妹
俺らは、元帥室を後にした。先ほどのルシファーという奴の名前が出てから俺たちは無言だった。だって、俺たちに与えられた任務が神と協力?ふざけんなよ!
「まぁ、今の心情は俺にも理解できる。アイツの存在をしった昔の俺もお前達のような複雑な心情だった。結局は神が作った物は神の力を使わないと真価を発揮できないってわけだな」
エレベーターの中で坂田が口を開いた。クッソ!なんで神なんかを生かしてるんだ!さっさと殺せばいいのに・・・・!
「神崎さん・・・・目が怖いです。私も神崎さんと同じ事を思っています。どうして、神が人間界にいるのだと」
九尾が俺の服の裾を掴む。俺は、ハッとして
「あ、ああゴメン。坂田さん、ルシファーってどんな奴なんですか?」
俺は心を落ち着かせて聞いてみた。坂田は少し困った表情を浮かべると、
「一言でいうと神のスパイだった奴だ。なんやかんやあって、神の世界から見捨てられて神の地位を奪われた奴だな。一応、人類の味方だから心配はするな。」
神の地位を奪われた?どういう事だ・・・・。
「お、一階に着いたな。降りるぞ」
ロビーには人が少なかった。壁に掛けてある時計を見てみると時刻は午後の4時。もう、こんなに経っていたのか。
「ふむ、もういい時間だな。帰りはドクさんが小型船を手配してくれている。海まではタクシーで行こう。少し待ってくれ。呼ぶから」
そう言い、坂田はスマホを取り出し電話をかけた。どうやら、タクシーを呼ぶらしい。俺と九尾も隣で待っていると坂田が俺の右手に500円玉を握らせた。どうやら、ジュースを買って九尾と飲んでろということらしい。俺は、ありがたく受け取り、
「九尾、坂田さんがジュースでも飲んでろだって。あ、そこの自販機に行こーぜ」
九尾はニコッとすると、
「そうですね。ありがとうございます!坂田さん!」
坂田はグッドサインをして電話に戻る。坂田の表情から分かる事だがタクシーが中々捕まらないらしい。
「じゃ、俺はオロナミンGを飲もうかな。九尾は何にする?」
九尾は腕組みをして悩むと俺のほうを見て、
「そうですね・・・・神崎さんと同じのにします。」
九尾は少し微笑むと俺と同じオロナミンGのボタンを押した。こんな笑み童貞ならワンパンだぞ!あ、俺は童貞だった・・・・
「神崎さん、どうしました?顔が赤いですよ?」
九尾が俺の顔を覗き込む。俺はドキッとしつつ
「何でもねーよ。さぁ、飲もうぜ」
プシュっていう音とともに化学的な匂いが鼻を突き抜ける。俺はそれを一気に喉に流し込む。強烈な炭酸が喉を刺激する。
「プハァ!これだよなぁ〜、やっぱりオロナミンGは最高だぜ!」
隣を見ると九尾は開け方が分からないのかペットボトルなのに缶の飲み物のようにキャップを縦に開こうとしている。
「か、神崎さん・・・・!開きません!」
あ、そーか九尾は人間界に来てから缶のジュースしか見てないから開け方が分からないのか。
「九尾、貸してみろ。こうやって開けるんだ」
俺は九尾からオロナミンGを受け取り開けた。それを九尾に渡して、
「ほい、飲んでみろよ」
「は、はい。では、いただきます」
九尾はそう言うとペットボトルに口をつけるとチビっと飲んだ。
すると、目をつぶりペットボトルの口から唇を離す。
「うっ!ああっ・・・・す、すいません。神崎さん、私この飲み物無理です。シュワシュワがどうも無理で・・・・ん?どうしたんですか?神崎さん?」
俺は顔が真っ赤になっていた。そりゃあ、目の前で女の子が変な声出したら健全な日本男児は反応してしまうだろ!?あ、反応するって変な意味ではないよ!
「あ、ああ。すまんすまん、何でもないよ」
九尾はペットボトルのキャップをキュッと閉めると俺に渡した。
「神崎さん、すいませんが私は飲めないので神崎さんが飲んでくれませんか?捨てるの勿体無いですし」
この言葉を聞いて頭が真っ白になった。え?なに、どういう事!?か、か、間接キスになっちゃうよ!?九尾は俺を試してるのか!?
この時、俺の中には2人の俺がいた。片方は天使、すなわち飲まない側だ。
「ダメだよ!九尾は人間界に来てから日が浅いからこっちの常識を知らないで言ってるんだよ!そんな無垢な少女にそんな下劣な事をしていいのかい!?」
くっ!天使側の言い分も分かる!しかし・・・・!もう片方の俺が耳元で囁く。
「ケケケケ!飲んじまえよ!自分の欲望に素直になれよ!初めての異性とのキ・スだぜ!最高の思い出だぜぇ!!」
クッソ!どっちにしたらいいんだ!?
「神崎さん?どうしたんですか?頭を抱え込んで。頭痛いんですか?」
俺の2つの思考の争いを止めたのは九尾だった。
「いや、大丈夫だ!ほら!この通り元気だぜ!」
「変な神崎さん。それよりも、オロナミンGどうしますか?
あ、神崎さんそう言えば一本飲んでいらしたから糖分の摂り過ぎですね。これは千葉神対策局に帰ってから誰かにあげます。」
九尾はペットボトルを懐にしまう。俺は何故か落胆してしまった。
「どうしたんですか?顔が悲しそうですよ?」
「いや・・・・大丈夫だよ」
いやいや!なに期待してるんだ!俺は!
「あ!坂田さんが手を振ってます!隣には車がいます!」
俺は九尾が指指した方を見る。どうやら、やっとタクシーが着いたらしい。
「お、来たらしな。じゃ、行きますか」
「そうですね!」
飲み終わったオロナミンGの容器をゴミ箱に捨て、坂田の方へと向かい、タクシーに乗る。坂田は助手席に座り、俺と九尾は後部座席だ。
「じゃ、行くぞ。ニュー東港までお願いします。」
坂田は運転手に目的地を言うと俺らの方を見ると、
「お前ら、明日は朝早くから行くから早く寝ろよ。そういえば悠真、お前って身内はいるのか?」
急にきた質問に一瞬ビクッとなりつつ質問に答える。
「そうですね・・・・爺ちゃんと婆ちゃんは俺が幼い時に亡くなったし、親戚も遠縁の人しかいないし・・・・とても親戚とは言えませんね。」
坂田は、うーむと唸ると
「そうか。お前の身柄を俺が預かるからなぁ・・・・親戚とかに言っておきたかったんだかな。兄弟はいないのか?」
「兄弟?あ、妹がいますよ。」
坂田と九尾の表情が暗くなる。あれ?俺なんかまずいこと言ったかな?
「妹か・・・・救えなくて申し訳ない・・・・!」
「神崎さん・・・・」
なんか勘違いしてるんで誤解を解こうと、
「あ、違います、生きてるっす。今、アメリカに留学していているんすよ」
俺が言った瞬間に剣の時と同じ雰囲気になった。あれ?なんで?
「先に言えよ!なら、安否確認ぐらいするために電話せんかーい!」
坂田の渾身のツッコミが決まる。九尾も負けずに、
「早く連絡してください!妹さん心配してますよ!」
俺はそう言われ制服のポッケをガサゴソ探す。スマホはあったが画面はバキバキに割れており充電も無く電源がつかない。
「す、すいません。電源が充電が足りなくてつきません」
すると、坂田がスマホを取り上げ
「ちょっと貸せ!俺のモバイルバッテリーを使わせてや
る。よし!つけた!電源を入れてみろ!」
坂田はモバイルバッテリーを俺のスマホに取り付けるとスマホを渡した。俺はそれを受け取り、
「じゃ、つけます。」
電源がつき、食べかけのスイカのマークが出てくる。俺のスマホは大手スマホメーカーのSUIKAだ。
電源がつくと急に着信音が鳴った。俺は電話に出る。
「もしもし。」
「もしもしじゃない!バカ兄貴!うう・・・・えっぐ・・・・テレビで日本が大変な事になっていて心配してたんだよ!?生存者リストで兄貴の名前があって安心したよ・・・・!ママとパパは残念だけど兄貴が無事で良かった・・・・!ユウナ心配したんだよ!?なんで電話しなかったの!?」
嗚咽交じりの声で妹ことユウナは俺を怒鳴り散らした。確かに悪かったなぁって思ったが、こっちは色々と大変だったんだぞ・・・・
「あ、ああすまん。色々と大変でさぁ、マジで悪りぃ」
とりあえず謝っとこと思ったので謝っておく。すると、隣に座っていた九尾が、
「ったく、神崎さん。妹さんを泣かせてはいけませんよ。妹さんがどれだけ心配したことか」
「うう・・・・九尾まで・・・・悪かったよ。ん?どした?ユウナ、黙り込んで?あれ、電波悪いのか?」
「ねぇ、兄貴その女誰?」
さっきまでのユウナの声と違う。こ、この声は俺がユウナのアイスを間違って食べてしまった時の声のトーンだ・・・・なんか、嫌な予感がする。
「だ、誰って言ってみれば俺の命の恩人だよ。変わるか?」
「ちょっと!兄貴!知らない女に着いて行ったらダメってあれほど言ったでしょ!?兄貴はユウナだけ見てればいいの!」
ええ〜、なんかメンドクセェ!確かに言われたことがあるような・・・・ってか!どうでもよくねーか!?
「おいおい、どうしたんだよ?急に怒鳴って。まぁ、それよりもアメリカはどうだ?今年帰って来るんだろ?」
とりあえず話題を変えようと留学の話題を持ち出す。
「ったく!兄貴はすぐに話を誤魔化すんだから・・・・まぁ、留学は楽しめてるよ!友達もたくさんできたし英語もペラペラに話せるようになったよ!あ、ヤバい!マイケル先生だ。ゴメン切るよ兄貴!」
ガチャ!という乱暴な切り方をされて耳が痛くなった。
「あいつ、絶対授業中に電話してたな・・・・あんな大声でバレないもんなのか。」
俺は坂田にモバイルバッテリーを返す。すると坂田は、
「悠真、スマホも預かっておこう。今週中には修理しておいてやる。」
思いがけない事を言われて嬉しくなった。いや〜、スマホこのままで使おうと覚悟してたからなぁ。
「ありがとうございます!」
俺は坂田にスマホを渡す。すると、スマホに付けてあった金属で作られた竹刀のストラップが落ちた。
「あ、神崎さん落ちましたよ」
九尾が拾ってくれて俺に渡す。俺はそれを受け取った。このストラップは・・・・!
「神崎さん?どうかされましたか?」
九尾が顔を近づけた。一瞬ドキッとしつつもストラップについて語る
「これは仁が俺にくれたお揃いのストラップなんだ。アイツは確かネックレスに改造してたなぁ。それで先生に見つかったら怒られてたっけ」
あの時の日常が蘇ってくる。何気ない日常があんなに大切だったなんてなぁ・・・・おまえの言う通りだっな、仁。
「そうでしたか・・・・じゃあ、私がネックレスに改造してあげますよ。支局に着いたら貸してください。」
「ホントか!?ありがとなぁ九尾!」
なんか、九尾がいなかったら俺は病んでいたかもなぁ。いや九尾だけじゃないな、千葉神対策局の人達にも感謝しないとなぁ・・・・
俺は、周りからの支えがないと生きていけないのか
な・・・・
キーッ!という音がしてタクシーが止まる。どうやらついたらしい。
坂田はお金を運転手に渡すと俺らに降りる合図をした。
港には誰1人といない。潮風だけが音を発していて鼻に磯の香りがツンと入る。
「もう少し歩いたとこにドクさんがいる。ついてきてくれ」
坂田が俺たちの先頭を歩く。少し歩くと小型船が見えた。ドクさんが手を振っている。
「じゃ、行くぞ。」
坂田はそう言うと地面を強く蹴りジャンプし、船に飛び乗る。
俺らの方をチラリと見ると、
「ほら、おまえらも早くしろ」
いやいや!港から船まで2メートルはあるぞ!?飛べるか!
「神崎さん、行きますよ」
九尾は俺の手を握ると3メートルほど後ろに下がる。
「ちょ!?九尾さん!?手、手!」
「そんな事より、早く行きますよっ!」
九尾は俺の手を引いたまま全速力で走り、高く跳ね上がった。
「うわあああああああああ!!」
俺は思わず目を閉じてしまった。その直後、尻に強い衝撃が走った。
「う!いたたた・・・・ふぅ、ついたぁ〜」
「神崎さん、大丈夫ですか?」
九尾が俺に手を差し出す。九尾の手を借りて起き上がる。はぁ、情けねぇ・・・・
「船長、お願いします」
船長と言われた髭モジャの強面の男は無言で頷くと船を走らせる。
それにしてもケツがイテェ!




