロントの角の方だ。
「良かった、もしかしたら俺が一番乗りって可能性もあったからな。そうなったら、早起きした損になってしまう。」
だが、俺が真っ先に会ったのは女将さんではなかった。
「897…………898……………900! 901…………」
何者かの苦しそうな声が微かに聞こえている。庭の方から聞こえるな…………
「坂田さんよ。いつもこの時間は日課のトレーニングをしているの。」
「おわぁ!? びっくりしたぁ……………」
謎の声に注意を削いでいたせいで、右下から聞こえてきたロリボイスに跳ね上がる。声の正体は、もちろん合法ロリもとい、女将さんである。
「貴方がこんな朝早く起きてくるなんて意外だわ。大方、入試に緊張しているせいなのだと思うけど。」
「アハハ……………正解っす。」
この人は、心を読む能力でも得ているのだろうか。女将さんの言う通り、俺は緊張しているのだろう。
「早起きしたついでに、私を手伝う気があったのでしょうけれど、貴方に私の助手が務まるとは思わないから、坂田さんと一緒にトレーニングでもすることね。」
そう言うと、女将さんもとい合法ロリは厨房の奥に消えた。
「んー、とは言っても坂田さんのトレーニングを邪魔はしたくないな……………」
俺が、一緒にトレーニングするべきか自室に戻るか悩んでいると、ベランダの方の扉がガラリと音を立てて開く。
「ん? 悠真起きてたのか。こんな朝早くにお前が起きるとは珍しいな。」
「坂田さん! おはようございます!」
上半身裸で下は胴着姿の坂田が現れた。片手には上半身の胴着、そして肩には白いタオルがぶら下がっている。
鍛え抜かれ引き締まったその身体は、男である俺でさえ惚れてしまいそうだ。
あ、決してそっちの気はないよ!
「さ、坂田さん! お疲れ様です! お茶持ってきました!」
坂田が室内に戻ってきたからか、女将さんはお盆に冷たいお茶を乗せて坂田に持ってきた。
「いつもありがとうございます女将さん。」
坂田は、お盆に乗せてあったお茶を一気に飲み干す。それにしてもこの女将、坂田さんと話すときだけは女の顔をするな………………
「そうだ、悠真。俺も汗を流したいし、朝風呂に付き合ってくれないか? 」
「もちろん良いですよ! 俺も暇ですし。」
「そうか、それは良かった。女将さん、お風呂沸いてますか?」
「はい! もちろん沸かしてあります。いつものことですから。」
どうやら坂田は朝風呂が日課らしい。それにしても、朝風呂か…………… 温泉地ではよく俺もやっていたが、此処では何気に初めてだな。
「それは良かった。よし、悠真行こうか。」
俺と坂田は、横並びで風呂に向かう。まぁ、此処の場合は風呂というより温泉と言ったほうが良いかもな。
衣服を脱いで、湯船に浸かる。少し前にお湯を入れたのか、いつもより少し熱い。
「悠真、お前は怖くはないか?」
湯船に使ってから特に喋らなかったが、坂田が急に口を開く。
「怖い? 何がですか? 俺は特に無いですけど………………」
坂田は、何に対して怖くないか?と聞いてきたのだろうか。
「いや、無いならいいんだ。お前は、強いやつだな。」
千葉神対策局を束ねている隊長から、直々に強いやつだと言われてビクッとしてしまう。
「……………俺なんて対策局の隊長である坂田さんに比べたら、羽虫みたいなもんですよ。俺は、目の前で沢山の大切なものを守らずに失いましたし。」
俺は言った後にハッとしてしまう。朝からこんな暗い話をしてはいけないのに……………
「俺が言った強いやつというのは、身体ではない。ここだ………」
坂田は静かに笑うと、俺の心臓の部分を拳で軽く叩く。
「坂田さん……………」
いやいや、坂田さんの方が心も強いですよと言おうとしたが、それは言わないことにした。だって、坂田はわざわざ気を使ってくれたのだから。
「それと、俺はお前が思っている以上に全然強くない。俺よりも強いやつなんて他の対策局にゴロゴロといる。」
「坂田さんよりも強い人なんて、俺はまだ出会ったことないですよ。」
俺のこの言葉は嘘偽りはない。坂田が言う強いやつが、心の強さの事ならば今まで出会ってきた人たちの中でも、坂田はトップクラスだろう。
「ふっ、そんなことはない。お前が会った中で言うと、春馬や神田それからカゲなんて俺よりも強い奴らだ。」
春馬や神田、それにカゲか……………あれ? この並びだと瑠紫が入るはずではないのか?
いや、この事は聞かないでおこう。
「でも俺から見たら坂田さんは、とても強い人です。だから、謙遜なんてしないでください。」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。だが、俺はまだ自分が未熟だと思っているから、毎日のトレーニングは増えるばかりだ。」
そう言った坂田の顔は、少し照れ臭そうにしていたが、どことなく悲しそうな顔を浮かべていた。
「毎日のトレーニングって庭でしていたやつですか? 一体、毎日何をしてるんですか?」
「毎朝4時に起きて、10キロのランニング、そして腹筋と背筋、スクワット、腕立て伏せを百回ずつ、あと竹刀の素振りを千回だ。」
「マ、マジすか!? それを毎日ですか!?」
坂田は、きっと今の自分の強さに少しも満足していないのだろう。そうでないと、ここまで過酷なトレーニングを毎朝するなんて出来ないはずだ。
「あぁ、毎日やっている。それと、少し前からアイツらのお墓参りもランニングの帰り道にやっているんだ。」
「あぁ、先輩達の……………」
俺はまだ一回しか行った事はないが、ここから少し先の森の方に先輩達が眠っているのだ。坂田は、毎朝そこに行っているのか……………
「坂田さん!」
「おお、どうした悠真? 急に大声出すからビックリしたぞ。」
あの三極神と恐れられているツクヨミを撃退した坂田でさえ、自分の強さをさらに求めているんだ。なら、俺がする事はただ一つだ。
「俺も、明日から一緒にトレーニングしてもいいですか? 」
俺の予想外な一言に、坂田はキョトンとしている。
「驚いたな、あぁもちろん大歓迎だ。明日から楽しみにしている。」
坂田は、そう言うと湯船から上がり脱衣所に向かう。
「はい!」
俺は、坂田の後を追うように湯船を出る。そして、あらかじめ持ってきておいた、中学で着ていた制服に着替えて坂田と一緒にフロントに向かう。
お風呂を出たのが、6時ほどでその後はドクさんと坂田で雑談を交わしていた。時刻が6時半になった頃、眠気まなこの銀髪の少女が現れた。
「ふぁあ、おはようございます…………………って、神崎さん!? 起きてたんですか!?」
同年の四人の中では、一番最初に起きているミツレが、いつも最後に起きている人に負けるのは意外だったのだろうか、目をまん丸に丸めている。
「おう、早く起きてしまってな。」
「こんな日が来るとは思いませんでした。雹でも降らなければいいんですが……………」
ミツレは、すこし困った顔で外の景色をチラリと見る。
「おいおい! 俺が早起きする事がそこまで変かよ!?」
「ふふ、冗談ですよ。」
ミツレが加わり、男苦しかった雑談の中に一輪の花が咲いた。俺は、ミツレと一緒に英単語の復習をすることにした。
「ったく、世界共通語は日本語だと言うのに、何で英語の勉強しなくちゃいけないんだろな。」
「まぁ、神崎さんの気持ちは分かりますよ。でも、世界共通語は日本語だとしてもこの人間界で使われている言語で一番多いのは、英語なので仕方ありませんね。」
はーあ、何で英語の勉強なんかしなくちゃならないんだろうな。俺は、一番英語が苦手なんだよ……………
「ミツレ達、妖獣界の人達は共通語は何なんだ?」
「私たちですか? 日本語ですよ。というか、共通語という認識がありませんね。神界と妖獣界では日本語しか使われていないと聞いた事があります。」
何気に初耳だったな。確かに、今まで出会ってきた妖獣や神で別の言語を喋っている奴らはいなかったな。
「それはどうしてなんだ? なんで、日本語を話しているんだ?」
「んー、実は詳しい事は解明されていないんですよ。元々、妖獣界と神界の先祖は日本語しか喋れなかったと言うのが最有力な説ですね。」
なるほど、確かにその説でいけば日本語しか存在せず、他の言語なんて最初から無かったということになるな。
「まぁ、私達にはあまり関係の無い話ですよ。さ、それよりも英語をおさらいしておきましょう。」
「そうだな、よし! 俺ももう一踏ん張りするか!」
ミツレが起きてから15分ほど経ち、流風と氷華が起きてきた。
「珍しい、神崎悠真が流風達よりも早く起きてるなんて……………」
「ふふふ、そうね。皆んな、おはよう」
おいおい、やっぱり俺が早起きするのはおかしいってことかよ! だが、明日からは坂田と一緒にトレーニングするって約束したから、毎朝早起きしないとな。
「よし、皆んな起きた事だし、朝ごはんにしよう。アイツらも少ししたら起きてくるはずだ。」
坂田がそう言うと、女将さんがお盆に一人分ずつ朝ご飯を乗せて運んで来た。俺たちはそれを受け取り、所定の席に座る。
「よし、じゃいただくとしようか。いただきます。」
坂田のいただきますが言い終わるのと同時に俺らは各自でいただきますを済ませて箸を進める。
今日の朝ごはんは、ご飯とサバの塩焼き、お味噌汁に漬け物だ。朝ごはんを食べ進めていると、先輩たち四人が起きてきた。
「ふぁ〜、皆んなおはよ〜 あ、今日は頑張ってね!」
「美香さん、おはようございます。」
朝ごはんを女将さんから受け取った美香が、俺の両肩を揉みほぐしながら言う。白土は、いつものように美香の隣に隠れている。
「ククククク、眩すぎる朝の光は我にはキツイな。同盟者達よ、今宵は良い結果を期待しているぞ。」
愛染が、朝からいつものように指を天に掲げる決めポーズをしながら言う。
「お前が朝の光弱いのは、普段から部屋が真っ暗なせいだろ。」
そして、黒上がため息混じりに言った言葉を否定する。これが千葉神対策局の朝のテンプレートだ。
静寂な朝とは思えないほど騒がしいが、俺はこの朝の雰囲気が大好きだ。
確かに、他の四人の先輩達は悲しいが亡くなってしまったが、ここにいる全員はその悲しみを力に変えて生活している事がいつも伝わってくる。俺は、ここにいる全員の心の強さも大好きだ。
「よし、悠真 ミツレ 氷華 流風、朝ごはん食べ終わったな。俺は、もう準備終わってるから表で車を準備しておく。各自、準備が終わったら表に来てくれ。」
「はい! 分かりました!」
坂田はそう言い残し、外に向かう。俺以外の三人は自分の部屋に向かう。俺は、早起きした時に準備しておいたから坂田の後をそのまま追う。
何故か、先輩たちからニヤニヤと見られたが何なんだ? 俺の顔には何も付いていないはずだが…………………
「あ、見かけないと思ったら神崎さんはもう用意できていたのですね。では、皆んなで行きましょうか。」
靴箱から自分の靴を取り出し履いていると、後ろからミツレに話しかけられた。その後ろには氷華と流風もいる。
「まあな、それにしてもお前ら準備早すぎないか?」
「前日に明日の準備をするのは当然。」
流風はそう言うと、俺よりも早く靴を履き外に出る。
「流風の言う通りです。早く行きましょう。」
ミツレも、ささっと靴を履くと素早く外に出る。
「じゃ、私達も行こっか!」
俺の隣で、氷華は靴を履くと俺に手を差し伸べる。俺は、その手をギュッと掴んで立ち上がる。
「あぁ、行こう。」
横引きの玄関の扉を開けて、清々しい朝の空気が俺と氷華を包み込む。早朝の冬の空気というのはどうしてここまで格別なのだろうか。
千葉神対策局の出た先のすぐに坂田の車が見えたので乗る。ミツレと流風、そして氷華は後ろの席に座り、俺は坂田の隣である助手席に座る。
「よし、全員乗ったな。では、行こうか。」
車にエンジンがかかり、勢いよく進みだす。早朝な事もあってか人通りは少ない。
「悠真と氷華は中学の制服着てきたか?」
「はい、着てきました。」
「避難所に忘れてたから、本当に捨てられてなくて良かった……………」
実は、前日に坂田から俺と氷華は、中学の制服を着て受験しろと言われていたのだ。氷華の制服は、長袖のセーラー服で全国の中学生が如何にも着てそうな感じだ。
まぁ、高校受験だし普通に考えたら中学の制服を着るよな。
「よし、忘れてなくて良かった。ミツレと流風も少し前に渡した服を着てきたか? 好きな方を着れるように2着渡したはずだが……………」
「もちろんです、着てきましたよ。」
「あぁ、もちろんだ。ミツレと被るのだけどは避けてたが本当に良かった。」
「それはこっちのセリフです。」
ミツレが着ているのは、真っ黒なワンピースだ。冠婚葬祭とかで着るやつだ。それに対して氷華は、真っ白な長袖のワイシャツとピタッとした黒のズボンだ。
二人とも、性格が真逆なので好みの服も分かりやすいな。坂田は、それが分かっていたから、2着違うタイプの服を用意したのだろう。
「よし、全員忘れてなくて良かった。そうこうしているうちに着いたぞ。さぁ、降りてくれ。」
「え、ここって………………」
坂田の車が止まったところは、いつもの物静かな港だ。確か、俺たちは試験会場に向かっていたはずでは……………………
「坂田さん、ここは……………」
ミツレも首を傾げている。まぁ、まさかこんな近所で降ろされるとは思っていなかったからな。
「いや、ここで合ってるぞ。俺に付いて来てくれ。」
俺たち四人は、坂田の言われるがままに後ろに付いていく。そして、坂田は堤防の先端で止まった。
「坂田さん、本当に今から何を………………」
「まぁまぁ、見てろって。」
坂田はそう言うと、堤防の先端にカードのような物を押し付ける。アレは、極獄刑務所に行く時に使ったカードに似てるが若干違うな。
「坂田さん、まさか!」
「おお、悠真は感づいたか。だが、あそことは少し違うんだ。」
やはり、極獄刑務所の時と似たような感じらしい。だが、今のところは海は割れていないな。
「転送人数を確認します。カードキー保持者1名と志願者4名で間違いないですか?」
「誰だ!? どこにいる!?」
突如聞こえた、機械音声に俺たち四人は驚く。この声はどこから聞こえてるんだ!?
「問題ない、転送を頼む。」
「承認完了。国立神対策高等学校に転送致します。」
その瞬間、辺りは眩い閃光に包み込まれる。そして、俺の体は一瞬だけ軽くなった。
「ま、眩しい……………! こ、ここは何処だ!?」
眩い光が収まり、俺はゆっくりと目を開く。そこに広がっていた景色は目を疑うものだった。
俺たちの背後は海だ。それも、ここは海洋のど真ん中で目を凝らしても対岸が見えない。
だが、今はそんな事はどうでもいい! 俺たちの目の前にあるこの建物は………………!
「そう、ここがお前達が受験する神高だ! 俺が前日ささっと書いた地図で良ければほら。」
ポカンとしているミツレに、坂田はメモ帳を渡す。ミツレが開いたメモ帳を俺も覗き込む。
「これが、神高……………!」
坂田の手書きのメモによると、神高は上空から見たら六角形の土地にであるということが分かった。そして、各角には数字のようなものが割り振られているがこれは何だ?
「悠真が指差している数字は、転送ターミナルだ。そして、赤で丸しているところが、俺たちが今いる第3転送ターミナルだ。」
「つまり、神高に入るには転送ターミナル経由でないと入れないと言う事ですか?」
氷華が坂田に問う。なるほど、たしかに船で行ける距離だったら、わざわざここに建てなくても良いもんな。
「あぁ、あながち間違ってはいないだろう。俺も詳しい位置情報は分からないが、船で来ようと思っても特殊な海流のせいで来れないと聞いたことがある。」
神対策局の隊長を任されている坂田でさえ、神高の現在地が分からないと言う事は、国家機密と言うやつなのだろうか。
「それに、海流がどうとかの前に、神高の敷地全体に特殊な結界が張ってあり外部からは見えなくなっているらしいから、部外者にバレる事は絶対にないだろうな。」
周りから見えない結界か。いわゆる、ステルス戦闘機みたいな感じなのかな。
「ま、今はこんな事どうでもいいな。お前らがする事は、今回の試験に集中するのみだ。」
坂田は、フッと笑うとタバコに火を付ける。そうだ、今は試験に集中する事が大前提だ!
「坂田さんの言う通りですね。それはそうと、受付はどちらなのでしょうか?」
ミツレが辺りをキョロキョロしている。そういえば、まだ受付的な事をしていないな。
「受付所はあっちだ。今、俺たちがいる場所から真っ直ぐ行った先にある。」
坂田が指差した先には、仮テントのようなものが見えた。いかにも受付所っぽいな。
「よし、そしたら行くか! 坂田さん! ありがとうございました!」
「神崎さんの言う通りですね。坂田さん、ありがとうございます。」
「うん、坂田ありがとう。」
「坂田さん、ありがとうございました!」
俺たち四人は、案内してくれた坂田に別れを済ませて受付所に向かう。そして、ここから始まる神高受験!
「あー、お前らに言い忘れてた事がある。」
やる気十分で坂田に別れを済ませたのに、再び足を止めてしまう。
「ん? どうしたんですか?」
ミツレも首を傾げている。あー、これはアレだ! 坂田から、頑張れよ的な事を言われるやつだ!
「神高受験って、筆記試験は一切無いから筆記用具は俺に預け置いてくれ。」
突然、坂田が意味の分からない事を言ったので俺たち四人は固まる。
ん? どう言う事だ? 俺たちは今から高校受験を受けるんだよな? それなのに、筆記試験が無いってどう言う事だ?
「さ、坂田さん? どう言う事ですか?」
普段は、冷静沈着でクールなミツレも声の調子がおかしくなっている。
「いや、だから神高は筆記試験が無いんだ。」
坂田の言い分は変わらない。俺たちは5秒ほど固まる。そして、5秒後に出す声は四人とも全く一緒だった。
「は、はあああ!?」
海上に建てられた神高の一角で、少年少女の叫喚の音色が響き渡る。




