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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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ベッドの上で再び

 

 深い深い闇の中。少年の瞼は永久の夢の世界から逃がすまいと閉ざされる。だが、夜明けというものは訪れる。そう、生きている者であれば…………


「………ん、ここは………」


 俺は、重たい瞼を擦り上体を起こす。消毒液の独特なにおい。そして、白いカーテンで仕切られた異質な空間……


「神崎さん! お身体の調子は大丈夫ですか?」


「ミツレ!」


 俺の枕元の椅子にミツレが座っていた。神高の制服に身を包んだ、銀髪の美少女。それに引き換え、俺は茶色の寝巻きだ。


「おい、うるせーぞ。ここは病室だ」


「あ、すいま…………… 流風! それに氷華!」


 隣の白いカーテンが勢いよく開かれ、そこにはリンゴを片手に握った流風と、ベットで俺と同じ寝巻きを着た氷華がいた。


「とりあえず、無事で良かったよ〜」


 苦笑いを浮かべる氷華、だが彼女は身体の至る所を包帯でグルグル巻きにされている。

 正直、俺は大した怪我ではないが、氷華はキツそうだ。


「無事ぃ? アンタねぇ、無茶したくせ!」


「イタタタ! 痛いよぉ〜 流風ちゃん!」


 氷華の()()という言葉に反応して、流風が彼女の頬をつねる。

 半分怒り、そして半分は無事で良かったというような表情を顔に滲ませながら。


「病院ではお静かにっ!」


 俺たちが騒ぎすぎたのか、女性の看護師に怒鳴られてしまう。

 そして、俺たちはバツが悪そうに、会釈をして、こう口にするのだ。


「すいませんでした!」



 

 俺が目を覚ましたのが夕方ごろだった。あの惨状が起きて、ひと段落したのも同じように夕方だったので、約1日寝ていたことになるようだ。

 ひとしきり声を抑えながら、あのとき何があったのかを話し合う。俺とミツレが遭遇したトールとロキのこと、突如現れた二体の(ナンバーズ)、そして惨劇をもたらした北欧神王国 神王、オーディーンのこと………


「神王、あまり思い出したくはないな………」


「えぇ、あの大地が震える声は神王の共通点ですね…………」


 流風とミツレは、お互いに一瞬だけ目を合わせ、心臓の位置を手で押さえる。そうか、この二人は………


「お、お話し中悪いけど、それそろ消灯時間です。お二人は帰ってもらってもよろしいですか?」


 俺たちの報告会は、すこし申し訳なさそうな女性の看護師が終わらせる。

 気が弱そうな彼女は、ベッドと外の世界を閉ざしていたカーテンを開ける。


「あら、もう消灯時間の夜の九時ですか。つい話し込んでしまいましたね」


「そうみたい。流風とミツレは先に千葉対策局に戻る」


 さっき話していたが、俺は明日の朝に退院、氷華は凍傷の治療で一週間後に退院予定だということだ。    

 本来であれば、一か月は入院するぐらいの凍傷になってもおかしくはなかったらしいが、短期間の寒さと契約による身体強化で、ここまでの被害に抑え込めたらしい。


「あ、坂田さんからの伝言ですが、神崎さんは、明日坂田さんが迎えに来てくれるそうです。私と流風は、ほかのクラスメイトのところを一日かけて回る予定です」


「ほかのやつらには、あれ以来会えてない。流風たちで、いろいろな病院を探し回ってみる」


 そう、あの惨劇以降、神高の生徒たちや対策局の人たちの安否は不明だ。だれが生き残り、そして帰らぬ人になったのか、まだ何もわからない。

 ミツレたちは、各地の病院を一日かけて回り、クラスメイトの無事を確認をするようだ。


「まだ何も情報が出ていないもんな………頼んだ」


「二人とも、気を付けてね」


 ミツレと流風は、無言でうなずくと部屋を後にする。それと、ほぼ同時に電気が消える。隣のベッドから、ポスっとベッドに人が倒れる音が聞こえる。


「じゃ、おやすみ悠真くん。私は、もう少し病院にいるけど、みんなによろしくね」


「あぁ、おやすみ。無理はするなよ」


 その言葉に対して、返事は帰ってこなかった。だが、無理もない。いくら契約の力があったとはいえ、氷華は体力も魔力も使いすぎた。

 まだ戦闘に慣れてない彼女が、こうなるのも無理はない。まぁ、俺も人のこと言えるほど戦いになれてはいないのだが…………


 俺は再び瞼を閉じる。さっきまで、気を失うように寝ていたが、今はもう目がさえている。


「とは言っても、坂田さんが迎えに来る明け方までは寝るしかすることはないわけだが………」


 あぁ、それにしても熾烈な戦いだった。正直、トールは俺1人では絶対に倒せなかった。

 いくつもの奇跡が重なり合い、神々廻や操神さんのおかげで倒せたと言っても過言ではない。


 そして、急に現れた北欧神王国の神王 オーディーン。声だけで分かる圧倒的強者、そして氷のように冷たい冷酷さ。

 オーディーンと、再びぶつかることがあるのだろうか。少なくとも、ミツレと因縁があるみたいだし、遅かれ早かれ、その日は来るだろうな。


 アイツは許せない。あの二体の(ナンバーズ)を仕向けたのはオーディーンだ。

 スレイプニルとワルキューレ、あの二体は俺が倒した№とは比にならない強さだという。強さだけで見たら、上位の神に匹敵するとか……………


 それにしても、俺たち4人と神々廻以外のクラスメイト達の安否が気になる。

 今回、多数の死者を出したようで、その多くの遺体は火傷による損傷が激しく、身元の判明が追いついていないらしい。

 そのため、誰が生きて、誰が帰らぬ人になっているかも分からない状態とのことだ。


 あぁ、今考えても仕方ない。俺に出来ることは祈ることだ。


「無事だと良いんだがな……………………」


 そして、俺は再び眠りの世界へと誘われる。深い、いや先ほどに比べて浅い夢の世界へと………


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