悲劇再び
「そ、そんな……… あれほどの高魔力の謎の物体が先輩たちのとこに………」
俺は膝から崩れ落ちた。西園寺やミツレの顔からして、謎の黒いモヤはかなりの魔力を持っているという事だ。
「神崎さん、諦めるのはまだ早いですよ。先輩たちだけじゃありません。2クラス分の神の殺し方を学んでいる未来の隊員たちがいるんです。すぐにやられるなんて事は絶対にありえません!」
ミツレは俺の腕を掴み、起き上がらせた。ミツレのまっすぐな目は澄んでいて希望に満ち溢れている。
対して俺はどうだ? いつもマイナスな事ばかり考えてしまう。こんなのだと仁に笑われてしまうな。
「その通りだなミツレ。俺たちも早く先輩たちのとこに行って手助けをしてあげよう!」
「はい、では早速行きましょうか。契約起動!」
「おう! 契約起動っ!!」
ミツレと俺は光に一瞬包まれ契約起動後の姿になる。よし、早く行かないと!!
「あ、少し待ってくれ! これから僕が言うことは最悪の事態だけど聞いてくれ。」
三の力で飛ぼうとした瞬間に西園寺から呼び止められた。
「最悪の事態? どういう事ですか?」
ミツレが首を傾げる。神殺しの人が2クラスってことはは40人近くがいるということだ。黒いモヤは一つだけだったし1対40だと圧勝なんじゃないのか………?
「確かに最悪の事態にはならないと思うけど嫌な予感がするんだ。ここまでドス黒い魔力は感じた事がないんだ。九尾さんも分かるよね?」
西園寺はチラリとミツレの方を見る。ミツレは頷くと、
「はい、確かに今まで感じた事のないような嫌な魔力です。正体は何者か分かりませんが未熟とはいえ神殺しの卵の方たちです。その心配はきっといらないですよ。」
西園寺はフッと笑うと、
「そうだよね。すまない、足取りを止めてしまった。僕は九州地方の軍の関係者に連絡を取って応戦してもらうようにするから二人は謎の黒いモヤの正体を突き止めるのと、神高の2クラスの援護に向かってくれ!」
「分かりました! 行くぞミツレ! 五の力!」
俺の背中にミツレの右手が触れた事を確認して黒いモヤが落ちた北のほうを目を閉じて頭の中で想像する。
さすがに黒いモヤの目の前に突然現れるのは危険だから30メートル離れるように頭で念じて目を開ける。
「三の力起動っ! この角度でぶん投げるっと!!」
北の方角目掛けて力一杯ぶん投げる。ナイフが完全に見えなくなるのを待ち、
「遠隔起動!」
一瞬にしてテントだらけの視界が悲惨な視界に変わった。
「うわああああ!? え? どうなったんだよ! ほんの数分間の出来事だよな!?」
「あ、ありえません………… この数分間で一体何が起きたんですか!」
俺らの周りには死体が沢山転がっていた。その数、実に20体で、どの死体も顔を認識できないほど裂傷で傷ついており、内臓が全て引きずり出されていた。
辺りには生臭い血の香りが広がり、思わず吐き気を催してしまいそうだ。
「ダメです、全員 心臓が止まってます。」
ミツレが全ての遺体に確認を込めて心臓の鼓動を確認したが全て止まっていたようだ。
「クソ! 俺がもう少し早く来ていれば!」
「神崎さん……………」
「うわああああああ!!! やめてくれぇ!! 」
どこかで聞いた事のある声が聞こえた。この声の主は………!
「この声は俊介先輩です! あっちの方から聞こえます!」
「分かった、声の音量からして遠くはなさそうだ。早く行こう!」
声が聞こえた、モノレールの駅の残骸を踏み分け、丘を超えると、そこに俊介と五右衛門はいた。数多の遺体で出来た山に君臨している、リザードに二人は首を捕まれ宙吊りにされている。
その距離、10メートルほど。戦場でこの距離は誰かを助けるのには致命的な距離だ。
「俊介先輩! 五右衛門先輩!」
「ゆ、悠真…… 逃げろ! コイツはただのリザードじゃな」
俊介は何かを喋ろうとしたが叫んだせいでリザードは俺とミツレの存在に気付き、俊介と五右衛門をこちらに投げつけてきた。
かろうじて俺は俊介を、ミツレは五右衛門をキャッチした。
「五右衛門先輩、その腕………」
ミツレが五右衛門の腕を心配している。俺はそっと五右衛門の腕を見た。五右衛門の腕は根元から千切られていた。
傷の断面図の状態から見て新しいだろう。
「イテテテ、かっこ悪い姿見られたぜ。なぁ、俊介?」
「その通りだな。二人とも、俺らの事はもういい。助かりそうにないんだ。五右衛門は左腕を、俺は内臓がいくつかダメになってしまったんだ。」
俊介はそう言うと腹の辺りに手をやる。すると俊介の右手は真っ赤に染まった。
「ったくよぉ、俺ら一年を守るために先輩たちは命を投げ出したのに生き残った一年は俺と五右衛門だけか。次は未来の後輩を守るために俺らが犠牲になる番だ!」
俊介はゲホゲホと咳き込む。口からは大量の血が溢れ出た。
「ま、まさか二年の先輩たちは………」
ミツレがガクガクと震えながらリザードが立っている死体の山を指差す。
五右衛門はギリっと歯ぎしりをすると、
「ああ、全滅だ」
「そ、そんな! 神殺しの術を学んでいる先輩たちでも敵わないってあのリザードは何者なんですか!」
このままだと俊介と五右衛門が危ない。やるしかないか。
「ミツレ、俊介先輩と五右衛門先輩の止血を頼む。止血の時間は10分で足りるか?」
「悠真! あのリザードは」
「分かりました。五分で間に合わせます。」
「ミツレちゃんまで! アイツは」
「先輩たち、今の神崎さんは少したくましくなってますから心配しなくても大丈夫です。今は自分の心配をしてください。」
「そういう事です。あのリザードは止まったままか。一気にたたみかける!」
剣を鞘から引き抜き、一気にリザードとの間合いを詰める。
この距離なら切れるっ! 動かないリザードの首を断ち切ろうとしたがヒョイと避けられた。
リザードは俺と5メートルほど距離をとると、頭を抱えだして叫び出した。
「ボジハ ボジハ ボジアアアアアアアアアア!!! イナャジ ミガ ボジアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
その声は機械音声だがどこか寂しそうだった。
下手くそです! アドバイスお願いします!




