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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第3章 母なる者
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流風の本音

「お前もそこで伸びてたら邪魔だからあっちに行ってて。」


流風は後ろ目でギロっと睨むと、左手を俺に向ける。すると、俺の周りを風が包みフワッと宙を浮く。


「ウワッ!? 浮いている!?」


驚いている俺に特に何も言わずに流風は俺を正反対の方に吹き飛ばす。そして、ミツレの隣に着地する。


「神崎さん! 大丈夫でしたか? 怪我はありませんか?」


ミツレは俺を上から覗き込むように膝立ちで俺の肩を抱える。ミツレはだいぶ魔力が回復してきたらしい。


「魔力が空っぽだから動けないだけだから大丈夫………って言いたいが情けない話、身体中をエキドナの陽炎で突き刺されたりしたから体力も残ってないな…………」


ミツレは肩にかけていた手を離し、俺の上体を橋に寄りかかるようにして隣に座る。


「私も情けない話、身体中が痛いし魔力も殆どないので戦線に復活できるのは、もう少し魔力が回復してからですかね………」


そう言うとミツレは右手の深い切り傷をさする。ミツレも俺ほどとは言えないが身体中に傷を負っている。

こんな時に体がピクリとも動かない俺が情けない……………!


「ここは白虎を信じるしかないですね。」


「流風ってどのくらい強いんだ? ミツレはエキドナをかなり足止めできたけど、流風はミツレが魔力回復するまでは足止めできるのか? てか、ぶっちゃけミツレと流風はどっちが強いんだ?」


俺はずっと気になってた。瑠紫が言っていた孤児院育ちのミツレと同じとこ出身の流風。果たしてどちらの実力が上なのだろうか? 個人的にはパートナーのミツレを推したい。


「んー、強さの基準はよく分かりませんが、まず私と白虎では戦闘スタイルが根本から違います。」


ミツレは頭をポリポリとかくと、右手を顎に当てる。


「戦闘スタイル? どんな感じで違うんだ?」


「私は魔力操作が得意なので数と動きで攻める感じです。あ、陽炎とかが良い例ですね。」


俺はミツレの技は陽炎と火柱ぐらいしか知らないが、特に陽炎は自由自在に動かしているから、やはり得意な魔力操作を武器にしている感じなのだろう。


「それに対して白虎は速さに特化してます。自分の周りに風を纏って、自身のスピードを増したり、攻撃も素早い物が多いです。白虎は魔力を回復するスピードが私とは段違いなので多種多様な技が出せるのも武器と言えるでしょう。」


「なるほどな、簡単に言ったら魔力操作でトリッキーに攻めるミツレと多種多様な技でスピーディーに攻める流風って感じか?」


ドヤ顔で言った俺を見たミツレは一瞬、ウワァみたいな顔をしたがゴホンと咳をし、


「そうですね、それにマザーに対して有利なのはこの場にいる中では白虎でしょうね。」


ミツレは少し悔しかったのかハァとため息をつく。有利とはどういう事だ?


「どうして流風の方が有利なんだ? 」


「マザーの一番の武器は神特有の回復力や魔力量もありますが、それよりも速さです。攻撃の速さが私や神崎さんでは追いつけません。でも、白虎ならマザーの速さに追いつけます。」


確かに、エキドナの攻撃のスピードはとても速い。奴の陽炎はミツレよりも数が多く、何よりスピードがミツレとは桁違いだった。それに、エキドナ自身のスピードも凄いし、速さに特化しているのは十分に理解でにる。


「でも、ミツレがあんだけ苦労した相手に流風は一人で勝てるのか?」


俺がそう言うと、ミツレはフフッと笑みを浮かべ、流風の方を指差す。


「速さだけで言ったら、この場において白虎に付いて行ける人はいません。ほら、見てください。」


俺は流風とエキドナの方に視線を向ける。そこには、エキドナの数多の陽炎を交わしつつ風で抹消している流風の姿が見えた。

二人の距離はどんどん近づいている。いや、正確に言ったら流風がエキドナに近づいている。






「ハアアアアアアアア!!」


遂に白虎は、エキドナの繰り出す全ての陽炎を交わして間合いを詰める。この距離ならエキドナを仕留めれる!


「マザー! 少し大人しくなってもらう! 旋風 風牙!」


白虎がそう唱えると両手に持っているヌンチャクが白い風に覆われる。そして、ヌンチャクをエックスを描くように振るう。エックスの形をした風の刃がエキドナを襲う。この距離なら………!


近距離で速い攻撃、この場で誰もがエキドナを討ったと思った。だが、それを思ってたのは正確に言えばエキドナ以外だった。


「白虎、あなたの技はただ速いだけ。技の重さがないわ。あなたの紙のように軽い攻撃は私には傷一つつける事はできない! 呪炎 火柱!!」


ミツレが繰り出す火柱よりもデカく、禍々しい紫の炎の柱が地面から突き出る。

エキドナの火柱は一瞬にして流風の風牙を掻き消す。


「クソっ! まだまだあ!! ハアアアアアアアアア!!」


流風は、何度も何度もエキドナに向かって風牙を放つ。しかし、そのたびにエキドナは余裕の表情で火柱で掻き消す。


「まだ、まだあ……………!」


何度やっても流風の風牙ではエキドナの火柱を消す事は出来ない。たった一つの火柱に何十発の流風の渾身の一撃はかき消され、虚しく消える。


「だから言ったでしょ? 白虎は確かに魔力回復の速さが凄いから、攻撃も常に絶え間なく凄まじいスピードで放つことが出来る。でも、常に絶え間なく出してるって事は技の威力は無いの。」


そうか、流風が速く技を連続で繰り返せるのはそういうカラクリがあったのか。だが、確かにそれだとエキドナの言う通りで技の威力が無いのか。


「はぁ、はぁ、まだ、まだあああ!!」


流風は半端ガムシャラになりながら、風牙を放ち続ける。しかし、いくら魔力回復が速い流風といえど、連続して技を連発しすぎだ。最初の頃の風牙に比べて威力がガタ落ちしている。


「……………分からない子ね、あなたの契約魔力では私を倒すどころか止める事も出来ない。呪炎 陽炎!!」


連続してエキドナの方に放たれた風牙に向かって、エキドナはたった3本の陽炎を流風に放つ。

最初の頃の風牙だったら突き飛ばせた筈だ。だが、ただでさえあまり威力の高くない技が弱まっているから、3本の陽炎に流風の風牙は吹き飛ばされ、3本全てが流風に命中する。一つは左足に、もう二つは右肩に突き刺さる。


「グアアアア!! クッソ……………!」


どれも深く突き刺さっており、流風が陽炎を引き抜くと鮮血が勢いよく溢れ出す。


「それにしても意外ね。あれだけ人間の事を憎んでた白虎か人間と契約して更には助けに来るなんて。何があったのかしら。」


エキドナは首の骨をゴキゴキと鳴らしながら、地面に片膝をついてしまった流風に近づく。


「……………流風は人間が嫌い。それだけは変わらない。でも! 私が今まで嫌ってた人間は()()()()()では無かった!」


流風はエキドナに対して鋭い目つきで睨む。その眼光は決して母親に向ける目ではない。


「ミツレ、流風はどうして人間が嫌いなんだ?」


俺の問いに対してミツレは少し言いにくい様子で口を開く。


「連れ去られたんです。それも父親と弟は無惨に殺され、母親と姉は人間から連れ去られました。」


「連れ去られた? 特別な人間や妖獣界の人たちしか二つの世界は行き来できないって瑠紫さんが言ってたぞ!」


そうだ、二つの世界を行き来できるのは選ばれし者しかいないって瑠紫さんが特訓してくれた時に言ってたはずだ。それ以外で侵入してしまった者は即殺されるって聞いたはずなんだが………


「そう、いわゆる密輸よね。人間が妖獣を攫うのもあるけど、その逆もある。まったく低俗な生き物のする事は分からない。」


俺とミツレの話が聞こえてたのかエキドナが割り込んで来た。そう言うエキドナの目は一瞬だけ悲しそうに見えた。


「マザー、それは違う。どこの世界にもクズはいるもの。流風は人間から落ちぶれたクズしか知らなかった。でも! 本当の人間はとても優しかった! 人間が嫌いで酷い態度をしていたのにそれでも優しく接してくれる人達を見て、流風は今までの偏見の塊だった自分を殴りたくなった! だから! 流風は大切な人を守る為にもマザーを止める!」


エキドナが()()と言った事に対して、怒りの声が出そうだったが、それよりも先に流風が怒鳴り声を上げる。


「白虎…………」


それを見たミツレは、少し驚いた様子を見せたが直ぐに安堵の表情を浮かべる。


「キュウビ、お前が()()()言った事、今なら理解できる。」


流風はゆっくりと立ち上がり、ミツレの方をフッと笑って見る。


「あなたがそんな表情を見せるとは驚きです。いつもツンツンしてて近寄りがたい雰囲気ムンムンなくせに。」


ミツレが少し呆れた様子で流風に言う。そう言われた流風は少し頬を赤らめ、


「うっ…………ったく、だからお前は大嫌いなんだよ。その、なんて言うか…………」


流風は何か言いづらそうに頭をポリポリ掻く。何か言いたいのか?


「あなたらしくないですね。言いたい事はズバズバ言うイメージだったのですが。あなたが言わないなら私が言います。()()()、マザーをアヌビスがいるところに一人残して逃げようと言ってゴメンなさい。」


ミツレは流風に向かって頭を下げて謝る。そう言えばエキドナはミツレ達を逃す為に犠牲になったとか言ってたな。どうやら、その時に一悶着起きたらしい。


ミツレが頭を下げて謝った事に驚いたのか、少しアワアワした様子で流風は咳き込むと、


「なんでキュウビが謝るんだよ。謝るのは流風の方だ。()()()、マザーを置いた逃げようとしたキュウビと言い合いになってしまって、その無駄な時間のせいで流風達はバラバラになってしまったんだ! もし、一番冷静な判断をしていたキュウビに従っていたら生き残った仲間達もいたかもしれない!」


途中から流風の目は涙で潤んでいた。自分のせいで仲間を殺してしまったという気持ちは俺にも痛いほど分かる。もし、あの時俺が強かったら仁は…………


「キュウビ! 流風の残存魔力を少しだけ分ける! それを使って神崎と逃げろ!」


流風はそう言うと、心臓の部分に右手を添える。すると手のひらに青い風の塊のようなものが浮かび上がる。そして、それをミツレに向かって投げる。


「しまった! 白虎おおおお!!」


エキドナは魔力の塊を投げようとした流風を止めようとするが、流風が投げるスピードの方が速く、ミツレの心臓の部分に魔力の塊が命中し、ゆっくりと吸収される。


「良かった………流風とキュウビは魔力が適合するから直ぐに馴染むはず。さぁ、速く逃」


流風は何か言おうとしたが、エキドナの尻尾で思いっきり吹き飛ばされ、橋の鉄骨に直撃する。


「白虎、よくも! 私の目的はキュウビだと知っていたのか!」


流風はユラリと立ち上がり、


「さぁ、速く! 今のうちに神崎を抱えて逃げろ!」


エキドナは流風を憎んでいるのか先に流風を殺すつもりだ。確かに、今ならミツレは俺を抱えて逃げる事も可能かもしれない。でも、そしたら流風は………………!


「ミツレ、どうす」


俺はミツレにどうするか聞こうとした。だが、どうやらそんな下らない事を聞いた俺はバカだったらしい。

ミツレは、深呼吸をしてゆっくりと俺の方を向き、


「神崎さん、少しだけ待っていて下さい。」


それだけ言うとミツレは凄まじいスピードでエキドナの方に向かう。


エキドナは流風に向かって、


「お前だけは許さない。キュウビは特別なの! 呪炎 陽炎!」


流風はフッと笑い、


「どうやら流風が知っているマザーはいなくなったぽいね。」


エキドナから放たれた陽炎は流風の喉元目掛けて飛んでいく。しかし、エキドナの陽炎は流風の喉元には届かなかった。


「霊炎! 火柱!!」


挿絵(By みてみん)


そう、ミツレの火柱がエキドナから放たれた三本の陽炎を打ち消したのだ。


「キュウビ!? どうして!? 逃げてよ! 流風はもう大切な家族を自分のせいで失いたくはない!」


「それは私も一緒です! あなたが死ぬのなんて絶対に嫌です!」


「キュウビ…………」


流風はミツレの横に並ぶ。そして、また咳き込むと、


「分かった……… なら、一緒にマザーを止めるぞ! ()()()!」


流風のキュウビからミツレに呼び方が変わった事に戸惑うかと俺は思ったが、ミツレはフッと笑うと、


「分かりましたよ。行きましょう! ()()!」


久しぶりの投稿です! ポケモンに夢中になってて全然出来ませんでした・・・・

今回はなんと!挿絵付きです!Nemさんと言う神絵師様が描いてくれました!


アドバイスよろしくお願いします!

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