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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第3章 母なる者
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遅すぎた判断と、そこから生まれる一つの覚悟

「やれやれね、私の腕を奪い、形勢逆転した筈なのにこの有様。その様子じゃもう戦えそうにないわね。」


エキドナの右腕は出血が止まり、断面も肉で塞がっている。どうやら、さすがの神といえども失った腕を生やすのは無理らしい。そう考えるとカグツチの再生力は異常だったという事が改めて分かる。


「さぁ、白虎と神崎を始末して九尾を回収しようかしらね。」


そういうとエキドナは足をガクガク震わせてブツブツ言っている二人の側にゆっくりと歩み寄る。

このままだと二人が……………………!


「動け………………! 俺の足! もう充分休んだだろ! あの二人を助けさせてくれ………………!」


しかし、俺の身体は言うことを聞かない。筋肉は痙攣しプルプルと震えている。

二人とエキドナの距離は10メートルに縮まる。


「クソっ! 動け動け動け動け動け動け動け動け!!」


エキドナは大鎌を引きずるようにしながら着実に二人に迫る。

その距離、8メートル。


「頼む………………! 一度きりで良い! 速く魔力を回復してくれ………………!」


「本当に残念ね、あなた達二人は孤児院の中でも指折りの実力者だった。白虎、あなたを殺すのは惜しいわ。」


エキドナと流風の距離は2メートルほどまでに縮まる。それでも流風とミツレは呆然と立ち尽くしたままだ。


「何も言わないか…………… 終わりね。さようなら。」


エキドナは大鎌を思いっきり振りかぶる。この間合いだとエキドナは確実に流風の首を刎ねる事が可能だ。

そして、エキドナが大鎌を降りかぶった瞬間、俺の魔力は三の力一回分だけ回復する。もちろん、魔力が回復しただけだから身体は回復なんてしておらず、座ったままの状態だ。

だが、俺は魔力が回復したのを反射的に感じ、次には三の力を起動して、エキドナと流風の間に思いっきり投げる。


「……………………っ! さようなら。」


「遠隔起動っ! エキドナアアアアアアアア!!」


「クソっ!!」


ずっと流風に意識を注いでいたエキドナは急に現れた俺に反応できるはずもなく、攻撃の手を一瞬止める。

そして、俺はその隙を逃さないようにエキドナの大鎌を腰から抜いた剣で弾き返す。エキドナが一瞬止めたので弾き返す事が出来たが、止めなかったら俺は真っ二つに斬られていただろう。


「このクソガキ! いつの間に! 死ねっ!!」


俺は僅かに回復した魔力を使い切り、遠隔起動する前と同じ体勢になってしまい膝から崩れ落ちる。

エキドナはそんな俺目掛けて大鎌を振り下ろす。


「さすがにこの距離は無理か…………………!」


「無理じゃない。流風がいる。情けないとこを見せたな神崎悠真。」


氷のように冷たいが、どこか暖かいその声の主は俺の後ろからサッと現れて、エキドナの攻撃を押し返す。

顔を見上げると、声の主である流風がそこには立っていた。


「流風! 元に戻ったか! 良かった!」


「会ったばかりのアンタの命がけの行動見て元気出たなんて恥ずかしすぎる。でも、そのありがとう。」


ここからだと流風の顔は見えないが、声音は戦う前よりもしっかりしていて勇気に溢れている。


「クソっ! 白虎ぉ……………!」


エキドナの大鎌と白虎のヌンチャクが激しくぶつかる。しかし、白虎が若干押されている。


「本当ですよ。またもや神崎さんに励まされるなんて恥ずかしいです。でも、あなたには感謝しています。あなたの行動で私たちはまた戦う勇気をもらいました。こんなとこで諦めるものですか!」


どうやらミツレも元気を取り戻したみたいだ。数多の陽炎をエキドナに飛ばす。

それらを避けるためにエキドナは一旦二人から距離を取る。


「なら、もう一度絶望させるまで!」


エキドナは大鎌を構えて一気に距離を詰める。


「後は任せたぞ! 二人とも。」


俺はついさっきまで頑張って立っていたが脱力してしまい、地面に崩れ落ちる。


「流風! もう一度!頼みます! 霊炎 陽炎!!」


「分かった。今度こそ畳み掛ける!!」


ミツレが放った十本の陽炎に流風の風牙が纏う。二人の力が一つになった攻撃はスピードとパワーのどちらもが跳ね上がっている。


「同じ攻撃は二度は通じない! 呪炎 畔火(あぜび)!」


そう言うと、エキドナは持っていた紫の炎で出来た大鎌を消し、右手に魔力を集中させる。

そして、右手に紫の炎を纏わせ、ミツレと流風が放った攻撃に手を向ける。

一本の陽炎がエキドナの右手に触れた瞬間、触れた陽炎が一瞬だけ紫色に輝き爆破する。それに連鎖するようにミツレ達が放った全ての陽炎はエキドナに一本も当たる事なく全てが爆破して消え失せる。


「っ……………! やはり、マザーには同じ技は効きませんか。」


「そうだな、やはり冒頭でも言ったがアレしかないようだ。成功率はゼロに限りなく近いからやらなかったが………………」


全ての陽炎を消したエキドナは、また大鎌を形成しゆっくりと歩み寄る。今のでかなりの魔力を使ったのか歩みは今までよりも遅い。


「でも、あの技はマザーから教えてもらった技ですよ? しかも、マザーの目の前で練習してました。」


「ああ、だが()()()()()()()()()()。それはマザーにとっては対処しようがない筈だ。」


ミツレはフーッと深呼吸をすると、  


「私はあなたと違い根っこからの真面目です。いつも勝てるように最善策を持って戦いなどに臨んで来ました。」


流風はフッと鼻で笑うと、


「それは十分分かってる。アンタは昔っから堅物だった。」


「そんな堅物な私だったのですが、人間界に来て少し価値観が変わりました。最善策は一つじゃない、無数に木の枝のように広がっている。私に戦いを教えてくれた人が言ってた事です。」


この話は確か東京神対策局で瑠紫が俺たちに言った言葉だ。一つしか正しいパターンが無いと思っていたミツレに瑠紫が言っていたのだ。


「へぇ、アンタからそんな言葉が出るなんてね。」


「そうですよね。でも、流風だって変わりましたね。あんだけ人間を恨んでいたのに今では人間界の為に戦っている。」


「まーな、流風だってコッチにきて自分の狭い価値観が変わった。」


ミツレと流風は手を繋ぐ。その手は魔力を帯びていてミツレは青い炎である霊炎、流風は白き風である旋風が帯びている。

二つの魔力が手を交差して合わさり一つの魔力として形成される。


「成功するなんて分かりません。もし、これが失敗したら私たちは確実に負けます。」


「フッ、アンタからそんな言葉が出るなんて本当に笑える。でも、やるしかない!」


ゆっくりと確実にエキドナは歩み寄る。


「マザー! 今までありがとうございました。私はあなたに感謝していますが、それと同じくらい許せません。」


二人は二つの魔力が合わさった手をゆっくりと解き、ミツレは白と青が混ざった魔力を帯びた左手を、流風は同じように白と青が混ざり魔力が帯びた右手を二人同時にエキドナの方に向ける。


「これが流風達の答えだ! 」


「まさか………………!」


先ほどまでゆっくりと歩いていたエキドナだったが急に走り出す。だが、急に走ったところでエキドナの間合いほどには距離は縮まらない。


「「焔々たる鎮魂歌(フレイム・レクイエム)!!」」


二人の手から放たれた眩き水色の炎は合わさり、一つの大きなエネルギーを含んだ一撃と化し、エキドナに向かって放たれる。

それはまさしく、変わり果てた育て親に送る最後にして最高の技であると共に、母への鎮魂歌とも言えるものだった。

マザー編も残りわずかとなりました! 自分的にここの話は連載する前から大体は頭の中で考えていたんですよね。

このヘタクソ作家に辛口アドバイスをよろしくお願いします!

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