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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
151/167

その目

ーーーーーーーー時はさかのぼり、トールとロキが悠真や神々廻と対峙する前にさかのぼる。そして、場面は大分県、現在はAエリアと呼ばれている場所に移り変わる。


「はぁ…… 俺様が、こんな作業をする日が来るとはな……」


 大分県は海沿いのAエリア、人間界を統べる四頂家の一つである二皇家の血を引く少年はポツリと口に出す。


「クククク…… それが、我ら神高の学徒の定め……」


 この厨二病の模範みたいなことを言っているのは愛染。着崩した制服に、まるで大剣を持つかのようにスコップを掲げている。


「ま、それは仕方のないことだ。恨むなら、神を恨むことだな」


 普段からこんな感じな愛染に特にツッコミなどは入れず、一人の男が俺様の隣の瓦礫に腰掛ける。愛染とは対照的に、きっちりと制服を着こなしている男の名は、黒上。妖獣で愛染とは契約を結んでいる。


「みんな~、あらかた作業終わったら休憩しよ~」


「お、お、お、おにぎりあります………!」


 スカートを膝上まで上げ、つけまつげと指先につけたネイル、見るからにギャルの女は一ノ瀬。そして、その隣にいる握り飯が入った手提げ袋を持っている小柄で地味そうな女は白土、妖獣であり、一ノ瀬と契約を結んでいる。


「俺様はいらない。軽食なら持参している」


 こいつらと慣れあうつもりはない。まぁ、それに俺様は、このプロテインバーで十分だ。そして、俺様は瓦礫に腰掛け、ポケットからプロテインバーを取り出し、包装を破く。


「瓔珞く~ん! あたしが作ったおにぎりが食えないというのかな~?」


「な!? き、きさま! くっつくな!!」


 四人に背中を向けるように瓦礫に腰掛けていた俺様に、一ノ瀬は背中から抱き着く。その、当たってんだよ! 何がとは言わないけどよ!!


「え~、なら食べてほしいな~」

 

一ノ瀬は、白土が持っている手提げ袋から、ラップに包まれた所々ボコボコな、例えるならば月面のような真っ白な握り飯を強引に手渡す。


「わかった、わかった! プロテインバー開けてしまったから、そのあとに食うから勘弁してくれ……」


 半ば強引に、一ノ瀬お手製の不格好な握り飯を受け取った俺は、制服のポケットにしまう。


「うむ! わかればよろしい!!」


 俺様が、握り飯を受け取ったことを確認して、満足したのか一ノ瀬はニカッと笑う。


「よし、十分ほど休憩したら作業再開だ。問題はないな?」


 握り飯を片手に食べながら、黒上は言う。千葉神対策局に所属している黒上、愛染、一ノ瀬、白土の四人と、俺様を含めた五人で、ずっと復興作業をしている。

 そして、黒上は四人を束ねるリーダー的な役割を任せられている。少し癪だが、これも王になるためには必要なことだと、自分に言い聞かせている。


「クククク…… 疲弊した我が肉体に、貢物が染み渡る……!」


 今回の復興作業を含めたら、俺様が参加している復興作業は三回目。一部の連中をのぞいたら、新一年生は三回目の復興作業だ。

 そして、三回とも俺様は復興作業を、この四人とともに行っている。


「おい、一ついいか?」


 三回目の復興作業、俺様はこの四人とは必要最低限の会話しかしていなかった。だが、一つ気になることがあるのだ。


「瓔珞が俺たちに聞きたいこと?」


 黒上は握り飯を食べる手を止めて、目を丸くし驚く。まぁ、普段の俺様を知っているから無理もない。


「なになに~? 瓔珞くんが聞きたいこと~?」


「クククク…… 我らで解決できることであれば、喜んで解決に導いてあげよう……」


「う、うん!」


 黒上以外の三人も、握り飯を食べる手を止め、俺様のほうを見る。


「どうして、三回も俺様と復興作業を共にしているんだ? 分家とはいえ、俺様は四頂家だ。お前らからしたら恨みのある相手ではないのか?」


 こいつらが世話になっている千葉神対策局の一員、いや()といったほうがいいだろう。結城杏、()()()会ったことのある女は、三門家の連中にひどい目にあったと聞いている。

 認めたくはないが、俺様と一括りにされている奴らだ。こいつらからしたら、俺は憎い相手といっても過言ではない。

 

「なーんだ、そんなことか~」


「神妙な顔で何を言うかと思えば、そんなことか」


 一ノ瀬は、少し笑いながらため息をつき、黒上はふっと笑い目を伏せる。


「な、何がおかしい! 俺様は、お前らの仲間を傷つけた四頂家の一員なのだぞ? 憎くはないのか?」


 二人の予想外の反応で、つい心の奥底に思っていたことが漏れてしまう。


「クククク…… 瓔珞自身は何もしていない。関係のないことだ」


「そ、そうだよ! 瓔珞君が気にすることはないよ」


 愛染は右手で顔を隠しながら不敵に笑い、白土はキラキラした目で俺様を見つめる。


「ま、そういうわけだ。お前を気にする奴はこの中、いや少なくとも千葉神対策局にはいない。だから、お前が気にする必要はない」


「だが…… それでも俺様は……」


 二皇家の当主と、四項家とは関係のない普通の女から生まれた俺様は、純血ではないとはいえ四頂家の人間だ。価値がないといわれている分家の人間、それでも恨まれているはずだろ? なのに、こいつらはなぜ……


「うんうん、気にする必要なんてないよ~ 君のことは、ゆう君から聞いてるし!」


「ゆう君……? それは誰だ?」


「あ……」


 俺様のことを知っている人は少ないはずだ。それに、この四人と知り合いで、俺のことを知っている奴らとなれば、かなり絞られる。

 それに、()()()だと? あの野郎しかいない。


「も、もう! 美香ちゃん!! 悠真君から内緒にしてって言われてたじゃん!!」


「たははは~ ごめんごめん!!」


 ポカポカと白土は一ノ瀬の背中を背伸びしながらたたく。やはりか、神崎が何か余計なことを言ったようだ。


「おい、あの神崎が何を言ったんだ?」


 あいつのことだ、どうせ余計なことを言ったに違いない。同じクラスとはいえ、俺様とあいつは入学式の例の揉め事以来、顔は合わせても話はしていない。


「やれやれ…… 美香が口を滑らせたから隠すのは厳しいな」


 黒上は、苦笑いをしながら頭をポリポリと頭をかく。そして、俺様の目を見ながら、口を開く。


「悠真は、四項家の血を引きながら、どこか憎めない瓔珞のことを気にかけてくださいって俺たちに言ってたんだ」


 気にかけてくれだと? あいつにとって、俺様は最悪の出会い方をしたはずだ。なのに、あいつは……


「あいつは三門家の連中のようなひどい性格はしていない、でも四項家だから、クラスメイトの連中はどうしても避けてしまってるんです。それに、あいつは俺のことは気まずいと思うから、先輩たちが気にかけてやってくれませんか?って、ゆう君はあたしたちに言ってきたんだよ」


「俺様は、あいつとはひどい出会い方をした。なのに、あいつは俺様を気にかけてのか……」


 あんな奴に気にかけられていたことが情けない。いや、違うな、世界を統べる王になると豪語している俺様が、心配され、そして気にかけられていたことが情けないのだ。


「悠真は気にしてはいなかった。ま、あいつ自身も気まずかったから、瓔珞には話しかけられなかったんだろうな」


「そうだったのか……」


 あぁ、本当に情けない。あいつに借りを作ってしまった。実際、俺様はこの四人と行動をしなかったら、復興作業では孤独だったはずだ。大きすぎる借りを、俺様は神崎悠真という男に作ってしまったのだ。

 認めたくはないが、神崎という男はすごい奴だ。大したソウル値がない、つまりは契約した時に使える魔力も少ないというのに、魔力量に恵まれている三門の跡取りに立ち向かい、そして勝利した。

 しかも、あいつの戦いがあまりにも悲惨すぎて、神崎以降の二次試験の試合は、()()()()になるなど、それまでのルールすら変えてしまった。まあ、これは三門の跡取りが前代未聞の残虐な行為を行ったからというのが、かなりでかいとは思うが。


「クククク…… 悠馬は我らの同胞。瓔珞のことを気にかけていた…… 汝が、細かいことを気にする必要など皆無……」


「う、うん! 瓔珞君が気にするようなことではないです!!」


 俺様は、この身分で生まれたのもあるからだと思うが、人を心から信用することがあまりできない。だが、この四人が言っていることに嘘はなく、純粋な善意のみで俺様に接していることぐらいはわかる。

 この四人、いや、この四人と神崎を疑うほど俺様は落ちぶれてはいない。


「そうか…… ありがとうな」


 俺様の口から、ポツリと思わず感謝の言葉が出てきた。言葉を発した瞬間、俺様は口を手で覆うが、四人にはしっかりと聞こえていた。

 普段の俺様からは似合わない歯が浮くような言葉、それを聞いた四人は一瞬、目を丸くしたが、次にはニヤニヤと笑みを浮かべる。


「驚いたな、お前からそのような言葉が出るとは」


「クククク…… 少し心外だな」


「えへへへへ、急にそんなこと言うなんて照れちゃうよ~」


「み、みんな! からかっちゃだめですよ~!!」


 分かり切った反応を四人からされて、俺様のほほは赤く紅潮し、徐々に顔全体も赤く染め上げる。


「だ、だ、黙れっ!!」


顔を赤く染め、その少年をからかう四人。少し打ち解けたその少年に待ち受けていることが、あのようなものだということは、この時誰も思いもしなかった。

 

「ったく、うるさい奴らだ……」


 俺様が、ふっと鼻で笑い、そしてため息をついたその時だった。空に魔法陣のようなものが一斉に展開される。


「っ!? これは!!」


 空一面に展開される、大樹が描かれた魔法陣。確か、この印は北欧神王国の…… 嫌、それよりも、神だ! 神がやってきた!!


「契約起動!!」


 俺様が反応するよりも早く、四人は反応する。そして契約起動をし、四人は俺様のほうを見る。


「話は、これが終わってからだ。予定通り、俺たちは大分県のAエリアを任せられている中尉のところに障害を可能な限り排除して合流する。問題はないか?」


 いつも冷静沈着な黒上。だが、その声はいつもより少しだけ震えていた。


「うん、問題ないよ」


 それに感づいたのか、一ノ瀬は、黒上の肩をもむ。だが、一ノ瀬自身も、いつもより顔がこわばっている。


「よし、俺と美香が中央で。そして、二人は少し離れて左右でいくぞ」


 愛染と白土も無言でうなずく。この四人は、確かに俺様より経験はある。だが、死ぬかもしれない場面になれる奴なんていない。


「瓔珞、お前は後ろについてきてくれ。なに、お前をなめているわけではない。お前の契約魔力は殿(しんがり)にぴったりだからな。いけるか?」


「ああ、問題ない。背後は任せろ。契約起動」

 

「よし、だれ一人かけることなく、まずは中尉のところに合流だ。いくぞっ!!」


 そして、俺様たちはそうハンターや神民に立ち向かう。だれ一人かけることなく、目的地に合流するために。





「よし、この辺りには奴らはいないようだ。少ししか時間は許されていないが休憩しよう」


 どれぐらい走ったのかわからない。俺たちは、防波堤まで駆け抜けた。そして、襲来してきたソウルハンターを俺様たち、いや四人はだれ一人かけることなく倒してきた。


「クククク…… 少し、疲弊してしまった……」


 結局、俺様が剣を抜くことはなく、この四人ですべて倒したのだ。以前、強い契約魔力とは言えないと自虐していた四人だったが、一ノ瀬は舞のように華麗な攻撃、黒上は影を自在に操る魔力が強力だ。そして、愛染と白土のサポートに特化した力もなかなかだ。

 いや、この四人の強さはそこじゃない。この四人は、常に一心同体で戦い、お互いの長所を生かしているのだ。そこが、この四人の強さの正体だ。

 

「どうしたの~? ボーっとしてるけど」


「いや、何でもない……」


 実際、この目で初めて命のやり取りを見て、少し気後れしているなど言えない。この四人が、実際に戦って、俺様は何もしていないのだから、そんな情けないことは決して言ってはならない。


「ふーん、ならいいけどね。でも、あたしたちと瓔珞君は友達なんだから、何でも気軽に言ってね!!」


 一ノ瀬がニカッと笑う。友達か、ああそんな言葉もあったな……


「俺様と友達……?」


「ええ!? あたしたちって友達じゃないの!? それは、つらたんだよ~!!」


 分家とはいえ、四項家の血が入っている俺様は、神高に入学するまでの学校生活では、その権力にお預けになるのを狙った連中が糞にたかる蠅がよくまとわりついていた。まあ、俺様が何も持ってないことを知ると、連中は消えていったがな。

 そんなわけだから、俺様に友達といえるような奴らはいない。俺様の性格の問題もあるとは、思いたくはないが、それも一因かもな……

 でも、この四人は、俺様のことを色眼鏡で見ていない。それに、こんな俺様に……


「………黒上、愛染、白土、そして一ノ瀬、お前らは俺様の友」


 俺様が、それを言おうとした瞬間、すさまじい悪寒が背中、いや体全体を襲う。


「なんだ、あれは?」


 二つの巨大な魔法陣。これまでの魔法陣とは明らかに異質な魔法陣が二つ、はるか遠くの上空に見える。


「くそがっ……!」


 そうポツリと言った黒上は、俺様の体を縄のようにした影でぐるぐると巻き付ける。俺様の体はピクリとも動かない。


「な!? お前、何」


 だが、俺様は黒上の顔を見た瞬間、思わず黙ってしまう。その顔は、何かの覚悟を決めた顔、俺様はこの顔を知っている。


「漣! 真美!」


「……りょうかい!!」

 

 白土は全魔力を使い、俺様の体の傷、いや傷なんてほとんどない。まるで、これから何か怪我をするのを予感して、傷を癒すバリアのようなものを俺様の体全体を覆う。


「やめろ! 離せっ!!」


 白土は、こちらに目線を合わせないようにし、そして愛染は分厚い鉄板を俺様の胸に固定し、愛染の影と鉄板を結合させる。


「美香、後は頼んだ」


「うん」


 そういうと、一ノ瀬は少し距離を取り、その右足が光り輝く。


「やめてくれっ!! その目は、俺様は知っているんだ!! 頼む!!」


 嫌だ、そんなのは嫌だ。確かに、上空にあるとてつもない魔力、あれはやばい。でも、こんなこと……


「……ごめんね」


 そういうと、いつものはじけるような笑顔ではなく、作り笑いを浮かべた一ノ瀬は俺様の胸に張り付けた鉄板めがけて力を込めて蹴る。


「ガハっ……!」


 一ノ瀬の光の速さのごとく、そして近距離から放たれた苛烈な蹴りは鉄板をいとも簡単に砕き、俺様の肋骨も砕け散る。

 そして、俺様は海に吹き飛ばされ、吹き飛ばされる途中に白土が張ってくれたバリアで、折れた肋骨は綺麗に治る。


「どうして……!」


 はるか彼方に吹き飛ばされ、俺様は陸側にいる四人のほうを見る。表情なんて見えないほど、俺様は沖に飛ばされた。

 でも、あの四人の表情なんて見えなくてもわかる。あの四人は……


「俺様なんかに、その目を向けるなよ。俺様なんかを、こんな出来損ないを助けるなよ……!」


 一ノ瀬にけられた、いや四人に救済された少年は、蹴りの衝撃が徐々に弱まり、深い深い海に落ちる。

 海底に沈む瞬間、すさまじい光が陸側から見えたが、それが何をもたらしたのかを少年が知るのは、もう少し先の話である。

















 





かなり遅れてしまい、申し訳ありません! 就活でかなりドタバタしていました・・・・

なんか、もう就活疲れてしまって、妥協してしまいそうな作者です笑


それはそうと、すこし分量が多くなってしまって申し訳ないです。

うーん、このペースだと、この章が終わるのは先になりそうですね・・・・

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