退院
「ヤバイな、予想以上に暇を持て余してるぞ。何か暇つぶしになるものはっと…………」
ベッドから起き、部屋を探索してみるが何もない。まぁ、病室だから何もないのは当たり前か。
「仕方ねぇ。俺も二度寝するか……………」
ぶっちゃけ、そんなに眠たくはないが暇すぎるので寝るぐらいしかする事がない。
俺はミツレと同じように布団に入り、眠りについた。
「神崎さん! 神崎さん! 起きてくださいよ〜!」
何者かが俺の背中を叩く。この声は…………
「ファーア、もう少し寝かしてくれよ。」
寝起きでボンヤリしている両目を擦ると視界にミツレが現れた。
「坂田さんが一時間後に来るらしいですよ。」
そう言うミツレはピンクの歯ブラシを口に突っ込んだまま俺に青の歯ブラシを渡す。
「え、坂田さんは千葉県に帰ったんじゃないのか? 」
千葉県に帰ったはずだから山口県まではかなりの距離があるから一時間では着かないはずだ。
「何時間前から飛行機に乗ってるそうです。もう山口県に着いていて、今は車で移動中だそうです。」
「マジかよ。もう少し早く連絡してくれたら準備したのになぁ。」
とりあえず、歯ブラシで歯を入念に磨く。歯磨き粉のミントの香りが口に広がる。
「そうですよ。まだ、パジャマなのに…………」
「てか、着替えが探しても無いんだけど!」
俺はさっきからベッドの下や部屋の隅などを探しているが替えの服が一着も無い。
「その心配はない。お前たちはもう退院だ。替えの着替えも春馬たちから回収してきた。」
ガチャリという扉を開ける音と共に坂田が病室に入ってきた。
「坂田さん!? 一時間後に来るんじゃなかったんすか?」
「そ、そうですよ! まだ顔も洗ってないのに!」
急に来た坂田を見て慌てている俺らを尻目に見て両手に持っていた大きな二つの紙袋を俺とミツレのベッドの上に置く。
「安心を取って二人を入院させたが院長の話をさっき聞いたら二人とも筋肉痛と打撲だから入院させる必要はないって言われたな。二人は晴れて退院だ。」
「急に退院って言われても………」
ミツレはまだ心の準備ができてないようだ。まぁ、無理もない。俺だって急に退院と言われて戸惑っている。
「ま、話は後だ。紙袋の中に春馬たちから回収しだ着替えが入ってるからそれに着替えてくれ。俺は病院の外で車を停めて待っているからな。」
それだけ言うと坂田は病室を後にした。俺とミツレは一瞬の出来事で30秒ほど頭がフリーズした。
「とりあえず着替えるか………?」
「そうですね。」
俺は紙袋を持ち、トイレに向かう。流石に女子と同じ空間で着替えるのはマナー違反だと思ったからだ。
トイレに入り、紙袋を開ける。中に入ってたのは最後に着ていたのと同じダメージジーンズとコート、それとティーシャツだ。
坂田を待たせているので素早く着替える。
「ミツレ〜 着替え終わったか?」
トイレの中から少し大きな声を出してミツレに言う。
「私も今終わりました。大丈夫ですよ。」
着替え終わったらしいのでトイレから出る。ミツレは俺の靴を片手に持っていてトイレの前に立っていた。ミツレの服装も最後に着ていたのと同じでチェスターコートを羽織っている。
「では、早く行きましょうか。」
ミツレは俺に靴を渡すと自分の靴を履き、それまで履いていた緑のスリッパを靴箱の中にしまう。
俺もその後に続き、スリッパを脱ぎ靴に履き替える。
「ああ、行こう。」
病室のドアを開け、たった1日だけどお世話になった病室を後にする。部屋の前にあるエレベーターに乗り、一階のフロントに着いた。
受付のおばさんに見送られながら俺とミツレは病院を後にした。
病院の敷地内にある駐車場に坂田の車があったので乗り込む。
「さぁ、乗れ」
運転席に座っている坂田は車のドアを自動で開けた。俺は右側に座り、ミツレは左側に座る。助手席ちドクさんがいない事から坂田は一人で来たのだろう。
「坂田さん、今からどこに行くんですか? やはり、千葉神対策局に帰るのですか?」
坂田が運転する車が発信するとミツレが質問した。吸っていた煙草をカーナビの下に付いている黒い灰皿で揉み消し坂田は口を開いた。
「いや、戻らない。山口県でまだ行くとこがある。そこに行く前にお前たちに話さなければいけない事があるんだ。」
口を開いた坂田の表情は重く、言いずらそうな雰囲気だ。
「単刀直入に言うと4人の葬儀は行われない。」
「は!? 葬儀が行われないってどういう事ですか! 親戚や親が許さないっすよ!」
「そうですよ。実の両親や親戚の方たちが許しません」
俺とミツレの怒声が車内に響く。そりゃそうだ、亡くなったのに葬儀が行われないっておかしいだろ!
坂田は落ち着いた声で続きを話す。
「正確に言えば3人だが、まず妖獣界出身の五右衛門と凛は捨て子の身だから両親はおろか親戚とも音信不通だ。それに、子を捨てるような親が葬儀をするとは到底考えれない」
たしかにそうだな、子を捨てるような親なのだから実の子供の葬儀などどうでもいいはずだ。でも、人間界出身の杏と俊介は……………
「あれ? 3人ってどういう事ですか? 亡くなった先輩は4人ですよね。」
ミツレが首をかしげる。そう言えばそうだ、最初は4人の葬儀は行われないって言ってたのに途中から正確には3人って坂田は言ってたな………
「この二人は仕方のない理由なんだ。二人とももし死んだら親戚がいないから葬儀はしなくて良いと言ってたしな。だが、俊介は……………」
坂田は煙草を吸おうとしたが力が入りすぎたのか人差し指と中指で煙草をへし折る。様子が変だ。
「俊介は幼い頃から虐待を受けていて、その虐待は中学二年生まで続いていたが、近隣住民からの通報で児童相談所に保護され、両親とは離れて暮らしていたんだ。その時に暮らしていた保護施設で年に一回ある国が運営している契約者の適性診断で俊介は採用され保護を含めて千葉神対策局に住むことになったんだ。」
俊介は虐待を受けていたのか…………… じゃあ、五右衛門達と一緒で子供を虐待するような親は葬儀は開かないって事なのかな。
「俊介先輩が亡くなった事を元両親には伝えたんですか?」
ミツレが俺も聞こうとしていた事を先に坂田に聞いた。元両親というあたりに皮肉が含まれている。
「一応、連絡はしたが死んでよかったから葬儀なんてしなくていい、金の無駄とか散々言われたから電話を途中で切ってやった。クソがっ!!」
赤信号で青信号に変わるのを待っていたのだが坂田がハンドルを強く叩く。坂田は俊介達を実の子供のように愛していたのが分かった。
「坂田さん………………」
俺とミツレの心配そうな目線で坂田は我に帰ったのか怒りの表情がスーッと治る。それと同時に信号が変わり車も再び進み出す。
「すまない、話の続きをしよう。この3人の葬儀は行われないと言ったが正直、対策局で費用を負担すれば3人は葬儀が出来る。でも、杏は厳しいかもしれないな」
どういうことだ? 五右衛門と凛は両親との音信不通で俊介はクソ両親のせいという理由があるが、そういえば杏の話は坂田はまだしていなかった。
「どういう事っすか? 何か問題があるんですか?」
「続きを話そうと思ったがどうやら目的地に着いたようだ。二人とも降りろ。ここが杏の実家だ」
病院があった海側よりも中央側のいわゆる山側にやってきた俺たちだが、車は豪邸のたくさんある駐車場の一角に停まった。
豪邸は日本式のいわゆる平安時代の貴族が済んでそうな寝殿造の屋敷だ。ここからは2メートルはある塀のせいで中を見ることは出来ないが敷地だけで見ても千葉神対策局よりは格段に広いという事はわかった。
「ここが杏先輩の実家………… 豪邸ですね。」
ミツレはポカーンとした顔で白塗りの塀を見上げる。まぁ、無理もない。俺だってこんな貴族が住んでるような屋敷を見たのは初めてだ。
「入り口はこっちだ。」
砂利道を進むと等間隔に白い石が並べられていた。その石は門までの道のりを表していて俺とミツレと坂田は門の前まで来た。
「あれ? この表札、三門って書いてありますよ。杏先輩の苗字は結城だったはずでは………」
ミツレが指差した木製の表札には赤く三門と書かれていた。なぜ結城ではないのだ?
「あ、ああそれはだな。実は」
坂田が何かを言おうとしたが大きな門の開く音で坂田の声はかき消された。俺たちは扉を開けてないはずなんだが。
「お待ちしておりました、坂田様。当主様がお待ちです」
度が開くとスーツを着て黒いサングラスをかけているエスピーが一人出てきた。
「分かりました。お待たせしてすいません」
坂田はエスピーに一礼し、名刺を交換した。ここだけ見たらサラリーマンにしか見えない。
「いえ、当主様も坂田様が来られるのはお喜びになっておりました。では、私の後についてきてください。」
エスピーは受け取った名刺を右ポケットに少し雑に入れ、俺たちを先導する。
「悠真、ミツレ、これから起きることは目をつぶってくれ。何があってもだ。」
坂田は俺とミツレにそういうとエスピーから貰った名刺を握りつぶし左ポッケに入れ、エスピーの後を追う。
「坂田さん、怖いです…………」
「ああ、なんか様子が変だ。とりあえず俺たちもついて行こう」
「ええ…………」
不安そうに言うミツレをなだめて俺とミツレは坂田の後を追う。
何かが起きそうな気がするな。嫌な胸騒ぎがさっきからしている。
少し遅くなりましたが更新しました! 個人的に三章のテーマは愛だと思ってます。
下手くそです、アドバイスお願いします




