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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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視界の片隅

 瓔珞と千葉神対策局の連中たちがいた大分のAエリアから、悠真たちがいる場所まで視点は移動する。そして、時はほんの数秒巻き戻る。


「間に合えっ!!」


 俺とミツレ、神々廻、そして操神は、操神が出したスネークに乗る。そして、オーディーンが行おうとする何かを阻止するべく、オーディーンがいるであろう、上空でたたずむスネークに向かう。

 だが、すべてが遅かった。いや、それよりも神王の強さ、そして恐ろしさを俺たちは、この時はまだわかっていなかったんだ。


「さぁ、災禍と言う名の喝采を!!」


 オーディーンが、そう高らかに叫んだその時、すさまじい轟音と、ここまで届く衝撃波、それらによって俺たちは体勢を崩す。

 

「くそおおおおおお!!」


「しっかりつかまれ。契約起動しているとはいえ、この高さだ、オーディーンと戦うとしたら、少しの負傷も許されない」


 吹き飛ばされないように、俺たち四人はスネークの背中にしがみつく。だが、いくら巨体のスネークとはいえ、すさまじい衝撃でバランスを崩し、墜落する。


 スネークの背中にしがみついていたおかげで、目立った外傷はない。そして、俺たちを乗せていたスネークの体は、糸に戻り操神の右手に還る。


「いたたた…… みんな、だいじょ…… っ!?」


 俺は目を疑った。三人の無事を確認するよりも、その光景、いや映像というべきだろうか、それを見てしまい目を細めてしまう。


「これは……」


 普段は、きっと冷静沈着な操神だが、視界の隅で繰り広げられている、いや()()()()()()()のほうが正しいかもしれないその残虐な映像で、操神は苦悶の表情を浮かべる。


「ひぃ……」


「うっ……」


 少しの涙を浮かべるミツレ、そしてあまりの映像で右手を口に当てる神々廻。


「……なにをした?」


 眉間にしわを寄せながら、操神は上空に佇む外道を睨む。その声は、畏怖と怒り、憎悪などの様々な感情が含まれていた。


 オーディーンが先ほど九州全域にいる人間と妖獣の視界の片隅、そして人間界各地の映像端末に流していた大分県の映像。

 それが、一気にこの世のものとは思えない光景に変わったのだ。大分県全域に、オシリスが展開したようなバリアが展開されたかと思うと、次の瞬間には大分全域は焦土に変わっていた。

 全身を真っ黒に焼かれ、自切したトカゲのしっぽのように自分の意識とは関係なく体を痙攣させる者。

 眼球は蒸発し、全身の皮膚がただれ、助けが来るはずもないのにフラフラと何も見えない地獄を歩く者。

 そして、バリアの隅、例の魔法陣から一番遠いところにいる人たちは、その重度の火傷の体で、何度も何度もバリアを叩く。破れるはずなんてない、それでも助けを求めているのだ。隣にいる戦友が、力尽きて、苦悶の表情を浮かべながら地面に倒れて力尽きても、その手は止めない。

 神王の手によって展開されたバリア、怪我をしていない状態でも破るのは厳しいはずだ。それでも、彼彼女は何度も何度も叩く。それしか、できないからだ。


「ふむ、なにをしたか? 見ればわかるだろう。貴様ら下賤な人間どもに、再び神の力を体を持って教えたまでだ」


 目をつぶりたくなるような悲惨な光景が常に視界の隅に流れている。目を閉じても、その映像は止まることなく流れ続ける。英雄たちの声やその場の音は聞こえない、だがそれでも俺の耳には彼らの声が響いてる。

 

「ま、その体も、もう少しで燃え尽きるのだがなぁ!! あはははははは!!」


 最悪の場を作り上げた男の声が高らかに響く。男が笑っている間にも、英雄たちは苦悶の表情を浮かべながら、地に伏せる。一人、二人と蝋燭の灯が消えるように。


「それ以上口を開くな! オーディーン!!」


 あまりにも衝撃的な光景を見せつけられた、俺たちは動けなかった。だが、銀髪の少女の怒号により、俺たちは再び戦闘態勢に移る。


「目標、北欧神王国 神王、オーディーン! これ以上、奴の好きにさせるな!!」


 操神がそう叫び、再びスネークを構築する。だが、短時間での構築だったため、スネークの体は所々穴が開いている。

 

「了解!!」


 それに呼応し、俺たち三人も不完全なスネークに乗り、再び上空にいる諸悪の根源に向かう。今ここで、奴を討たないと、彼彼女らに顔向けできない。


「霊炎 母なる大鎌!!」


 ミツレの右手に集まった青い炎は、自分の身長よりも大きな大鎌に生まれ変わる。


「制毒 ブレットアント」

 

 神々廻は、深手を負っているのにもかかわらず、再び神をも苦しめる毒を刃に纏わせる。だが、やはり限界が近いのか、少し息が荒い。


「傀儡 リザード」


 右手でスネークを作り、左手で新たにリザードを生み出す。二つのソウルハンターを同時に自分の指のように操る技術は、操神が傀儡師と呼ばれるにふさわしい。


「一の力 霊炎!!」


 魔力量は、もうわずかしか残っていない。この霊炎が最後の一撃だ。ここで、オーディーンを引きずり落とす!!


「はああああああ!!」


 俺たち、四人はほぼ同時に攻撃をする。だが。スネークを覆う、オーディーンが張ったであろうバリアはびくともしない。オシリスが九州全域に張ったバリアと似てはいるが、強度が別物のようだ。


「神王であるワシが張ったバリアだぞ? 貴様らのような虫けらごときが、敗れるはずがないだろう。ほら、貴様らが奏功している間に、同胞がどんどん死んでおるぞ?」


「くそっ!!」


 俺たちが、バリアを破ろうと何度も何度も攻撃をしている間、視界の隅では、次々に人が死んでいく。


「かつて、貴様ら人間が何度も使用していたといわれる核兵器、人間とその土地を効率的に破壊する兵器を模してみたのだが、ここまで醜悪なものだとはな。人間という生き物は、やはり所詮は家畜同然か……」


 核兵器、はるか大昔に作られたといわれる存在してはいけない兵器。四項家が世を統べてからは、この世界では国同士での争いがなくなったため、製造はおろか、所持することすら禁止されている。

 オーディーンが、どうして核兵器のことを知っているのかはどうでもよいが、急がないと……!


「醜悪? あなただけには言われたくはありません! 私の両親を惨殺し、そして今現在も、このような惨劇を生み出したあなたが、その言葉を口に出さないでください!!」


「あははははは!! これは見せしめだ。改めて、神の恐ろしさを知るにはちょうどいい機会だろう? むしろ、ありがたいと思ってほしいものよ」


 こいつは何を言っているんだ? ありがたいと思ってほしいだと? オーディーンの実力ならば、いしゅんでバリア内の人たちを殺すことだってできたはずだ。

 それなのに、わざわざ苦痛を与えて殺す。さらに、その様子を全世界に配信している。奴がやっていることは、命を軽視する許されない行為だ。

 

「ありがたいだと? ふざけんな!! お前のせいで、何人の人たちが死んだと思っているんだ!!」


「神崎君、気持ちはわかるけど、神とミコたちでは価値観が違う。ほとんどの連中とは分かり合えないのだから、無視して今は手を動かして」


「あ、ああ! ごめん!!」


 神々廻の言うとおりだ、反論するだけ無駄だ。元 神の瑠紫さんや、ミツレと流風の育て親のエキドナの例外を除けば、神と人間は分かり合えない。それが世界の理だ。


「貴様ら。愚かな人間に心優しいワシから一つ助言してやろう」


 オーディーンが何かを言っているが、俺たち四人は虫をして、何度もスネークを覆うバイアを破壊しようと攻撃を加える。だが、そのバリアは固く、いまだに傷一つつかない。


「そのバリアは、わしと同等の魔力量を保持しているか、それ以上ないと破壊はできん。そのような効果がある代わりに、範囲は狭いがな」


 その言葉を聞いた俺たち四人は、一斉に手が止まる。神王と同等の魔力量を持っていないといけない? 俺たち四人は、何度もスネークを攻撃したが、傷一つ付けられなかった。つまり、壊すステージにすら立てていなかったのだ。


「お前と同等の魔力保持者の攻撃でないと破壊できない。それは、つまり僕たちの攻撃は無駄だったのか?」


 操神は、そう口では言うが、諦めきれないのか何度も何度も、リザードの拳でスネークを覆うバリアを攻撃する。


「概ねそうだ。ワシと同等の魔力保持者かつ、相当な魔力を使った一撃という二つの条件でのみ、このバリアを破れる」

 

 信じたくない、信じたくない! 神の戯言には、聞く耳を持つなと神々廻から言われたじゃないか!!  だが、ここまで無傷だと、オーディーンの言うことを信じてしまう……


「少し、しゃべりすぎたな。燃料も限界に近いし、そろそろ帰還するとしよう」


 オーディーンがそういうと、スネークは光輝きだし天高く急上昇する。それに伴い、背中に乗っていた俺たち四人は空中に放り出される。


「ちなみにだが、大分を覆うバリアはワシと()()()の魔力保持者ではないと破壊はできん」


 俺たち四人は、地面に向かって急降下する。この落ちていく間にも、大分県にいる人たちは次々に死んでゆく。


「スネークのバリアに比べれば条件は優しい。だが、ワシの見立てだと、同程度の魔力保持者は、傭兵国家の天使長、裏切り者のルシファーぐらいだろうなぁ!!」


 急降下していた俺たちだったが、操神のスネークによって、操縦している操神を含めた四人は、スネークの背中に乗る。

 そして、少しずつ消えていくオーディーンを見上げることしかできなくなる。


「そのルシファーも今は東京神対策局の連中だ。つまり、ここに来るまでには大分にいるゴミは丸焦げだ。あはははははははは!!」


 まるで、トールのような、親子で似た大笑いをして、オーディーンは姿を消した。最悪な光景と、笑い声を残して、この場から完全に消え去った。


「くそっ!!」


 俺たち四人は、無言で地面に降りる。静まり返った空気の中、冷静沈着な操神がそう叫び、瓦礫をけ飛ばす。


「逃がしてしまった……」


 神々廻は、ため息をつきながら空を仰ぐ。


「また、逃げられた……! ああ!!」


 ミツレは、地面に膝をつきながら、何度も何度も地面を殴る。


「なんでだよ…… 俺たちが何をしたっていうんだ、オーディーン! 急に現れて、無意味に大勢の人間を殺して!! なんなんだよ!!」

 

 何もできなかった。生まれ持った才能である魔力量、それは努力で覆せるものではない。()()()()()()と声をかけてくれる人たちもいるだろう。

 だが、そんな言葉で、この四人は納得できない。実際に、むごい光景を目に焼き付けさせられ、その仇が目の前にいたのだ。()()()()()()で、納得なんてできるはずがない。・





 オーディーンを逃してしまった四人の場から、大分のとある漁港、いや海底までさかのぼる。時刻としては、わずかに巻き戻る。


 海底で、腹部に巻き付けられたロープのような影、それがゆっくりと消え、俺様は動けるようになる。三分ほどだっただろうか、俺様は海底にいた。


「ぷはっ!!」


 そして、俺様は海面から顔を出す。そして、目の前の光景に目を丸くする。息が限界だったが、そんなことすら忘れるぐらいの光景が俺様の目に入る。


「は……? なんだよこれ」


 眼前に広がる光景、それは地獄だった。俺様は海から顔を出している状態なので、そんなに詳しくは見れない。

 だが、それでもわかるほど地獄だ。対岸は、火の海になっており、その光景は永遠に続いている。


「っ……! あいつらは!!」


 呆然としていた俺様だったが、すぐに我にかえる。あいつらは、俺様を海に吹き飛ばす形で助けてくれた。ということは、あいつらは……

 いや、考えるのは後だ。早く陸に上がらねば!!




「はぁはぁ……」


 急いで、俺様は陸に上がる。そして、俺様は、陸に上がった瞬間、異変にすぐさま気づく。


「なんだ、この暑さは……」


 すさまじい熱気が俺様を襲う。濡れた体は、一瞬で乾き、肌に塩の結晶がまとわりつく。


「いや、それよりもあいつらは…… うおっ!?」


 俺様は、あいつらを探すために、走る。だが、すぐに足元の()()()に躓いて地面に倒れる。


「いってぇ…… 早く、あいつらを探さないといけな」


 俺様は、立ち上がる。そして、自分が躓いたものを見た瞬間、言葉が口からでなくなった。


「あ、ああ……」


 俺が躓いたのは、真っ黒になった死体だった。容姿どころか、性別すらわからない。それまでに、ひどい状態だ。

 そして、その死体の近くにも、同じように判別のできない遺体が三体あった。

 

「いや、あ、あ、あいつらじゃないはずだ!! あいつらは、つよ」

 

 真っ黒になった死体が、ほぼ隣り合うように四人。いやだ、信じたくない


「こ、これは……」


 震える声で、俺様が躓いた死体の胸元にある何かを拾う。()()を守るような体制で、その人は丸まっていたのだろう。なので、比較的状態が良く、それが何なのかを判別することができた。


「千葉神対策局のバッジ……」


 熱で、グニャグニャに変形した()()は千葉神対策局に所属している者のみが持つことのできるバッジ。まだ、所属はしていない神崎たち四人とは違い、このバッジを持っており、俺様の近くにいた人は四人しかいない。


「あ、ああああああああああ!!」


 王の血を引き継ぐ少年は、虚空を睨み、絶叫する。そのバッジを持っていた死体が、四人のうち誰なのかもわからない。

 だが、そんなこと、彼にとっては、今となってはどうでもいい。なぜなら、心を許した友人を四人もなくしたのだから。

 

 

 

 


お久しぶりです! コロナになってしまい、そして夏バテで中々更新できませんでした・・・・

今回の内容は、かなり重かったと思います。今日の日付も、たまたま、その日と重なっておりますが、意図したわけではないことを承知してくださると助かります。


戦争が起きない世界になってほしい、いや私たち一人一人で作っていきましょう。

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