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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第3章 母なる者
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マザーの願い

「エキドナ、やっぱりお前は裏切るんやな。ゼウス様から一度はお許しを頂いたと言うのに。我がエジプト神王国の神王 ラー様がゼウス様に監視しておいた方が良いと助言しなかったら危なかったわ。お前は俺がここで処分する。」


犬顔の男の右手には自分の身長と同じくらいの大きさの金色に輝く杖が握られている。杖の先は天秤のような物が付いており、ジャラジャラと音が鳴り響く。


「最初から疑われてたわけね…………………! ()()()()!!」


エキドナは心臓のあった胸を押さえながら、男を睨みつける。ん? 待てよ、アヌビスってどこかで………………


「アイツは………………! あの時の………………!!」


「どうして………………… 」


アヌビスと言われた男をミツレと流風は汚物を見るような目で睨みつける。


「三人とも、早く逃げてなさい! 私が回復したのはあくまでも()()()()! 魔力までは回復していないのだから、魔力の残りが空っぽなあなた達が勝てるわけがない! 逃げなさい! 私には時間が無い!!」


エキドナは体を引きずらせるように俺たちの前に出る。エキドナの体は尻尾の方からジワジワと消えている。この消え方は仁の時に少し似ている。


「い、嫌です! アヌビスを倒して、更にマザーも助けます!」


「そうだ! もう神を辞めたマザーなら人間界でも暮らしていける!」


流風とミツレはそう言うとエキドナの両手を引っ張る。エキドナは二人に引っ張られると背中からバタリと倒れる。二人は力を少ししか加えていない。それでも倒れるということはエキドナの体力と気力はもう無いと言っても過言では無い。


「………………無茶よ。私はすべての心臓を使い切った。最後の命で貴女を助けてあげるつもりだったのに………………! 本当にゴメン。」


エキドナは激しく吐血する。そして、体の半分がもう消えている。


「なんで謝るんですか! マザーは()()()()を助けるために何年も辛い事をしてたじゃないですか!!」


ミツレはエキドナの肩を掴み、起き上がらせる。起き上がらせたと言っても、橋の鉄柱の部分に背中をもたれた状態だ。


「コラ、()()()()とか言わないの。ミツレは私の誇る子供の一人なんだから。流風も、そんなに思い詰めた顔をしないの。」


エキドナは聖母のような微笑むを浮かべ、ミツレと流風を残った右手で胸に引き寄せる。


「マザー……………………」


ミツレと流風はエキドナの胸の中で声にならないような嗚咽を繰り返す。もうエキドナは死んだいるのだ。身体の崩壊はドンドン進んでいる。


「おいおい、俺はこんなのを見に来たわけじゃあねえんだよなぁ。そっちから行かねえならこっちから行くぞ?」


まずい、アヌビスが杖をこちらに向けて構えている。もう臨戦態勢に入っている。俺はエキドナの命一つの犠牲のおかげで体力は回復したものの、魔力はエキドナの言う通り少しも回復していない。ここで奴を迎え撃つのは不可能だ…………………!


「神崎 悠真! 」


背後から鋭い声が聞こえた。声の主はエキドナだ。俺は振り返り、視線をエキドナに合わせるために膝をつく。


「お前に頼み事がある。人間に頼み事をするなんて神にとってあるまじき行為だ。お前だって今まで大切な物を奪ってきた神からの願いなんて嫌な事は分かってる。だが、聞いてはくれないか…………………?」


エキドナはミツレと流風に対して向けてた慈悲の目を俺にも向ける。その目には、ついさっきまでの殺戮者の影はない。そして、ミツレと流風をエキドナはなだめ、立ち上がらせる。


「頼み事か……………… 悪いがそれはできない。」


「神崎さん!?」


「神崎悠真! マザーの頼みを聞かないとは許さないぞ。」


俺の言ったことに納得できなかったのかミツレと流風は驚きの声を上げる。

そりゃそうだ、俺は神の事なんて大嫌いだし、これから先も俺は神と戦って行くだろう。今、エキドナに慈悲をかけたら俺はこれから先の戦いで、自分の戦う原動力である神に対しての憎しみや恨みが薄れてしまう。それでは死んでしまった仁が浮かばない。


「フッ……………アンタがそう言うのは分かってたよ。神が憎いのであるのは当たり前。だから二人ともそんな顔で神崎悠真を見ないであげて。」


エキドナは今にも俺に殴りかかりそうな二人を落ち着かせる。


「いや、アンタは勘違いしてる。俺は神からの願いなんて金輪際受けることはない。だが、アンタはミツレと流風達の母親だろ? 俺には神が何を思って人や妖獣を殺しているのかは分からない。だが、アンタは奪った命を自らの命を捨ててまで蘇らせた。俺は尊敬しているんだ、何年もたった一人の娘のために身内である神をも欺き、娘の為ならば憎しみを得るために敵役にもなったアンタのことを。俺は神でない、ミツレと流風達の母親である()()()の願いを聞きたいんだ。」


俺の本当の気持ちを知ったミツレと流風は少しホッとしたような顔で俺を見る。


「よかったです。マザーの願いを聞かないのなら主人公剥奪の刑でしたね。」


「ああ、主人公剥奪してモブにしてやるとこだった。」


「いや、主人公剥奪って何の話だよ!」


俺とミツレと流風が三人で騒いでいるとエキドナがフフッと笑う。その笑顔は正しく母親が娘に向ける物だった。


「さ、()()()である私の頼み事を聞いてくれるかしら? 神崎悠真。」


「ああ、勿論だ。アンタの為なら出来る限りの事をする。」


「フフッ……………そう、なら二人連れて早く逃げて。二人なら知ってると思うけどアヌビスは一度私を倒して相手なの。私を倒せなかったあなた達が敵う相手ではない。それに体力は回復しているとはいえど、魔力はゼロに等しい。あなた達が逃げる時間ぐらいは私が稼ぐから早く逃げなさい。」


エキドナはそう言うがまた激しく吐血する。もうエキドナの身体は胸の部分まで消えている。この状態でアヌビスを足止めするなんて無茶だ……………


「マザー…………………!」


ミツレはか細い声でエキドナに近づこうとする。だが、それを流風が顔を俯いた状態のままで手を引っ張り止める。


「神の誇りを捨てた裏切り者があああああああ! 死ねぇ!!」


遂にアヌビスが動く。アヌビスは凄まじいスピードでこちらに詰め寄る。ダメだ! このままだと四人とも奴に殺される!

殺される事を悟った瞬間、何かが俺の顔とミツレの顔の間はとてつもない速さで通り抜ける。


「グアっ!? 何だこれは! ナイフ!? イッテェなぁ! ゴラア!」


アヌビスは激昂する。右肩に刺さった持ち手が黒色で刃の部分が黄色のナイフを引き抜く。そしてゆっくりと傷口の血が止まり、回復していく。


「頭を狙ったつもりなのですが……………まったく、歳とは取りたくない物ですなぁ。」


この落ち着く声だが、深海のように深い憎しみを持った声は…………!

ナイフが飛んできた方向を向くと、全身を黒いローブに身を包んだ一人の白髪を生やした老人がいた。老人の顔はシワが張り巡らされているが、目だけは鋭く輝いていた。


「あれは、死川さん!? 」


ミツレの言う通りあの老人は間違いなく死川だ。助っ人に来てくれたのはありがたい。だが、あの老体で筋骨隆々のアヌビスを倒す事なんて…………

ついに今月から週一投稿です! なので、これからドンドン投稿していきたいと思っております!

辛口アドバイスや感想、お待ちしております!


マザー編も残りわずかとなりました! この章は連載が始まる前から決めていた話なので思い入れがあります笑

最後まで見ていただけると嬉しいです!

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