久遠なる主
いくらかの時間が経過した。ミツレと操神は、先ほど蠅魔が乗ってきたヘリコプターに乗り込み救護テントが建てられたエリアに向かう。
そして、怪我をしている俺と神々廻は、山口の病院に向かうためのヘリコプターを待っている。ぶっちゃけ、俺も神々廻も操神たちと一緒に手伝いに行きたかったが、蠅魔はそれを許さなかった。
「さて、姫と神崎君、そろそろ迎えが来るようです」
「……………そう」
俺と神々廻は蠅魔から簡易的な治療を受け、ヘリコプターを待っていた。
空はヘリコプターや飛行能力を持った大型の妖獣が溢れかえっていた。怪我がひどいものを優先的に乗せているらしく、俺たちはかなり後の方だ。
俺はともかく、神々廻はかなりの大けがだ。その神々廻が、そこそこ待たされたことから被害の予想が容易い 。
「それにしても、あの化け物二体、倒せてよかったな」
坂田と神田が対峙した人型の方の化け物が、二人によって倒されたことによって、視界の片隅に広がっていた映像は消えた。
「うん、それから少し経って、岩導先生がもう一体を倒したって伝令も来てたしね」
映像が消えたせいで、もう一体の方については分からなかった。
だが、ついさっき蠅魔が持っていたトランシーバーから岩導が倒したという連絡が届いた。
「蠅魔さんが、迅速に連絡してくれたから、あの二体を倒すことができたっすね」
「僕は、ただ最適解を導いただけです。あの二体を倒せたのは、坂田さんと神田さん、それと岩導さん、そして…………」
俺の問いかけに対して、蠅魔は特に表情を変えない。そして、瓦礫から腰を上げて、彼方の大分の方向を見る。
「数多の英雄たちのおかげです」
そう言う蠅魔の顔は暗い。蠅魔の表情が浮かない理由は、あのバリアの中にいた人たちは、一人を除いて全員死亡してしまったと連絡があったからだ。
「センセー、確かに結果としてはバリアの中にいた人は助けられなかった。でも、あの二体が、まだ生きていたら、それ以上の人が死んでいた」
傷口を触りながら、神々廻も蠅魔と同じ方向を見つめる。そうだ、助けられない命もあった。
だが、岩導の報告では、化け物は救護テントの方角に攻撃をしようとしてたとのことだ。
もし、それが仮に起きた場合、その被害は尋常ではない。さらに多くの人が死んでしまい、悲しみの災禍は鳴り響き続けていただろう。
「そうですね。さて、僕の仕事もそろそろ終わりですかね。神の残党もいなくなったようですし」
蠅魔が天に向かって右手を掲げ、指パッチンをする。そして、十数秒経つと、虫の羽音があたりを響かせる。
「な、なんだ!? 敵か!?」
「大丈夫、敵じゃない」
俺が心配するのをよそに、神々廻は身体を伸ばし、背骨をパキポキと鳴らす。そして、その轟音はどんどん大きくなる。
「眷属たちよ、よく働いたぞ」
次の瞬間、その羽音の正体が分かった。その羽音を奏でていた小さき者たちは、次々と蠅魔の体に吸収されていく。
「あれは、蠅……?」
そう、蠅だ。蠅にしては、かなりでかいが、いやなんで蠅魔の体に吸収されていくんだ?
「うん、あれはセンセーの体の一部。自身の体の一部、結構恥ずかしい見た目だから、そこだけは勘弁………って、こっちをそんな顔で見ないで」
その蠅をよく見ると、額に姫・と書かれた鉢巻をしている。思わず、苦笑いをしながら神々廻を見てしまう。
そして、そのハエの大群は蠅魔の姿が見えないぐらい集まり、まるで一つの球体のようになっている。
「す、すごい量だな」
「まぁね。あの姿のセンセーは久しぶりに見た。あれだけの量を出しているのは納得できる」
ん? あの姿を久しぶりに見た? まるで、普段は全然姿が違うみたいな言い方だな。
「なぁ、神々廻。いまのって、どういう」
「ふぅ、久しぶりに全部出してしまったから、この僕、疲れてしまったでござる」
だが、俺の言葉は何者かに遮られてしまう。その声の主の方向を俺は見る。そこにあった光景は、信じられないことだった。
「いやはや、かなり疲れてしまったでござる。お、そういえば、しっかりと名乗っていなかったでござるな」
そこにいたのは、かなり肥満体系のひげ面の男だった。禿散らかした金髪で、例えるなら落ち武者みたいな髪型だ。
そして、今にも破れそうな白いスーツを着ているその男は、懐から丸眼鏡を取り出し、かちゃりとかける。
「え、いや、んん!?」
あまりにも急に起きた出来事に、俺は驚くことしかできない。いや、あの白いスーツを着てるってことは、まさか………
「僕の名前は、蠅魔 獄。またの名をベルゼブブ。そこにいらっしゃる、我が最推しである神々廻 光理、そう世界最強にして、ナンバーワンプリチーな姫の契約者でござる」
どすどすと足音を鳴らしながら、その男、いや蠅魔?は俺の間にやってくる。それと同時に、白いスーツは破れ、中から美少女のフルグラフィックTシャツが露になる。
「以後、よろしくでござる。神崎氏」
ニチャァっと蠅魔を名乗るその男は終えに右手を指し伸ばす。そして、俺はその男と握手を交わす。少しだけ、湿っていた。
「あ、センセー、ミコたちのヘリコプター来たよ」
神々廻が手を振る方向には、ヘリコプターが一機見える。そして、そのヘリコプターは俺たちを見つけると、ゆっくりと俺達の目の前に着地する。
「さぁ、姫と神崎氏。いくでござるよ~」
「うん、そうだね」
神々廻と例の男は、俺にそう言うと、クルリとヘリコプターの方を向く。俺に背を向けて、歩こうとする二人を見て、俺はやっと我に返る。
「いや、ちょっっっっっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺の過去一の、ツッコミ。いや、シャウトっていうのか? まぁ、よくわからんが、それが響く。
「どうしたでござるか、神崎氏。アニメキャラのツッコミを真似をする寒いヲタクみたいでござる」
「いや、普段は教室の隅っこにいるくせに、集団になったら騒ぐ、場をわきまえない厄介ヲタクみたい」
なんか、すごい悪口言われた気がするけど、いや俺がおかしいみたいになってるけど、絶対に違うよな!?
「いやいや、だって蠅魔さんの見た目、変わりすぎだろ!」
ついさっきまでは、歌舞伎町ナンバーワンのホストみたいだった奴が、秋葉原のカードショップにいる負け知らずのナンバーワンカードゲーマーみたいになったんだぞ!? 俺の反応、絶対に間違いじゃないから!!
「まぁ、少し太ったけどね。それに、少し臭い」
「姫ぇ!? 僕、それは傷つくでござるぅ!! 人間が一番言われて傷つくことは、臭いと生理的に無理でござるからね!?」
「うるさいも追加しておく? まぁ、それは元からか」
鼻をふさぎながら、神々廻は冷めきった目で見つめる。めんどくさい人間を見るときの人間ほど恐ろしいものはない。
「さ、ヘリが来たんなら、さっさと行こ」
蠅魔を押しのけるようにヘリコプターに向かい、足早に機内に乗り込む。少しふらついてることから、やはり無理を………
「姫………」
「神々廻………」
神々廻はヘリコプターから出てきた運転手に支えられながら、機内に乗り込む。そして、限界が来たのか、気を失うように目をつぶる。
「………さて、僕たちもヘリに乗るでござる」
「………はい」
俺と蠅魔は、ゆっくりと足を進める。すごい長い間戦ってた気がする。ヘリコプターに向かえば向かうほど、体から緊張感が抜けていく感じがする。
ヘリコプターに乗り込み、俺たちは山口県へと向かう。助手席に神々廻、その後ろに俺と蠅魔が座る。神々廻は眠っている。
「そういえば、質問に答えてなかったでござるな」
「質問?」
コーラを喉を鳴らしながら飲み、蠅魔の口が開く。ちなみに、俺の右手には蠅魔から貰った同じコーラが握られている。
「久遠なる主、それが僕の魔力。能力としては、自身の脂肪で眷属を作って、その視界を共有、そして命令を出すことができるでござる」
久遠なる主……… それが蠅魔、いやベルゼブブの力か。確かに、蠅魔の口ぶりからして、自分の分身を使って辺りを分析していたのだろう。
「あぁ、だから見た目が変わってたんすね」
別人レベルで姿が変わっていたが、そんなカラクリがあったのか。いや、正直言ったら性格もだいぶ変わっていたけどな………
「せっかくの魅力的なボディが、黒歴史時代の体になって、しかも性格も当時に戻ってしまうのは、つらいでござる………」
蠅魔としては、契約起動する前の太った姿の方がお気に入りなようだ。黒歴史と言われた、ホストみたいな鵜方は、若かりし頃の黒歴史ってやつなのだろう。
「お、見えてきたでござるよ。そろそろ、着くでござる」
蠅魔に言われ、俺は窓の外を見る。そこには、いつの日かも入院した、山口県の病院が見える。
「本当です……ね………」
俺は目的地、いやこの戦いの終点の姿を見た瞬間、瞼が重くなる。
俺は、それに耐えきれず意識のシャッターは強制的に閉ざされる。
お久しぶりです!
いや、あの投稿するの忘れたことに今気づきました・・・・
ずっと前に執筆自体は終わっていたんですけどね笑
さて、とりあえずあと1話、長くても3話でこの章は終わりです!
投稿頻度がカスムシなせいで、長期連載作品みたいになってるのは笑えないです・・・・
うーーーーん、書きたいことは沢山あるんですけど、社会人がつらすぎるわ!!