新しい時代の創設者
「今から50年前の2090年に突如人類の前に現れた神という存在は全人類の半数以上を皆殺しにし、全ての文明の利器を奪い去ったと言われている。ここまでは悠真やミツレも知ってるだろ?」
50年前に環境破壊を続けていた人類に怒りを覚えたとかいう話はテレビとか学校で教わったな。文明の利器を奪い去ったっていうのも聞いたことがある。
「はい、私も育ての親であるマザーからそのように聞いております。でも、それと四頂家が関係あるのでしょうか…………」
妖獣界でも人間界と同じように神について教わったらしい。でも、ミツレの言う通り四頂家とはどのような関係があるんだ?
「全てが破壊され、絶望に呑まれていた人類を救ったのが現在の四頂家たちだったと言われている。」
あんなクソ野郎の先祖が当時の人間を救っただと!? どうしても想像できない。アイツらが……………
「で、でも今の四頂家の人たちは俺たちの事をまるで人間とは思っていないような扱いでしたよ! そんな人達の先祖が昔の人類を救ったとは到底思えません。」
「神崎さんの言う通りです。先祖たちが素晴らしい人達ななのに現在の四頂家の人たちはどうして…………」
ミツレの湯呑みを握る手が強くなる。ついさっきまで、四頂家のヤツに酷いことをされたんだ。無理もない。
「ああ、それは」
「これはワシの体験談じゃが、昔っから四頂家の連中は威張り散らしておったぞ。まぁ、新しい時代の創設者だから無理もないか。ほれ、冷めないうちに食べるんじゃぞ。」
坂田が何か言おうとした時にゲンという老人が肉うどんを三つ、おぼんに乗せて運んできた。全ての肉うどんを机に置くと老人は背中を丸めて厨房に去って行った。
「新しい時代の創設者ってどういうことですか!」
無言で去って行ったゲンに対して厨房に向かって叫ぶが、何も返っては来なかった。
「やれやれ、ゲンさんも意味深な事を言い残しやがって。まぁ、俺から話そう。」
坂田はフッと鼻で笑い、湯呑みの熱いお茶をグイッと飲み干すと肉うどんを食べながら話をしだした。
俺とミツレも肉うどんを食べながら坂田の話を聞く。
「では、悠真とミツレに一つ質問しよう。今は何年だ?」
肉うどんを熱そうにして息をかけている坂田は聞いてきた。俺よりも先にミツレが、
「今は明暦2140年。そうですよね?」
坂田はまだ麺を冷ますながら頷き、
「正解だ。では、もう一つ質問しよう。明暦は誰がつけたと思う?」
そういえば明暦って誰がつけたんだ? 誰がどのようにつけたのかもサッパリ分からん。
ちらりと隣のミツレも見てみるが眉間にシワを寄せている。さすがのミツレでも難しいらしい。
「難しいか。学校ではまず習わないことだ。正解は四頂家の先祖だ。」
四頂家というワードを聞いてゾワッとした。全てが繋がった気がする。さっきあった三門家がなんであんなに上から目線だったのか、それと自分達以外の人間も別の生き物として扱っているかのような行動。あの人たちは暦を変えたから威張っているのか?
「でも! 暦の名前を変えたぐらいであんな酷い態度取るなんておかしいですよ!」
ミツレがうどんをすすりながら文句を言う。熱いうどんを平気で食べていて尊敬する。ちなみに俺は猫舌だ。
「四頂家が暦を変える事が出来たのは新たなエネルギー源の発見だったんだ。」
少し暗い表情をした坂田は全ての麺をすすると、残った汁と肉を口に頬張る。
「新たなエネルギー源? それって太陽光の事ですか?」
「私も太陽光ぐらいしか思いつきません。今の人類のソーラーパネルの普及率は90%だと言われてますし、太陽光をエネルギーにするのを発明したのがまさか四頂家ですか?」
しかし、坂田は首を横に振る。どうやら俺とミツレの答えは違うらしい。
「神希鉱と呼ばれていた謎のエネルギーを秘めた鉱石を発見したのが現在の四頂家の先祖たちだ。この鉱石は当時使われていた石油と呼ばれる資源が一度に生み出せれるエネルギー量を、半分以下の量で数倍のエネルギーを生み出す事ができるらしい。ちなみにソーラーパネルが1週間で生み出せるエネルギー量を神希鉱は1グラムで生み出されると言われている。」
神希鉱…………? 聞いたこともないな。確か石油ってのは昔の時代にたくさん使われていた資源とか歴史の授業で習ったような気がするな。
それよりも四頂家がそんなに素晴らしい資源を発見したとは驚きだ。
「神希鉱? 聞いたこともないですね。石油というものは環境に悪影響という事は聞いた事がありますが………」
「お前らが知らなくて無理もない。神希鉱をエネルギーとして使っていた世代はもうかなり少ない。神の襲撃があった以降 神希鉱は使われなくなったしな。」
たしかにそうだよな。今から何十年前に使われていた資源の事なんて当時生きてた人しか知らないよな。今現在、当時の事を知っていて生きている人だって限りなく少ないはずだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして現在は神希鉱は使われていなくて太陽光や水力発電なのですか? そんなに素晴らしい資源なら今も使われていてもおかしくないはずですよ!」
ミツレが机をバン!と叩いて立ち上がる。ほっぺには肉うどんに入っていた小ねぎが付いている。
「まあまあ、とりあえず座れミツレ。それと頰にネギが付いてるぞ」
「え!? あ、すいません…………」
坂田が少し興奮気味になったミツレをなだめて座らせる。ネギが頰に付いていたミツレは少し恥ずかしそうだ。
「使われなくなった理由は神希鉱は環境にとても悪影響だからだ。それに怒ったとされる神という存在は地球上の全ての神希鉱を持って行ってしまったらしい。」
「そ、そんなに悪影響なんですか? 石油ってやつも中々って授業で習った事があるんですけど。」
俺のちっぽけな脳みその傍に歴史の教科書で習った昔の公害って言われてたやつの写真がよみがえる。確か、あれは石油とかが原因だったようだったと思う。あれ以上ってヤバくないか?
「お、悠真よく知ってるな。石油は神希鉱が発見される前に人類が一番使ってた資源だ。石油も環境には悪いが神希鉱は石油と同じ量を使っても排出される環境に悪影響な物の量が数十倍だったらしい。いくら一度にたくさんのエネルギーを生み出せるといっても環境にそれだけ悪影響なら最悪だ。」
「数十倍!? そんな環境に神は怒って人類を滅亡しかけたという事ですよね?」
ミツレが驚く理由が凄くわかる。数十倍ってヤバすぎだろ………………
「まぁ、当時は世界的に素晴らしい資源だったわけだから記念に暦が変えられたわけだ。神希鉱を発見した四つの家がのちに四頂家と呼ばれ世界で最高峰の家系にまで登りつめたんだ。そんなわけだから世界を牛耳る事になった四頂家は世界の王となり、それが今も続いてるってわけだ。」
だから四頂家はあれほどまでにいばり散らしているのか。でも、今いる奴らは当時の人たちの七光りを利用してるだけにも見れる。
「そういうわけですか。世界の王 四頂家、それに逆らってはいけないというのが暗黙の了解って事ですか?」
ミツレが少し顔を下げて坂田に言う。坂田は少しの間を開け、
「ああ、その通りだ。嫌な現実だ。」
なんか急に場が暗くなってしまった。まぁ、無理もないよな………………
「坂田、四頂家の話をして毎度落ち込むのはやめろ。それよりも少し頼み事があるんじゃが。」
そんな暗くなってしまった場を壊したのは、うどん屋もとい山口神対策局の局長のゲンという老人だ。
「どうしたんですか? ゲン爺さんの頼み事なら何でも聞きますよ。」
ゲン爺さんはニカッと笑うと、
「なーに、簡単な事じゃ。3日前から山口市の避難所にいた人間界と妖獣界の少女二人が行方不明になったんじゃ。山口神対策局が元帥から任された任務なんじゃがこれが中々見つからなくてな。手伝ってくれんか? タダとは言わん、それなりに報酬もつけよう。」
「人探しですか、3日も経ったのに見つからないと言う事は自分で逃げ出した説が濃厚ですね。」
坂田はタバコに火をつけ煙を吹かす。すると、ゲン爺さんもポッケからタバコを一本取り出すと坂田のライターを借り火をつける。
「儂らも行方不明になった3日前から山口だけでなく隣接している県にも探しに行ったり警察と協力したり色々としているんじゃが、手がかり一つ見つからなくてな。」
頭をかきむしりながらゲン爺さんは言う。この様子だと本当に手がかりが一つもないらしい。
「行方不明になった女の子の名前って何なんですか?」
灰皿にタバコを押し当てながら坂田は言う。どうやら協力するらしい。坂田の性格上こういうのは、ほっとけないんだろう。
「おお! 協力してくれるのか! 人間界の女の名前は星宮 氷華で妖獣界の方は白虎じゃ。」
「「ええ!?」」
俺とミツレは同時に立ち上がる。だって氷華ってアイツだよな、朝会ったやつ! でも、ミツレに氷華の事は話してないはずだが………………
ゴールデンウィーク最終日になんとか書き終わりました!
今後に響く設定が多い回なので、いつも以上に真剣に頑張って長くなりましたw
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