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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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託された者たち

「これは、どういうことだ!? 全世界の映像端末に大分の様子が流れている」


 時は、オーディーンが大分を覆うようにバリアを張り、惨劇をもたらした時まで巻き戻る。そして、場所は東京都内のとある一室に移り変わる。


「一神様、電源を切ることもできません」


 そう、ここは四項家、一神家の当主の部屋。当主の部屋はかなり高いところにあり、大きな一枚のガラス張りの壁からは、地上の様子がよく見える。

 神が現れると、東京神対策局の一員は四項家の当主を護衛するのが決まりだ。そして、日本帝国、いやこの世界のトップである一神家、その当主である一神胡椎を護衛するのはもちろん、東京神対策局局長であり、神に最も近い男と言われている最強の男、神谷春馬だ。


「………どうやらそのようだね。操神君のトランシーバーからの報告では、これは北欧神王国の神王の仕業のようだね」


 一神は、机をドンっと叩く。この世の頂点に立っている男だが、このような事態には何もできない。それに対して、不甲斐ないのだろう。

 だが、さすがは世界を統べる者、取り乱したとはいえ深呼吸をして落ち着かせる。そして一神は、テレビの画面から神谷の方を見る。


「神谷君、ついに神王が現れた。君に」


「私が行く」


 一神が言おうとしていたことは、勢いよく開かれた扉の音でかき消される。


「………瑠紫」


「……天使(あまつか)さん」


 扉の向こう側から現れたのは、神の位を捨てた女。当時、轟かせていた名は、天使長ルシファー。今は、東京神対策局の副局長を任せられており、神谷と契約をしている。人は、彼女を堕天使と呼ぶ。


「私なら、オーディーンを倒せる。春馬は一神様を護衛をしていて」


 そう言い残して、瑠紫は再び扉の向こうに行こうと、ドアノブに手をかける。


「待て、瑠紫」


 だが、その足取りは契約者である男の一言で止まってしまう。


「なに、春馬? まさか、私が勝てないとでも?」


 瑠紫は春馬の方を振り向いてはいない。だが、その背中からは静かな怒りがあふれている。それは、きっと瑠紫のプライドを傷つけたからだろう。


「違う。九州、それも大分近郊には彼女………()()がいる」


「剣聖……… そう、アイツがいるなら私が時間をかけていくよりも、任せた方が適任ね」


 剣聖、その言葉を聞いた瑠紫は納得したのか扉を閉めて、春馬の隣に行く。


「いや、やっぱりだめ! あのバリアは、オーディーンと同程度の魔力の者の攻撃でないと破れないって操神の報告があったじゃない! 階級別戦で強さの優劣が決まるわけではないけど、()()()()のアイツでも魔力量は私の方が上、つまりあのバリアは私でないと破れない!」


「バリアは問題ない。星宮氷華、彼女が大分に向かっているという報告があった」


「星宮……… 確かに、あの子の魔力量は私よりも上だけど、あの子はまだ魔力操作が苦手らしいじゃない! それに、まだ契約して間もない……いや、それ以前に子供に、そんな重責を任せるのは可哀そうだわ!」


 東京から大分近郊までは、いくら神高を経由した転送があるとはいえ時間がかかる。そして、あのバリアを破れるのは、オーディーンと同程度の魔力保持者の、元 神である瑠紫、そして魔力量トップの星宮しかいない。

 そう、瑠紫が大分に行くよりも星宮が現場につく方が早いのだ。だが、星宮は契約をしたばかりで、その膨大な魔力を扱うのに慣れていない。確実にバリアを破壊できるのは現状では瑠紫しかいない。


「瑠紫が心配するのは無理もない。だが、星宮ならきっとバリアを破壊してくれるはずだ」


 しかし、神谷は瑠紫が大分に向かうのを頑なに拒む。確かし、距離がかなりあるから移動時間も考慮してのことだが、瑠紫であれば確実にバリアを破壊できる。それなのに、神谷は確実性のない星宮を信じている。


「いい加減にして! いつもの春馬らしくない! 私が行く!!」


 ()()()()ばかりを言う神谷に我慢できなくなったのか、瑠紫は神谷の胸ぐらをつかむ。


「お、落ち着きたまえ! 天使さん!!」


 張り詰めた空気、瑠紫から漂う凄まじい怒気、並大抵の人であれば耐えられない。実際、一神の目は泳いでいる。それに対して、神谷は一切動じず、瑠紫の目をじっと見る。

 

「彼女は正式ではないが、坂田さんの……千葉神対策局の一員だ」


 神谷は、ぼそりとある男の名前をつぶやきながら、瑠紫の右手首をつかみ自身の胸ぐらから外す。


「修がどうしたの?」


「つまり、星宮は坂田さんが鍛えている」


 その言葉を聞いた瞬間、それまで張りつめていた空気は和らぎ、いまにも神谷を殴ろうとせんばかりの瑠紫は、落ち着いた表情を取り戻す。


「そういえば、そうだったね。春馬、修を信用しすぎじゃないの?」


「お前もな」


 フッと二人は鼻で笑う。かつて、坂田との間にこの二人に何があったのか、そしてこの二人がなぜ、そこまで彼を信用してるのか、それを知るのはこの場では二人だけだ。


「そういうわけです、一神様。バリアの件は星宮が、スネークの中にいるオーディーンが地上に降りてくるかはわかりませんが、坂田さんと神田さんが対応してくれるはずです」


「ふむ…… 君が言うのならば信用に値するね。うん、大分は現場にいる人たちに任せよう」


 少し考えて、納得したのか一神はうなずく。神谷にそう言った時の表情は、きりっとしており、一神も違う面で強者だということがうかがえる。


「………それはそうと、彼らの鎮静化に協力してくれるかい?」


 だが、そのきりっとした表情は崩れ、少し困った顔で地上で混乱している人たちを指さす。地上では、混乱している民衆たちが暴徒と化している。


「了解しました」


 春馬はそう言って一神に一礼する。それに続くように瑠紫は無言でうなずき、二人で足早に部屋を後にする。


「瑠紫、まずは映像端末の破壊を行う。少し手荒だが、そうすれば彼らは落ち着いてくれるだろう」


「うん、わかった」


 タッタッという大理石の床を走るときの特徴的な足音が長い廊下に響く。ここは、地上から約500メートルの高さはある。二人が地上に降りるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。


「ねぇ……… 春馬」


 エレベーターに乗り込み、地上までの数十秒間の待ち時間。瑠紫は、おもむろに口を開く。


「なんだ?」


「さっきの私は、少し混乱していた。大分のあの光景を見て、冷静な判断ができなかった。今思えば、地上は大混乱しているのだから、私が大分に行くのはかなり時間がかかることぐらい、よく考えればすぐに分かる」


 ぴっちりとした黒い皮手袋をつけていた神谷の手が止まる。そして、申し訳なさそうな顔をしている瑠紫の方を見る。


「さっきは、胸ぐらをつかんでごめん」


「気にするな、俺も混乱して口数が少なかった」


 黒の皮手袋を両手に着け、七聖剣が入ったケースを肩にかけながら、神谷は口を開く。


「プッ……… アハハハハ!! 春馬の口数が少ないのは昔からでしょ?」


「そんなことはない。俺はおしゃべりが大好きだ」


 神谷の予想外の一言が、暗い顔をしていた瑠紫はクシャっとした笑顔を浮かべる。


「でも、やっぱり少し心配。大丈夫かな……」


 ぼそりとつぶやいた瑠紫。それと同時にエレベーターは地上につき、閉ざされた自動ドアの向こうで混乱している人たち、そしてそれらを落ち着かせている警官達が見える。


「心配するのはわかる。俺だって、すぐにでも大分に向かいたい」


 ぼそりとつぶやかれた、その言葉を神谷は聞き逃さなかった。そして、二人はエレベーターから降りる。


「春馬………」


「だが、目の前に起きている光景を見てみることはできない。それに……」


「それに?」


 フッと春馬は口を緩めて、外に向けて歩みを進める。


「坂田さんがいる。いや、それだけじゃない。神田さんに、蠅魔(ようま)、後は操神や岩導だっている。十分に任せられる人たちばかりだ」


「うげぇ……蠅魔、あいつもいるのね」


「だから、俺らはまずは目の前のことを全力で片づける。まずはそこからだ」


「うん、そうね!」


 そして、自動ドアが開き、地上に最強と最恐が舞い降りる。二人の意思は、しっかりと九州の英傑たちにつながっただろうか。


お久しぶりです! 就活が、まだまだ終わらず、かなり遅れてしまいました。

今月中には就職活動が終わると思いますので、それさえ終わってくれたら投稿頻度も上がると思います!



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