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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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焦燥と現実

二つの仇を打ち破り、ほんの少しだけ暗雲が取り除かれる。

 時はスレイプニルとワルキューレが災禍をもたらして少し経ったあたりまで巻き戻る。そして、場面は悠真たちへと移り変わる。


「くそがッ…………!」


 視界の片隅に映る地獄も如き光景。全身を業火で焼かれ、苦悶の表情を浮かべる同胞たち。俺は、その光景を見たら体が気づいたら動いていた。


「待て、神崎、神々廻」


 しかし、それを見透かしていたのか、操神は俺と神々廻の前に立ちふさがる。神々廻も俺と同じことを思っていたのか、どうやら体が動いてたらしい。


「でも」


「神崎、ただでさえ魔力が少ないお前はもう限界だ。その体で、何ができる?」


 俺が何かを言おうとしたのを察してか、それを遮るかのように操神は言葉を遮る。だが、操神が言っていることは事実だ。


「そこをどい」


「神々廻、お前は血を流しすぎだ。お前は確かに強いが、今のお前は何もできない」


 操神が言っていることは正しい。俺の魔力は空っぽだし、疲労もとてつもない。だが、俺以上に神々廻は限界のはずだ。


 ロキによる深い傷と、それに伴う失血。そして、魔力と体力の減少。正直、立っているのが不思議なくらいだ。


「操神さん、私はまだいけます。まだ、救える命がきっと…………」


 俺と神々廻の間を引き裂くように、ミツレは操神の前に向かう。その目は、覚悟と責任感のようなものを帯びていた。


「………………あの二人よりは動けそうだな。よし、九尾、一緒に」


 魔力切れで疲労困憊な俺と、大けがを負った神々廻を横目に見ながら、操神は大分の方向に足を進める。


「待って、ミコはいける」


「俺もです。まだ、俺には剣を振る力は残ってます!」


 だが、俺と神々廻が納得できるわけがない。まだ、俺は立っているし、剣を振るえる。それなら、俺だって………!


「神崎さん、神々廻さん……… ですが」


「お前らな、いい加減に」


 ミツレと操神が何かを言おうとした瞬間、上空に凄まじい爆音と風圧とともに、一台のヘリコプターが現れる。


「なんだ!?」


 そして、そのヘリコプターの扉が開き、そこから白スーツを身にまとった長身の男が飛び降りる。その男は、華麗に着地し俺たちの目の前に現れる。


蝿魔(ようま)、お前何の用だ………?」




 肩まで伸びた手入れが行き届いてるストレートの金髪、そして血のように真っ赤な深紅の瞳、あごには少しのひげを生やした男が現れる。


 ホストのお手本みたいな蠅魔と操神に呼ばれた男は、かけられた言葉を無視し、ただ一直線に歩みを進める。




「姫、命がご無事なようで何よりです。ですが、酷い怪我だ、早急に手当てを」




 そして、蠅魔は神々廻の前でひざまずき、スーツの端を手で引き裂く。切り裂いた白い布を神々廻の傷に当てようとする。




「センセー、来てたんだ。私のことはいいから。それよりも、()()姿()になっているということは、何か手は打ったんでしょう?」


 だが、それを神々廻は声で遮り、蠅魔の手を止める。そして、視界の右端に表示されている悲劇を指さす。


「あぁ……… 姫、その自身よりも他者のことを思う信念、流石です。はい、この(それがし)、すでに手配は済んでおります」


 蠅魔は右手で顔を抑え、首を横に振るう。そして、ひざまずいてた体勢から、すっと立ち上がる。


「結論から言うと、厄介な化け物……… 神王とまではいきませんが、それに近い実力を持った異形が二体います」


 本当に蠅魔は、俺たちの方は見向きもしない。その視界、いや彼の世界には神々廻しか存在していないかのようだ。


「二体? ほかに情報はある?」


 神々廻の問いに対して、蠅魔は自慢のあごひげを触りながら、考えるそぶりをする。


「すいません、姫。僕の()()を奴らの近くまで潜入させていたのですが、ある一定の距離まで行くと、感づかれて潰されてしまいました。姫の契約者として実に不甲斐ない」


 歯ぎしりをしながら、蠅魔は左拳を握り締める。何となくわかっていたけど、こいつが神々廻の契約者か。妖獣というよりは、マジでホストにしか見えんぞ。


「いや、センセーの一部に感づけられるってだけで、相当な実力を持っているということが分かるから大丈夫。でも、そんな奴らがいるなら、やっぱり………」


「おい、神々廻、何度も言わせ」


 神々廻が刀を抜こうとした瞬間、それを察した操神が近づこうとする。だが、それよりも早く、蠅魔は神々廻の刀を抜こうとした手を止める。


「そこのワカメ糸目野郎の言う通りです、姫。あなたは確かに強い。しかし、深手を負いすぎです。それに、その顔………」


 少し細目になりながら、蠅魔は神々廻の顎を触りながら、顔をグイっと上げる。その目は、若干の怒りを帯びていた。


「毒を使いすぎましたね? 姫、あなたは」


「うるさい、センセー。それよりも、これからどうするの? ミコ、いやここにいる全員は、すぐにでも動き出しそうだけど?」


 手を神々廻によって払いのけられて、蠅魔はすごいショックを受けたのか、とんでもない顔をする。しかし、神々廻のことが第一な男は、もちろん彼女の言ったことは絶対だ。


「ふむ、君たち、普通に考えて今から大分まで今から間に合うと思うか?」


 それまで見向きもしていなかった俺たち三人の方に蠅魔は振り返る。

 そして、神々廻に向けていた目とは圧倒的に違う冷たい目で見つめる。


「それは…………」


「オマエな、さっきから僕は何回も言葉を遮られてイライラしてるんだ。それに、何がワカメ野郎だぁ?」


 青筋を額に浮かばせながら、操神は蠅魔の胸ぐらをつかむ。だが、蠅魔は少しも動じない。


「君たち、少しは冷静になってくれ。僕それがしたちが、いくら契約起動していて、超人的な力を得ていようとも、距離があまりにも遠い」


 その言葉で、俺たちはいくらか冷静になった。神王に逃げられた焦り、視界の片隅で繰り広げられる地獄、この二つで俺たちは焦っていたんだ。


「姫、あなたにも言っています。それ以上の無茶は許さない」


 神々廻には目を合わせず、蠅魔はそう言う。神々廻全肯定マシンかと思っていたが、根幹にあるのは誰よりも神々廻のことを思っている気持だようだ。


「…………ごめん。でも、悔しいよ! ミコはもうこれ以上………!」


 神々廻は普段は感情をあまり表に出さない。だが、今の彼女は大粒の涙を流しながら、蠅魔の背中を両手で叩く。皆から認められる実力を持っている神々廻だからこそ、人一倍悔しいのだろう。


「神々廻………」


「神々廻さん……」


「…………」


 俺たち三人は、神々廻が涙するのを目にして驚いた。彼女ほどの強者でも泣くのかという、驚きだった。


 だが、俺たち三人も神々廻と同じで今にも悔し涙が出てきそうだ。実力では、今の俺では神々廻には勝てないだろう。


 でも、その気持ちだけでは負けない。いや、負ける自信がない。


「姫、顔を上げてください。その美しい顔が台無しだ」


 襟元から、白スーツとは対照的な真っ黒なハンカチを取り出し、神々廻の涙をふき取る。そして、視界の片隅の映像を指さす。


「確かに、僕たちでは間に合わない。だが、僕はすでに手を打ちました。あの人たちなら、確実に地獄を生み出した二体を屠れます」


 両目をを左手でゴシゴシと拭き取り、神々廻は自身の視界の片隅を再び見る。そして、そこに映っていた人物を目にしたとき、絶望の顔に一筋の光が差し込まれる。


「坂田さんと神田さん!」


 神々廻がその二人の名前を叫ぶと同時に、俺たち三人は神々廻の画面をのぞき込む。そこに移るは二つの眩い光。


 道中の神民やソウルハンター共を一撃で屠りながら、二人はついに大分を覆うバリアに辿り着く。


「あの二人は強い。特に、み……神田は化け物だ。だが、その二人ではオーディーンの例のバリアの前では………」


 坂田の隣にいるOLみたいな恰好の女は、七聖剣会議で会った神田だ。契約起動前も同じスーツを着てた気がするが、どういうことだ?


 いや、今はそれよりも例のバリアの件だ。いくら二人が強いとはいえ、オーディーンが張ったバリアは、オーディーンと同等の魔力かそれ以上を持っている者でないと破壊できないという縛りがある。


「あのバリアを破壊できる人なんて、今は東京にいる瑠紫さんぐらい…………………あ」


 坂田と神田、2人の強者でもオーディーンのバリアは破壊できない。

 その事実に、俺と神々廻、操神の三人が少し顔を暗くする。

 そして、それを言葉として代弁したミツレは砂山の中から一欠片の金塊を見つけたかのような声を出す。


「氷華さんです! 流風と一緒に、坂田さん達の方向に向かっています!」


 神々廻の画面を見ていた俺たちは、次はミツレの画面を見る。

 そこには、もう直ぐ例のバリアに辿り着くぐらいの距離まで来た2人の姿が見える。


「この2人がどうかしたのか? 坂田と神田ほどの強さがあるとは思えないが」


「そうか、星宮さんなら………………!」


「氷華の魔力量は、あの瑠紫さんよりも上です。瑠紫さんが、私のアイデンティティが取られたって落ち込むぐらいです」


「あの天使(あまつか)よりもか!? そんな奴がいたとは………………………」


 俺が言ったことに目を丸くする操神とは対照的に、神々廻の顔がさらに明るくなる。そうだ、氷華がいる!


 神王と匹敵、いやそれ以上の魔力を持ち、人間と妖獣、いや神をも含めて一番魔力量が高いと言われている氷華。

 東京から瑠紫が来るよりも、それよりも早く氷華はバリアに辿り着ける。


「バリアの件は、星宮という少女に、そして仇は修羅と剣聖に任せましょう」


 グッと拳を握りしめながら、蝿魔は大分の方角を見据える。


 その視線は、屠るべき仇を、そして頼れる仲間たちに向けられていた。


「でも、もう一体の………………」


「そうです! 例の化け物は蝿魔さんが言うには二体います!」


 その時、俺の右下の視界にある人物が映り込む。俺とミツレ、そして神々廻がよく知るあの人物が。


「姫、それには及びません。もう一体は」


「あぁ、ミツレ、神々廻! もう一体なら、この人が確実にぶっ飛ばしてくれるぜ?」


 俺は、自分の視界の片隅に映る画面を指さす。その画面に、映る人物を見た瞬間、ミツレと神々廻はお互いに目を合わせる。


 そして、操神はフッと鼻で笑う。だが、この笑いは馬鹿にしているわけではない。信頼しているからこそ、出る笑いだ。


「岩導先生です! 物凄い速さで向かっています!」


「凄い速さ。そして、ここまで顔に怒りを出しているのは初めて見る」


「岩導か。大神の契約者、実力は申し分ない。確かに、期待できるな」


 風向きが大きく変わった。あぁ、この人たちなら……………………!


「言葉を遮られてしまいましたが……………」


 蝿魔は何とも言えない顔をして俺と目を合わせる。俺もそれに対して、軽く会釈して苦笑いを浮かべる。


 ゴホンっと軽く咳払いをして、大分の方を指差しながら、少しだけ笑う。


「さぁ、反撃開始です」

お久しぶりです! えー、東京で屍と化してるKINOKOです。


いやさ、社会人で小説書くのキツすぎ!! これに耐えてる人たちが、いるのがやばすぎる!

マジで尊敬しかないっすわ。ただでさえ、筆が遅いのに、もっと遅くなって申し訳ないです・・・・


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