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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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撤退

「同じ福岡県内とはいえ、オイラは死体でワープしながら来たと言うのに、そこまで速いとは思わなかったすよ」


 ハァとため息をつき、ロキは頭をポリポリと掻く。そして、トールの方をクルリと振り返る。


「王子〜、そこのガキは大して強くはなさそうっすけど、あの子は結構ヤバいっす。()()の王子を庇いながらだとオイラでもキツいっす」


 口調は相変わらずヘラヘラとしているが、真剣な目でトールを見る。

 だが、手負の部分だけ強調して言っているあたり、ロキはトールを舐めているかのようだ。


「ハァハァ……………何が言いたいんだぁ?」


 トールは、額に血管をビキビキと張り巡らせながら、ロキを見上げる。


「退却っす。九尾を回収するのは無理だったっすけど、良質なソウルはかなり回収出来たっす。さ、早く転移結晶で帰るっす」


 そう言うと、ロキは胸元をゴソゴソして何かを探す。そして、服の隙間から出てきた野球ボールぐらいの大きさの紫色の石を取り出す。


「………………退却だと? それよりも、俺は転移結晶は既」


「神崎くんっ! まだ動ける!? 無理なら、ミコが二体とも殺す!!」


 身体をプルプルと振るわせながらトールは下を向く。そして、何かを言おうとしたが、血染めの乙女の怒号が掻き消す。

 そう言うと、神々廻は深呼吸をしてロキとトールに向かって走り出す。


「あ、ああ! 魔力を使うことはキツイが、足止めぐらいはできるぞ!!」


 普段の神々廻とは違う雰囲気に少し気圧されたが、今は確かに絶好のチャンスだ! トールは瀕死、ロキもかなりの痛手だ!!


「制毒 ブレットアント!!」


 神々廻は、手のひらを刀の刀身に沿わせ、刀を構える。

 トールは動けない。ならば、俺もロキの首を取りに行く!

 俺は立ち上がり、刀を鞘から抜く。そして、神々廻はそれよりも早くロキの間合いに入る。

 

「チッ! 面倒な奴らっすねぇ〜 人が話してる時に殺しにくるなっす! 嘲笑う道化師(リディキュール)!!」

 

 ロキがそう言った瞬間、ロキと左肩をロキから触られている状態のトールは一瞬光る。

 そして、俺の目の前には俺の首を斬ろうとする神々廻が現れる。


「なっ!?」


「っ!!」


 刀を抜いといて良かった。何とか神々廻の一撃を受け止める。おかしい、俺は先ほどまでロキがいた場所に、ロキと入れ替わっている?


「ごめん、神崎くん。大丈夫?」


 殺意が剥き出しの目で斬られそうになったから、一瞬だけ気圧されたが、今の神々廻の目はいつもの落ち着いた目だ。


「あ、あぁ。それよりも、今のは……………」


 さっきの石ころが光ったと思ったらロキが現れたのと、今起きたことは似ているな。つまり、ロキの能力は……………


「うん、ロキの能力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。入れ替える物を人差し指で触ってるのを見たから間違いない。さっきも、神崎くんはロキから気づかないうちに触られたのだと思う」


 やはり、そうだったか。指で触った物ということは、キープ出来る数は両手合わせて10個か? 

 あらかじめ刀を抜いていたから良かったものの、抜いてなかったら神々廻の攻撃をモロに喰らってたから、厄介な能力だな。


「それにしても、危なかったぜ。後少しで、神々廻の攻撃が当たるとこだった」


「……………ミコは()()()()()()()()


 少し、神々廻の顔が暗くなる。何かまずいことを言ってしまったのか?


「それよりも、神崎くんは無理はしないで。ミコだけでも片付けられる」


 神々廻は確かに強い。神高の授業の一環である、生徒同士の模擬演習でも俺は一度も勝てなかった。

 クラスメイト誰1人勝てなかった神々廻とは言え、長距離の移動に連戦であれば疲労は溜まっているはずだ。現に、息を切らしているし、傷もかなり深い。


「さっきも言っただろ? 足手纏いにならないぐらいに、俺も援護するぜ」


「分かった。それに、早く倒して九尾(つづらお)さんを助けないと」


 神々廻は刀を抜く。そして、俺も刀を抜き構える。魔力はまだ回復していない。契約魔力は使えないが、神々廻の援護することだけを考えろ!


「ど、どういう事っすか!? 王子、転移結晶無くしたんすか!?」


 俺と神々廻が、ロキとトールに斬りかかろうとしたタイミングで、ロキがトールに何かを言っている事に気がついた。


「だから、神崎の攻撃を喰らって、腹に風穴を開けられた時に、転移結晶も一緒に砕かれたんだ」


「っ! でも、オイラが持ってるから早く逃げるっす! さ、オイラの転移結晶に触れるっす!!」

 

 そしてロキは、野球ボールぐらいの大きさの紫色の石を手に持ち、トールの方に向ける。


「………………逃げる? この俺が? 北欧神王国の次期神王の俺が? この俺が、逃げる……………………」


 先ほどから、トールの様子がおかしい。ロキが、()()()という単語を使うたびに、明らかに動揺している。


「神崎くん! あいつらは逃げようとしている! 早く行かないと!!」


 ロキは、ずっと撤退すると言っている。だが、何故か徹底していない。

 ここで奴らを逃したら、アイツらに殺された人たちが報われない!!


「ああ、行くぞ!!」


「うん。制毒 ()()()()()()()


 地面を勢いよく蹴り、俺たちはロキとトールに向かう。だが、少し距離がある。あの石の名前は転移結晶とか言っていたから、名前の通りなら、アレを壊せば……………!


「王子! 早く!! 奴らが来るっす!!」


「俺が逃げる? また、人間どもから逃げる? そんなのありえない、ありえない、ありえない、ありえない!」


 トールは半狂乱になっている。血を流しすぎたからなのか、それとも別の原因があるのかは分からないが、まだ間に合う!!


「っ!! オーディーン様なら、今回の事はきっと許してくれるっす!! 王子、手を失礼するっす!!」


 ロキは、明らかに苛立ち焦っている。そして、我慢できなくなったのか、トールの手を勢いよく取ると、石に触れさせようとする。


「ミコは、もう逃がさない。ロキ、死んで」


 そう言うと、神々廻は間に合わないと判断したのか、刀を思いっきりロキに向かって投げる。


「ガァっ!? く、くそっ!! バカ王子! 転移結晶を拾え!!」


「あ、あぁ…………」


 神々廻が投げた刀は、ロキの脇腹にグサリと刺さり、その毒と痛みでロキは紫の石を落とす。

 そして、ロキから怒声を浴びせられたトールは、紫の石を拾おうとする。トールは、肉体的にも精神的にも弱っている。まるで別人みたいだ。


「神崎くんっ!!」


「あぁ! 任せろ!!」


 流石に、刀を投擲して紫の石を破壊できるほど俺に精密的なコントールはない。

 だが、今のボロボロのトールになら、神も人間も同じ弱点の頭部に………………!


「逃すかよ! トール! ミツレを解放しやがれ!!」


 そして、俺も神々廻と同じように刀を思いっきりトールに投げる。


「ガハァッ!! か、んざきぃ………………!!」


 俺が投げた刀は、トールの右目に刺さり貫通する。痛みと、脳をやられた衝撃でトールは尻餅をつく。トールは、刀を引き抜いたが、虚空を眺めているだけだ。


「王子ぃ! このゴミ共がぁ!!」


 意識が朦朧としているトールに対して、ロキは顔色は悪いが、まだ戦う目をしている。

 そして、脇腹に刺さった神々廻の刀を引き抜き、神々廻に投げる。

 だか、それを神々廻は持ち手の部分をガッシリと掴み、受け止める。


「くそがっ!! 痛すぎる! なんだこの痛みは!!」


 ロキは、毒で犯された脇腹をバタフライナイフで削り取ろうとするが、あまりの痛さで手が震える。


「ブレットアント。まるで銃弾で撃たれたかのような痛みを伴う毒を持っている蟻。さぁ、地獄の苦しみで懺悔して」


 脂汗をかき、明らかに怯えている様子のロキに神々廻は近づく。

 その時だった、空が真っ黒に染まる。いや、正確に言ったら空に何かいる?


「スネーク? 援軍か!?」


 そう、俺と神々廻の上空にソウルハンターのスネークが現れたのだ。

 スネークは、ソウルハンターや神民、そして神を運ぶ、いわゆる母艦というやつだ。このタイミングで援軍は最悪すぎるぞ…………………


「ロキ、貴様だけでも撤退しろ。トールは、もう捨てて良い」


 だが、援軍ではなかった。スネークから少し声が枯れた、初老の男の声が聞こえた。だが、その声は威厳さと知的そうな雰囲気だった。


「オーディーン様……………………?」


 少し震えた声で、恐れているかのような、か細い声でロキは、その名は言う。

 オーディーン、北欧神王国の神王で、まだ人間では見た事がない神の1人。

 そして、ミツレの両親を惨殺した張本人だ。







少し遅れましたが、お待たせしました! うーん、後少しで、この章は終わると思っていましたが、もう少し長くなりそうです笑

まぁ、長くなったとしても、プラス10話なんて事にはならないと思うので・・・・(多分)



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