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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第3章 母なる者
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朝の散歩

「身体の痛みはありますか? 私もついさっき起きたのですが全身が痛くて………」


ミツレにそう言われ、肩を上下に動かしてみる。動かすたびにミシミシと体が悲鳴をあげてあるのがあるのが分かった。


「イタタタタ………… 俺も全身が痛いな。筋肉痛か骨の痛みなのかは分からんけどミツレもそんな感じか?」


「はい、私もそんな感じですかね。全身の筋肉痛と右腕、左足の打撲です。」


あれほど激しい戦いがあったんだ。でも、俺とミツレは運が良くて全身の筋肉痛と打撲だけで済んだ。骨折とかの大怪我はしてなくて本当に良かった。


「あ、そういえば坂田さんはどうしてるんだ?」


坂田はツクヨミとの一戦で身体共に痛めてるはずだ。その坂田は俺の記憶が正しければ病院には行っていない。


「坂田さんは私たちを病院に運んだ後にドクさんと一緒に千葉神対策局に帰りました。その後の事は分かりません。」


「そっか………」


治療しなくても大丈夫なのだろうか。心配だが坂田のことだ、きっと大丈夫なのだろう。




「はいはーい、朝ごはんの時間ですよ〜」


ガチャリという音と共に俺とミツレがいる病室の扉を勢いよく開けて一人の若いナースが入ってきた。両手には、おぼんに乗った2人分の朝ごはんがある。

急に入ってきたので俺とミツレはビックリした。



「じゃ、九尾さんの分はここに置いとくね。」


ナースは朝ごはんの乗ったおぼんをミツレのベッドの隣にある机に置く。


「ありがとうございます。」


次に俺の方をクルリと向くと、俺の左手側にある机に朝ごはんの乗ったおぼんを置く。ナースは俺の方を見ると前かがみになって俺の額をデコピンをする。


「はい! ここに置いとくから食べて早く元気になってね。バイバーイ!」


「あ、ありがとうございます。じゃ、ミツレ食べ…………」


部屋を出て行くナースに手を振り、ミツレの方を振り返るとジトーとした目で俺の方を見ている。


「ど、どうしたんだミツレ? 早く食べないと冷めるぞ?」


「神崎さん、あの看護婦さんが前にかがんだ時にオッパイめちゃくちゃ凝視してましたよね?」


その発言で俺は呑んでいた熱いお茶を吹く。真面目なミツレがオッパイとか言ったら無理もない。


「ミ、ミツレさん!? 朝っぱらから何言ってんの!?」


ゴホゴホと気管に入ったお茶を出そうとしながらミツレを横目で見る。ミツレの目つきは変わっていない。


「いや、別に良いんですよ? 男の人は大きなオッパイがだーいすきですから仕方のないことです。朝っぱらからだーいすきなオッパイが見れて神崎 悠真さんは良かったですね。」


ミツレ、巨乳で嫌な思い出があるのか? オッパイという度に左目がピクピクしている。しかも、なんでフルネーム呼びなんだ……………


「ちょっと待て! 俺は胸は見てないぞ! あのナースさんは確かに可愛かったけど初対面で胸を凝視するやつなんているか!」


「じゃ、初対面じゃなくて2回目だったら良いんですね。私もそういう目で見てたんですか? あ、私はナースさんみたいな大きなオッパイは無いから眼中にないですね。」


ヤバイ、ミツレの目がどんどん輝きを失っていってる。俺の言い訳がまさに火に油を注ぐ結果になってしまったか!


「まてまて、マジで誤解してるって! 」


「まぁ、神崎悠真さんはオッパイ大好き星人ですねー。そんな人と契約してるなんて悲しくなってきましたね。」


ミツレはそう言うと朝ごはんの卵焼きを一つ、箸で突き刺し口に入れる。


「う…………… マジでごめんって!」




何に怒ってるのかは分からんがここは謝るべきだ。俺の剣道の先輩も、


「女は時々訳の分からない事で機嫌が悪くなる。そう言う時は俺らが折れるしかない。」


とか言ってたからコレが最善の方法だ。



「ったく! 神崎さんは女の人の胸を見過ぎです! 女の私から言っときますけど、そんなんだったら彼女できませんよ。」


ミツレはため息をつくと俺の方を見る。彼女いない歴史イコール年齢の俺にその言葉は痛すぎる。


「う…………… 分かりました。」


クスッとミツレは笑うと、


「さ、朝ごはんを食べましょうよ! 塩ジャケ美味しいですよ。」


「おう、いただきます!」




朝ごはんの内容は味噌汁と卵焼き、焼き鮭にご飯といういかにも和食という感じのものだった。全体的に少し薄味だが病院食なので健康のためだと思えば仕方がない。


ちなみにこの時の俺とミツレの服装は薄い緑色のパジャマのようなものだ。昨日疲れて寝落ちした時に病院の人が着替えさせてくれたのだろう。


朝ごはんを食べた後は非常に暇だ。ミツレは昨日の疲れが残ってるので寝ますって言って朝ごはんを食べたらすぐに寝た。


「ふぁーあ、外に散歩にでもリハビリがてら行くか。」


俺たちの病室は二階にあり、俺のベッドは窓側だ。すぐそこに海岸があるので行ってみるとしよう。

外出する時に着てた服が一切無いので部屋の隅に掛かっていた黒色のカーディガンを羽織る。履いてた靴はベッドの下にあったので取り出して履く。


「よし、行くか」


病室の扉を開けると目の前にエレベーターがあった。俺らが止まっている部屋は場所がいいな。エレベーターに乗り一階を選択する。二階から一階に降りるだけなのですぐに一階に着いた。


「どうされましたか?」


エレベーターが一階に着く音で気づいたのかカウンターに座っていた中年のおばさん看護婦が話しかけてきた。


「暇なので少し散歩をしようと思いまして。あ、近所をフラフラ回るだけなんすけど大丈夫ですかね?」


一応、俺は入院している身だ。病院の人に外に行く事ぐらいは言った方がいいだろう。

看護婦はニコリと笑い、


「大丈夫ですよ。行ってらっしゃい」


笑顔で手を振りながら俺を送った。自動ドアが開き、外の世界に俺は入る。朝の澄んだ空気と海風が運ぶ潮の香りが俺の鼻と体を刺激する。


「やっぱり冬の朝は寒いな。ま、歩いてたらあったまるだろ。」


ズボンに両手を突っ込み病院を後にする。筋肉痛と打撲で歩きづらいが仕方ない。

病院の目の前に海岸があり、その近くに砂浜がある事を病室から見て知ったので砂浜まで歩いてみることにした。

道路を挟んで海岸があるので、まずは向こうに渡る。松が等間隔に並んでおり俺は松の樹の下を歩く。意外にもすぐに砂浜に着いた。砂浜に波が打ち付けられる音が心地良い。


「意外に近かったな。あ、そこにベンチがあるから座るか。」


ベンチや海の家があるので、夏にはビーチとしてこの砂浜は賑わうのだろう。俺は古びた木製の赤いベンチに腰掛ける。


「ふぅ…………… また、山口県に戻ってくるとはなぁ。」


砂浜をボーッと眺めるのは嫌いじゃない。早朝だからか人の気配がなく、この砂浜を独り占めしている感覚も最高だ。


「ん? 一人だと思ったら誰かいるな………」


俺の視界の隅で砂浜にしゃがみ込んでセッセと何かをビニール袋に入れている女の人がいた。


「こんな平日の朝に何やってんるんだ。」


初めは気にもかけずに砂浜を見ていたが10分ぐらい経っても女の人は何かを拾っている。話しかけようとかは微塵も思わなかったが暇だし、雰囲気だけど俺と同じ年ぐらいなので話しかけてみることにした。女の方に近づき、


「何拾ってるんですか?」


急に後ろから話しかけられてビックリしたのか白いワンピースを着た女は肩を揺らす。そして、俺の方を振り向くと、


「今、シーグラスを拾ってるんですよ。ほら、こんなのです。」


女は立ち上がると俺の方に右手を差し出し手の中にある物を見せた。


「うわ! なんだこれ! スッゲェ綺麗だ!」


手の中で青い色の薄い石が光に反射して輝いている。半透明なので少しだけ手のひらが透けて見える。


「これ、実はガラスなんですよ。」


女はニコッと笑うとビニール袋から大小さまざまな石を出し見せる。


「赤や緑、透明まで………… こんな綺麗な物が元はガラスだなんて信じられない。」


「長い年月をかけてガラスのカケラが波や海底の石や砂で角が削れて出来た物なんです。同じ物は世界に一つもない。一つ一つに個性があるんですよ。」


そう言うと女は、またしゃがみ込んでシーグラスを拾う。俺も横にしゃがみ込んで女に聞いてみた。


「俺も拾ってもいいっすかね?」


女はまたニコッと笑うと、


「もちろん! 一緒に拾いましょう。」


俺と女はしゃがみ込んでシーグラスを拾った。どれくらいの時間拾っていたのかは分からないがビニール袋が満タンになったので拾うのをやめた。


「ふぅ…………… たくさん拾いました〜! ありがとうございます。」


女は俺にペコリと頭を下げてお礼を言う。


「いやいや、お礼なんていいですよ。そういえば名前を聞いてませんでした。お名前は?」


急に名前を聞かれて少し女は驚いたが微笑むと、


星宮 氷華(ほしみや ひょうか)です。中学三年生の15歳です。」


「15歳!? 俺と同い年ですよ。俺の名前は神崎 悠真、星宮さんと同じ15歳です。」


星宮は驚き、


「同い年とは思いませんでした! なら、敬語で話し合うのもなんか変ですね。」


頭を少し掻くと星宮は少し頰を赤らめる。


「それもそうだな。敬語はやめようぜ」


「そうだね! 悠真くん!」


女子から下の名前で呼ばれるなんて滅多にない俺からしたら不意打ちで顔が一瞬にして赤くなる。


「お、おう! 氷華!」


氷華は俺のことを下の名前で呼んだことに気づき、顔がさらに赤くなる。


「そういえば氷華は学校に行かなくていいのか? この時間だと学校が始まってるだろ?」


俺が言えない事だが、今の時刻は8時半なので学校が始まってるはずだ。高校入試を控えた氷華がどうして…………


「それは…………」


氷華は言いづらい事があるのか口を濁らせ、肩まであるブロンズ色の髪の毛を触る。あまり言いたくないみたいだ。


「言いたくないなら言わなくていいよ。俺も神の襲撃受けて学校行けてないんだよな。」


俺が神の襲撃を受けて学校に行かない事を知った氷華は、


「実は私もなんだよね。地元の福岡県にいた頃に神の襲撃を受けてお父さんもお母さんも死んじゃったんだ…………」


氷華も俺と一緒で神の襲撃によって両親を亡くしたらしい。俺と一緒の境遇だ。


「俺も神の襲撃で両親と親友を亡くした。俺と氷華、似た者同士だな。」


暗い顔になった氷華を少しでも慰めるために俺も両親と仁を亡くした事を打ち明けた。

氷華は少し顔が明るくなると俺に手を差し伸べながら、


「似た者同士かもしれないね。強く生きよう!」


「ああ! お互い頑張ろうぜ!」


俺と握手を交わした。俺と一緒のツライ体験をした人とこんなトコで会えるとは思いもしなかった。


「氷華! 何もしている!」


男の声が背後から聞こえ、俺と氷華は振り返る。砂浜の少し奥の道路のとこに黒い車に乗っているガタイのでかい男が氷華を呼ぶ。


「氷華……………?」


男から呼ばれた氷華は一瞬、悲しい表情になったが俺の方を向くと笑顔になり、


「迎えが来たみたい。少しの間だけど話せて楽しかったよ。じゃあね。」


そう言うと氷華は俺の右の手のひらに青いシーグラスを一枚握らせ、シーグラスが入ったビニール袋を持ちながら小走りで男の車の方に向かう。


「氷華!」


俺の呼びかけに氷華は一瞬止まったが、すぐに走り出し黒い車に乗り、去って行った。


「なんだったんだ一体……………」


渡されたシーグラスをズボンのポケットに入れる。靴の中に入った砂を掻き出す。


「うわ、結構入ってんな。じゃ、俺もそろそろ帰るかな」






靴の中の砂を出し、俺は病院へと向かった。病室の目の前に着き、扉をそっと開ける。


「ただいま〜っと。あ、まだ寝てんな」


ミツレを起こさないようにそっと病室の扉を開けたが布団を頭から被って寝ているので音は聞こえないから意味がなかった。

靴を脱ぎスリッパに履き替え、ベッドに横になり枕元の置き時計の時間を確認する。


「まだ、9時半か…………」





人生初の入院で悠真は入院がどれほど暇なものかを知ったのであった。


新章突入! 入院生活を始めた二人はいかがだったでしょうか?

アドバイスや感想、どしどしお願いします!

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