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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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何も出来ず、何も成せず

「どうして、俺様なんかを守った! なんでだよ……」


 俺様が、海底に沈んでいる間、体に巻き付くようにしていた黒い影の縄は、しばらくの間消えなかった。つまり、数分の間、全身を焦がされながらも耐えていたのだ。四人を襲った、その苦痛、考えるだけでも恐ろしい。

 俺様は、遺品である千葉神対策局のバッジを胸にしまう。このバッジは、しかるべき場所に返してあげなくては。


「俺様より」


 歯ぎしりをしながら、立ち上がろうとした瞬間、空から何かが降ってきた。その強大な何かが空から降りてきた衝撃で、俺様は尻もちをついてしまう。


「な、なんだ……?」


 あたり一面を覆う土埃、天から降りてきた何かが、目の前にいる。だが、それは見えない、それほどまでに土ぼこりが漂っている。


「ナゼ、ムキズノ、ニンゲンガ、イル? イマゴロ、ゴミドモハ、クルシンデイルハズダ」


 土埃が収まり、その声の主が現れた。その声の主は、巨大な馬だった。だが、ただでかい馬ではない。全身を黄金に輝く毛並みに覆われ、丸太のような六本の足、背中には竜のような漆黒の羽が生えている。

 そして、赤く輝くその瞳は横一列に並ぶように左右に3個ずつあり、額にはすべてを貫きそうな翡翠色の角が二対生えている。


「なんだお前は!!」


 俺様よりも、圧倒的に大きな体、三メートルはある。その巨体に、一瞬圧巻されたが、すぐさま立ち上がり、剣を腰から引き抜く。


「ワタシハ、スレイプニル。アルジノ、メイヲウケ、コノチヲ、センメツシタモノ」


「お前が、この地獄を生み出したのか?」


 何なんだコイツは? 妖獣にしては、まるでソウルハンターのような機械音声。だが、見た目は機械的ではなく、生物のようだ。


「ソノシツモンニハ、イエス、トコタエル。No.2ガ、コノチニ、ロウゴクヲハリ、ワタシハ、センメツヲマカセラレタ」


 コイツの正体は分からない。妖獣なのか、ソウルハンターなのか、それとも神なのか。

 だが、今ここで俺様がやることは一つだけだ。


「そうか、よく分かった。遺言は、それで十分か?」


 ここで、コイツを屠る。それが、命をかけて守られた者の定めだ。


「モクヒョウ、ニンゲンガ、イチメイ。センメツタイセイニ、ウツル」


 腰から抜いた剣を、そのスレイプニルに突きつける。それと同時に、スレイプニルの目が光り輝きだし、こちらを睨みつける。


王の殷雷(おうのいんらい)! 消し飛べっ!!」


 俺様が、剣先をスレイプニルに向けると、スレイプニルの足元が白く光り、そして空から落雷が降る。

 4人のおかげで、俺はほとんど戦闘はしなかった。そのおかげで、魔力は潤沢だ。最初から、全力で叩く!


「まだまだ! 王の殷雷!!」


 何度も、何度も裁きの雷はスレイプニルに穿つ。それは、まるで天から幾千の雷の矢が降ってきているようだ。


「ハアアアアッ!! まだ、まだぁ!!」


 俺様の契約魔力は、(おう)。その力は、天候を再現し、自由自在に使うことができるというもの。

 俺様の技のなかでも、王の殷雷はトップクラスの威力を誇る。


「ハァハァ………… どうだ!」


 天から落ちる裁きの落雷。何発放ったかは、30発を超えたあたりから数えるのはやめたから分からない。

 だが、スレイプニルが降ってきた時よりも土埃が舞い、王の殷雷が降り注いだあたりは陥没しており、その威力が窺える。


「…………マンゾクカ?」


 額の汗を拭おうとした時、その機械音声が聞こえて手が止まる。

 そして、疲れから来た汗が一気に止まり、その次には冷や汗が俺様を襲う。


「ツギハ、コチラカラダ」


 土埃の中から、赤い目が光る。そして、その赤き目の主は、首を横に一振りする。


「嘘、だろ……………?」


 土埃の中から現れた、その巨大な体躯と美しき立髪。それらには、一切の傷ひとつ付いていなかった。

 

「モクヒョウ、ニンゲン。カイシュウメイレイ、ナシ。ショブンヲ、カイシスル」


 鮮血のような赤き瞳が光り、その瞬間、スレイプニルは消えた。


「は?」


 いや、消えたのではない。速すぎるのだ。一瞬にして、間合いが詰められる。


「っ! 王の狂飆(おうのきょうひょう)!!」


 俺様は、反射的にそう叫ぶ。すると、俺様を守るように、四方にドーム状の嵐の盾が生まれる。


「ゼイジャク。モロイ、ソンナノデ、マモレルトデモ?」


「なっ!? 嘘だろっ!?」


 迷うことなく、光のように進むスレイプニルを止めることは出来なかった。

 その2本の角で、俺様を守ってくれる盾は一瞬にして破壊される。


「ヒンジャク、ニンゲンハ、モロイ」


 そして、王の狂飆を容易く破ったスレイプニルは、その巨躯から2本の角を俺様目掛けて振り下ろす。


「うおおおおおおっ!!」


 危なかった、剣を引き抜いていなかったら間に合わなかった。

 天から振り下ろされる2本の巨角、それを何とか俺様は受け止める。

 だが、両手と足は悲鳴をあげて、少しずつ地面にめり込んでいく。


「タエル、カ……………」


 スレイプニルと目が合う。生命の息吹を感じない、その冷徹な目は、見た者全てを震え上げさせる。


「ダガ、ソレモ、ムイミ」


 スレイプニルの右足、そこから繰り出される強烈な蹴りが、俺の下腹部に直撃する。

 

「ゴホァッ!!」


 俺様は、スレイプニルの角を受け止めるので精一杯だった。

 だから、次に来る攻撃に対処するなんて不可能だった。

 

「う、うぅ……………」


 もろに蹴りを下腹部に食らった俺様は、後ろに吹き飛び、瓦礫に直撃する。


「ハァハァ………………」


 痛い、身体中が痛い! これが、実戦の痛みなのか? いや、入試の時にも体験しただろ!?


「クソッ……………」


 俺様は立ち上がる。だが、その両足は震えていた。

 あぁ、そうだ、気づきたくなかった。痛みよりも、俺様は怖いんだ。そう、命の奪い合いという本当の戦いを。


「マダ、イキテ、イタノカ? ガンジョウナコトダケハ、ヤルナ」


 タカッタカッと、ゆっくりと軽快な音を出しながら、スレイプニルはこちらに向かう。

 道中にある、4人の遺体を躊躇なく踏み潰しながら。


「うああああ! 王の白雨(おうのはくう)!!」


 俺様は、過呼吸になりながら、両手をスレイプニルに向ける。

 そして、両手の手のひらから勢いよく、雨の弾丸が放たれる。


「カユイ、ムズカユイ」


 だが、それも無意味だった。勢いよく放たれた雨の弾丸は、スレイプニルには傷をつけられなかった。


「っ!! 王の白雨っ!!」


 王の殷雷ですら、傷一つ付けられなかったんだ、無駄な事だなんて俺様が1番分かっている。

 

 だが、人の生への執着。それが、ただ少年に優先させられただけなのだ。


「ワガ、カラダハ、200ノ、ヨウジュウノニクタイ、デ、デキテイル」


 弾丸の雨、それはスレイプニルにとってはただの雨だ。


「サラニ、ワタシハ、タダノNo.デハナイ」


 ゆっくりと、勝ちを確信した者だけができる、そのゆっくりとした勝利の歩みは、少年の表情を曇らせる。


「ワガアルジ、オーディーンサマノ、マリョクモ、スコシイタダイテイル」


 そして、スレイプニルは俺様の身の前まで来ると、その歩みを止める。


「ツマリ、オマエ、ハ、ワタシニハ、カテナイ」


「ハァハァ……………!」


 一気に魔力を使いすぎて、頭がクラクラする。高威力だが、魔力消費の激しい王の殷雷を使いすぎたからだろう。


「デハ、」


「俺様ぁ!!」


 スレイプニルが何かを言おうとしたが、俺様はソレを遮る。


「四頂家が一つ、二皇家の二皇瓔珞! この暗き世界を照らす為に、王になる者! お前になぞ、俺様は負けんっ!!」


 強がりだ、この言葉は強がりでしかない。だが、そうでもしないと、刀を構えることすら、今の俺様には出来ない。


「シコウケ、ソノナマエハ、ナゼカワカラナイガ、ハラノソコカラ、ムシズガ、ハシル」

 

 大気が揺れる。四頂家という言葉に反応したのか、スレイプニルは殺気を更に強める。


「オナジコトバヲ、カエソウ。ユイゴンハ、ソレデ、ジュウブンカ?」


 そして、2本の強大な角から繰り出される、大地をも割る一撃が、俺様目掛けて振り下ろされる。

 受け止めきれない、この距離、そしてもう残り魔力もほぼ無い。


「クソが」


 あぁ、何も成せなかった。四頂家に真っ向から逆らった神崎に、自分が弱く何も出来ないからと八つ当たりをし、クラスの連中にも酷いことを言った。

 それに、母上との約束も果たせなかった。()()にも、申し訳ないなぁ。こんな、俺様に仕えてくれてたのだから。


「あぁ、悔しいなぁ……………」


 死への恐怖よりも、申し訳なさと、不甲斐なさ、そして何も成せなかった自分の人生に少年は歯軋りをする。


「ったく、いつものお前はどうした? 瓔珞、その顔は、お前には似合わない」


 天から振り下ろされた2本の角、それは俺様には当たらなかった。


「え…………………?」


 深紅の特攻服を見に纏い、深紅とは正反対の鮮やかな青髪を生やした、女に俺様は抱き抱えられる。どうやら、一瞬にして間合に入り込み、俺様を助けたらしい。

 その後ろでは、2本の角を地面に突き刺して、ゆっくりと引き抜いたスレイプニルがいた。


「岩導……………? 俺様は、死んだはずじゃ」


「バーカ、縁起でもないこと言うな」


 米俵を運ぶように肩に抱き抱えられた俺様は、岩導のデコピンを額に食らう。

 普段だったら、思わず苦悶の表情を浮かべたくなるほどの岩導のデコピン。

 だが、今回は不思議と痛くは無かった。そして、岩導は俺様を地面に、ゆっくりと降ろす。


「ここまでよく耐えた。あとは、オレに任せろ」


 岩導は、俺様の頭をポンポンと軽く叩き、俺様を庇うように、前に出る。

 そして、首をゴキゴキと鳴らし、岩導は拳を構える。この災いを生み出した元凶をギロリと睨みつけながら。


「おい、駄馬。オレの大切な生徒を、よくも痛めつけてくれたな。久しぶりに、ここまでキレた。覚悟しろよ?」


 その眼は、一点のみを睨み続ける。そして、その隙のない構えは、まさしく()というのに相応しい。

さぁ、8月も中旬で暑さに萎えぽよな作者です。

いやー、改めて思えば、この章長すぎませんかね!? 執筆している自分が言うのも何ですけど、少し盛りすぎましたね笑

だって、三人別の視点で物語を進めるなんて初めてでしたもん!!←言い訳です


えー、そしてこんなことは言いたくないのですけれど、もう1人の視点が、この先追加されたりされなかったり・・・・


ま、まあ、この章は、もう佳境ですので最後まで温かい目で見てくれたら幸いです笑

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