表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
156/167

破れることなき、鉄壁の壁

 氷華が自らの体を削り、大分を覆う忌まわしきバリアを破壊した少し前、具体的にはオーディーンがバリアを大分全域に張り巡らせ、惨劇をもたらしてから数分後までさかのぼる。

 そして、そのバリアに向かうある一人の男に視点が移る。


「くそっ……………………! 道中の敵が多すぎる。大分に着くのに時間が遅れてしまう」


 俺の視界の左隅には、急に現れた大分の惨劇を映し出す小さな映像がある。これのタチが悪いのが、目を閉じてもずっと流れていることだ。音声は聴こえないとはいえ、精神的にかなりくる。


「シュラ、ノ、サカタ!! キサマハ」


 俺の目の前に、ソウルハンターであるリザードが立ちはだかる。前方に三体、少し面倒だ。


「邪魔だ、今の俺は気が立っている。黒骨 丗摹捻!!」


 だが、俺は走りを止めない。右手に握りしめた、真っ黒の背骨の形をした木刀ぐらいの大きさの丗摹捻で三体同時に頭を叩き切る。


「チッ! もう30体以上は倒したぞ。今回は、やけに数が多いな」


 道中、いや俺が担当した地区も含めて、神とは遭遇しなかった。

 だが、操神のトランシーバーからの情報では、北欧神王国の神王、オーディーンが来ているとのことだ。

 まだ、地上には降りてはいないとの事だが、操神の近くに悠真とミツレの声が聞こえた。操神がいるとは言え、やはり心配だ。


「悠真たちのところまでは距離がある。それならば、今の俺ができることは大分に行くことだ」


 神王であるオーディーン、奴がまだ地上に降りていないのが幸いだ。ならば、距離などの理由を含めれば俺が今するべきことは、大分にとらわれた人たちの救出だ。


「あいつら……… 無事でいろよ……!」


 この緊急事態、局長と大将を任せられている責任感のある立場、常に冷静に私情は挟まないようにするのが鉄則だが、それでも………


「もうこれ以上、仲間を失うのは……」



 うっすらと大分を覆うバリアが見え、あと少しで着こうとしたとき、少し息を切らした声が聞こえた。


「修くん! あなたも大分に向ってるのね?」


「瑞輝!! お前も来てたのか!!」


 真っ黒のジャケットを羽織り、ピッタリとしたタイトスカート、そして黒タイツと言った、これぞOLみたいか格好の女が、俺の隣に現れる。


「ええ、私が担当している地区のソウルハンターと神民は全て片付けて、他の職員や子供たちは避難させたわ。そして、私もこうして、大分の惨劇を止めるために向かってるわけ」


 神田瑞輝、悠真と同じく七聖剣保持者にして、その実力は対策局の中でもトップクラスだ。

 年に数回行われる神対策局内での対人戦、またの名を階級別戦では、上位に入っており、その順位は3位。元 神である瑠紫が4位なので、その実力は計り知れない。


「良かった、()()と謳われるお前が来てくれるだけで心強い」


「その呼び方、肩苦しくて嫌いなのよね。もう少し、可愛い名前にしてほしいわ」


 ハァとため息をつく瑞輝の右手には、深い青色の鞘をした刀が握られており、左手には銀色の大きなアタッシュケースがある。

 左手に持っているアタッシュケースはスーツに似合ってるが、右手の刀はいつ見ても合わないな。


「じゃ、私も貴方を修羅と呼ぼうかしら? それとも、9位が良い?」


 少しニヤニヤしながら、瑞輝は俺を横目で見る。その顔は挑発してるのか、揶揄っているのかわからない。


「悪かったよ。ったく、順位のことを気にしてるのは、アイツぐらいだろ」


「んー、順位なんてあまり強さとは関係ないと思うわ。私たちの敵は、あくまで神なんだから。人間ではないわ」


「おいおい、お前が言ったら嫌味にしか聞こえんぞ。アイツ…………… 大神の前では絶対言うなよ。めんどくさいんだからよ」


「あら、嫌味のつもりは本当に無かったわ。ごめんなさいね」


 瑞輝の言うことは概ね間違ってはいない。神対策局内に入っている人たちは、仮想空間で覇を競い合い、そして勝ち負けを決める。

 だが、それはあくまでも対人戦。神との戦いではない。瑞輝の言うことも一理あるが、強さは強さだ。一つだけ言えるとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()


「分かってるよ、お前が悪気がないことぐらい。……………………っ! お喋りはここまでだ、見えてきたぞ!」


「ええ、そのようね」


 ついに、俺たちは大分のバリアまで10メートルを切った。

 そして、バリアを何度も叩く全身を酷い火傷を負った人たちを目にする。映像と同じように、声は聞こえない。どうやら、バリアで内部の音は完全に遮断されているらしい。


「瑞輝っ!!」


「分かってるっ!!」


 だが、映像で見るよりもその光景は残酷だった。壁のような半透明のバリアを破ることなく、何度も何度も拳を叩きつける。

 許せない、ただ殺すだけじゃなく、まるで痛めつけるかのような、この仕打ち。


「うおおおおおおおお!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の木刀のような真っ黒な骨でできた丗摹捻、そして瑞輝の鞘から引き抜かれた刀身が海のように青い刃が、同じ場所を切り付ける。


「っ!? 硬っ…………………!」


 剣聖と謳われる瑞輝、その彼女でもバリアを破壊することができなかった。

 それどころか、俺と瑞輝の2人の攻撃でも、そのバリアは数一つついていない。


「俺と瑞輝の攻撃だぞ!? 傷の一つぐら……………っ!」


 泣き言を言おうとした瞬間、バリアの内側で何度も叩きつける、彼彼女らと目が合う。

 いや、眼球も燃えている人たちもいるから、俺たちの姿は見えていないかもしれない。

 だが、その瞳、その顔、そしてその助けを求めている表情の前で、泣き言を言うなんてダメだ!


「瑞輝っ!! 諦めるな! 何度も、何度も攻撃するぞ! まだ救える命はある!」


 パンっと両手で頰を叩き、瑞輝は気合を入れる。そして、アタッシュケースを地面に投げ捨て、バリアに向かって刃を構える。


「………………っ! 私が諦めるわけないでしょう! ええ! やってやるわよ!!」






―――――――――そして、俺たちは何度も同じ場所を切りつけた。

 斬撃がダメなのかと、手の形をした黒骨を形成し、両手に覆わせる技、天乃葩(てのひら)を使い、殴ってみたりしたが、ヒビ一つ入ることはなかった。


「ごめんなさい、ごめんさなさいっ…………………………!」


 俺たちの目の前では、バリアを叩く気力すらなくなり、地面に倒れる者、そしてピクリと動かなくなる者も出てきた。

 その度に、瑞輝は歯を食いしばり、うっすらと涙を浮かべる。俺たちは何もできなのか? 目の前で、痛みに苦しみながら助けを求めている者たちがいるというのに。


「うおおおおおおお! 破れろっ! 破れろっ!! 破れろおおおおおおお!!!」


 半狂乱になりながら、何度も何度も攻撃をする。だか、それを嘲笑うかの如く、そのバリアには傷一つ付かない。

 俺と瑞輝の間、そこに一匹の蠅が現れた。そのハエは、俺の目線ぐらいのところでホバリングする。


「大分に張られているバリアは、ただの強力な攻撃では破壊できない。破壊するには、北欧神王国の神王オーディーンと、ほぼ同程度の魔力保有者の強力な攻撃でないと破れない。繰り返す、大分のバリアは、北欧神王国の神王オーディーンと、ほぼ同程度の魔力保有者の強力な攻撃でないと破れない」


 蠅が喋るだなんて普通の人であれば疑問を持つだろう。俺と瑞輝は、このハエが何なのかは知っているから特に驚かない。


「この蠅は、(ひとや)の!」


「蠅魔くん……! いや、それよりも今!!」


 蠅は、俺たちに伝言を伝えると再び空へと飛んでいく。蠅とは思えないスピードを出し、もう見えなくなった。


「ああ…… どうやら、ただの攻撃では無駄なようだな……」


 俺たちの攻撃は無駄だった。俺は魔力量が高くないし、瑞輝も俺よりはあるとはいえ、バリアを破壊できる、つまりは神王ほどの魔力量ではない。

 

 だが、俺たちは攻撃をやめない。目の前、いやバリアの向こう側で助けを求めている人たちがいるのだ、可能性がゼロに近いとしても、攻撃を止めることは、彼彼女らを助けることを諦める事と同義だ。


 俺たちが諦めずに、攻撃を続けていると、俺よりも早く瑞輝は異変に気づく。


「っ!? 辺りの気温が下がってる? 真冬並みの気温じゃない?」


「ん? 本当だ…………… 」


 攻撃に集中してて気付くのが遅れたが、瑞輝の言う通りで真冬並みの気温になっている。

 その時だった、凄まじい魔力を感じた。並大抵の魔力ではない、それは神王に匹敵するものだった。


 俺と瑞稀は、ほぼ同時にその魔力に反射的に反応し、上空を見上げる。


「なんだ、この魔力は!? いや、あれは氷華!?」


「あれが、噂の星宮さん? 神王なんて、越えてるんじゃないの!?」


 そこにいたのは、氷華だった。俺と瑞稀が氷華を見た時には、氷華は何かをした後だった。

 だが、その何かをした後に、氷華は力尽きたかのように地上に落下して行く。


「氷華っ!!」


 地上に向かって力なく、抵抗することもなく落下して行く氷華。俺と瑞稀は、氷華の下に駆け寄る。


「くそっ! この距離だと……………!」


 俺たちと氷華までは、かなり距離がある。このままだと間に合わない。いくら契約起動をしている体とはいえ、かなりの高度からの落下、そして頭からだと命に関わる。


「ん? あれは!」


 俺たちでは間に合わない距離にいた氷華、彼女のいる空に向かって駆ける一つの白き風。


「流風か! アイツも来てたのか!!」


 流風は、空中で氷華を抱き抱え華麗に地面に着地する。そして、そっと氷華を負担にかからない体勢で置く。


 そして、俺と瑞輝は二人の前にたどり着く。氷華は全身がひどい凍傷だ。呼吸が荒く、髪の毛やまつげまでも凍り、肌は青白く、そして目が虚ろだ。

 俺と瑞輝に、氷華と流風は気づく。流風は何かを言おうとした様子だったが、それを遮るように俺たちは無言でうなずく。


「ありがとう、あなたのおかげで先に進める」


「救護ヘリも要請済みだ。あとは、俺と瑞輝に任せろ」


 俺は道着を脱ぎ上裸になり、瑞輝はスーツを脱いでワイシャツになる。そして、俺は道着を、瑞輝はスーツを氷華に被せる。


 「お願い……します」


 プルプルと震えながら、氷華は声を振り絞る。俺たちは、無言でうなずきバリアがあった方向へと再び駆けていく。


「瑞輝、わかってるな」


「ええ、言われなくても。星宮さんがつないでくれた、この好機。まだ救える命がきっとある」


 氷華の身を呈した極技によって、ついにバリアは破壊された。バリアの中は、つい先ほどまでは灼熱の地獄だったが、今は真冬の気温に変貌しているので、幾分かマシだ。

 

「バリア付近にいた人たちは、やっぱり………」


「ああ………」


 俺たちがバリアの外側で攻撃をしていた時に、何度も内側から拳をバリアにたたきつけていた人たちは、氷華のもとに行く寸前にこと切れていた。


「だが、まだ助けられる人がいるはずだ」


「………そうね、0人より一人、一人よりも二人ね」


 だが、現実は非常だった。バリアの内側は、阿鼻叫喚の地獄であり、俺たちの視界には助けられる命は見えない。

 

「修くん! あそこ見て!!」


「あれは! よかった、まだ生存者がいたぞ!!」


 俺らの視界の先には、がれきに下半身を下敷きになっている女がいた。火傷をしていない様子を見るに、がれきが熱線を遮ったことが分かった。

 だが、顔色が悪く、長くはもちそうにない。そして、その女は俺たちに気づくと、こちらに向かって手を振る。


「ああ、待ってろ!! すぐに助け」


 俺たちが、がれきに下半身を下敷きになっている女のところに向かおうとした、その時だった。上空から、何かが降ってきて、辺りが砂ぼこりに包まれる。


「っ!! なんだ!?」


「リカイフノウ、リカイフノウ。ナゼ、ワガアルジノ、チカラヲ、サズケラレタ、トウキノ、バリアガ、ハカイサレタ? ドウシテ、メノマエニ、ニンゲンガ、イル?」


 砂埃が収まり、俺らの目の前に異形が現れる。大きさは五メートルほどで、その顔は目を閉じた女の顔をしているが、顔全体が金属のようであり灰色をしている。そして、背中には大きな翼が生えているが、羽一つ一つが人間の手で構成されている。

 だが、一番目に付くのは、その胸元だ。首から股にかけて、いくつもの顔が張り付いている。その顔は、一つ一つが別物であり、獣の耳がついている者や、角が生えているものなどがいることから、妖獣の顔だということが分かる。


「ア、アア……… キタナイモノヲ、フンデシマッタ。ケガラワシイ」


 そういった片言の言葉を吐き捨てた、正体不明の異形の足元には、血の池が広がっており、先ほどまで女だった肉片も所々に散っている。


「お前の正体が神か妖獣なのか、それとも人間なのかわからない。だが、やるべきことは決まった」


「ええ、そうね。たった今確信したわ」


「「お前は、敵だ!!」」


 眼前に現れた、謎の異形。俺たちは、その憎き相手に怒りの声を轟かせ、俺は拳を、瑞輝は剣を構える。





 




久しぶりに投稿期間が短めでの投稿です! 後少しで、この章は終わると言っておきながら、ズルズルと続いてしまい、申し訳ないです・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ