神民?
「嘘だろ…………… 何が起きたんだ!?」
顔や体に付いた返り血を拭うが、血の量が多すぎて一気に両手が紅色に染まる。
「神崎さん! アイツです!」
ミツレが指差す先に、黒いローブを着て、フードを被ったピエロの仮面をした女がいた。その周りに細切れになった肉片が散りばめられており、女がいる場所だけ赤黒く染まっていた。
俺とミツレから女との距離は30メートルほどだ。
「アイツか、あれが坂田さんが言ってた神民ってやつか?」
あの女が坂田の言ってた神民なら相当の実力者だ。実力者ではないと精鋭の軍人達を一瞬にして葬りさる事なんてできない。
「神民か否かは魔力量や魔力の質を探知すれば大体分かるのですが、何故か探知できないんですよね……… こんな事は初めてです。」
頭を掻きながらミツレは言う。ミツレは魔力操作や探知が得意って言ってたから、そのミツレが探知できないのは何故だろうか。
「しかし、神民は通常 3〜4人ほどのチームで行動してソウルハンター達の指揮や援護を行うので、一人でいるアイツ は神民とは考えられないでしょうね。」
なるほど、坂田も言ってたが神民は神の部下的な存在だから単独行動なんてするはずがないな。
と言う事はアイツは…………
「つまり、剛林さん達を殺したアイツは神だと言うことか?」
「はい、ほぼ確実でそうでしょう。」
なら、話は早い。悩む事なんてないんだ。神は殺すのみだ。
「ミツレ、行くぞ! 後方支援頼む!」
俺は三の力を起動し、右手にナイフを出す。そして、ナイフを30メートル先にいる女の近くに投げる。女はさっきから微動だにしない。
「え!? 神崎さん! 相手がどんな魔力なのかを確認せずに突っ込むのは無謀です!」
ミツレが何かを言った気がするが、気にせずに
「遠隔起動っ!」
ワープした先は女の3メートルほど後方だ。少し遠くに投げすぎてしまったが、この距離なら気づかれる前に首を斬れる!
「剛林さん達の仇だぁ!!」
刀が女の首に触れる瞬間に女はしゃがみこみ、左足で俺の右足をかけてこかす。
「しまった! 体せ」
俺の体制は大きく崩れ、右に倒れるのを阻止しようと左足で勢いよく踏み込んだ時にはもう遅かった。
女はしゃがんだ体制のまま、俺の顎を思いきり下から突き上げるように蹴る。蹴られた俺は宙を舞い、地面に背中を強打する。
「クソッ…………まじいてぇ! よくも」
蹴られた顎を抑えながら、立ち上がるが女の攻撃は続く。立ち上がった俺めがけて次は腹部に強烈な鳩尾を食らわせる。
「グホォっ!」
口から血が少し出る。舌を噛んでしまったらしい。このままじゃマズイ! コイツの攻撃を止めなければっ!
「三の力 起」
三の力を起動させて、一旦距離を置こうとしたが、それもさせてくれない。女の右ストレートが俺の右頬に直撃して何も言う事が出来ない。
「神崎さん! 霊炎 陽炎!」
強烈な一撃が頭部に当たって朦朧としている俺の意識にミツレの声が聞こえた。
女は俺をさらに攻撃しようとしたが、ミツレが放った陽炎による無数の炎の刀を避けるために、一旦俺から離れる。
女が俺から離れた隙を使って、俺はミツレの元に逃げる。
「すまねぇ、ミツレ。助かった!」
「馬鹿ですか!? 何も考えずに突っ込むのなんてやめてください! 死ぬとこでしたよ!」
顔を真っ赤にしてミツレが怒鳴る。確かに無理もない、ミツレは遠隔起動する俺を止めようとしてたもんな。
「ゴメン、次からは気をつけるよ。」
「分かってくれたなら良いです。お説教は後にして今はアレを倒しましょう。」
「ああ。」
「神崎さん! 来ます!」
少し遠くにいる女は落ちていた鉄骨のそこそこ長い破片を拾うと、それを片手に迫ってくる。
「あくまで私たちに魔力の情報を見られたくないと言う事なんですね! 霊炎 火柱!!」
ミツレが右手を地面に付けると、女の地面から青色の炎の柱が飛び出る。しかし、女は予期していたかのように火柱をヒラリと避ける。
「俺が行く! 一の力 起動っ!」
一の力を起動し、刀に霊炎を纏わせる。火柱を避けて走って向かってくる女を迎え撃つ。
「うおおおお!!」
青き炎を纏った俺の刀は、女の持っていた鉄骨を真っ二つに切る。
「契約起動した攻撃が、ただの鉄骨で防げると思ったのか!? この馬鹿が!」
鉄骨を切られた女は、体制を一瞬崩す。その隙は戦場において誰もが見逃すわけがなく、刀を握りしめ今度こそ女の首めがけて刃を迫らせる。
「終わりだっ!」
しかし、突如天に現れた1つの魔法陣から黒色の傘が降ってきて、それを手にした女は俺の攻撃を跳ね返す。
「クソっ! あと少しだったのに!」
攻撃を跳ね返られた俺は、よろめきながら何とか体制を元に戻す。
「どうして、あなたがその傘を持っているんですか!! 霊炎 陽炎!!」
突然、怒鳴ったミツレが陽炎を女めがけて放つ。俺の攻撃を防いだ女は、俺に攻撃を仕掛けようとしたが 少し遠くにいるミツレが急に放った攻撃を避ける方は出来ずに直撃した。
ミツレの攻撃により砂埃が舞う。その隙に俺はミツレの元に向かう。
しかし、ミツレの様子がおかしい。呼吸が乱れている。
「どうしたミツレ? 顔色が悪いぞ」
「あの傘はマザーが持っていた物です…………! あの時マザーは私たちを庇って身を投げ出しました。つまり、あの傘を持っているのは、あの時 教会を攻めたアヌビスに間違いありません!」
「なんだと!? じゃあ、あそこにいるやつがミツレ達の育ての親を殺したやつなのか?」
「間違いありません、私がこの世で1番殺したい相手です。あ、砂埃が止んできました。止んだ瞬間に全力で攻撃を叩き込みます!」
「分かった。」
たった5秒ほどのはずだがとても長く感じた。砂埃が止みかけ、中から人影が見えてきた。ボンヤリとしてよく見えないが、ヤツは無事らしい。
「霊炎 火柱っ!」
砂埃はまだ完全には止んでいないが、人影が見えた瞬間にミツレは攻撃を放つ。しかし、それは全て受け流され、砂埃が完全に消えた。
「すまないなキュウビ。アヌビスではない、私だ。」
砂埃から出てきた女は修道女のような格好で金髪のロングヘアー、そして右手にはミツレが言っていたマザーと言う人の黒い傘がある。
女の仮面が外れ、正体が明らかになってミツレが攻撃の手を止めた。
おかしいと思い、左にいるミツレの方を見る。ミツレは肩を震わせながら、目に涙を浮かべていた。
そして、
「どうして…………マザー?」
と掠れるような声で言うのだった。
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