不屈の雷神
「ハァハァ……………… そうだ! トールを倒したんだ! ミツレの雷の檻は壊れたはずだ!」
体が動かない。だが、目線だけなら、ミツレの方を向けられる………………
「ミツレ! そっちの様子はどうだ? 雷の檻から脱出できたか!?」
それにしても、土埃がひどい。まぁ、遙か上空から流星が如くの一撃、そしてそれをモロに食らったトールの持ってた、隕石のように巨大化したミョルニル。
その二つが地面に激突したら、このような土埃の世界を産むのも仕方がない。
「神崎さん! 大丈夫ですか!? 神崎さん!!」
「ミツレ! 俺は無事だ! ミツレは大丈夫か!?」
ミツレの声が聞こえた。まずは、無事だと言うことが俺の胸を撫で下ろす。
「私は、無事です! ですが………………」
ミツレの声の様子がおかしい。何かあったのか? そして、それと同時に土埃が収まり、世界がクリアになる。
「なっ!? うそ、だろ………………?」
「はい、雷の檻は……………」
「壊れてないだと!? 俺は、トールを倒したはずだ!!」
そう、雷の檻は壊れていなかった。正確に言えば、少しだけ亀裂は入ってはいるが、ミツレだけでは自力で脱出できない事には変わりない。
「え!? 神崎さんっ! 後ろ!!」
ミツレの方を見ていた俺は、背後から猛烈な殺気を感じとり、動かない体を軋ませながら、ゆっくりと振り返る。
「神崎ぃ………… 悠真ぁ!!」
「嘘だろ……………?」
そこにいたのは、変わり果てた姿の雷神だった。片腕を失い、右の脇腹を大きく抉られ、正面から背骨が見え、そして内臓までもデロリと垂れ下がっている。
「トール!? 俺は、お前を倒したはずだ!!」
おかしい、絶対におかしい! 俺は、アイツの腹に七の力の渾身の一撃を喰らわせたはずだ。
どうして、アイツは地に足をついて立っている!?
「お、れは…………… 北欧神王国の…………」
フラフラとした足取りで、こちらに近づく。俺は、体制を変えることぐらいはできるが、立ち上がることすらも、まだ出来ず、完全には動けない。
「神崎さんっ! 逃げてください!! くそっ! こんなもの!! アアッ!?」
ミツレは、絶叫し、雷の檻を掴む。だが、バタバタという激しい音と共に、ミツレは手を離す。
「コイツ、どうしてここまで……………」
「次期神王だぁ………………!」
立て、立つんだ! 神崎悠真!! 少しは魔力が回復しただろ!?
だが、俺の願いは虚しく、立ち上がることすらできない。右腕に握っていた日本刀を、尻餅を着きながらプルプルと振るわせることしかできない。
「親父にぃ………… 認められなくて…………… は…………」
そう言うと、トールは吐血し、地に膝をつく。目は虚で、先ほどまでの殺意の目はもう限りなく無い。
「トール……………! 俺は、お前をまだ倒せていない!」
せめてもの情けで、俺はトールを完全に殺さなければならない。
だが、今の俺では、一歩も動けなくなったトールと目線を合わせることしかできない。
「ハァハァ………………」
「クソが…………………」
魔力も使い切り、そして体の損傷で動けなくなったトールと、最後の一撃を使い、魔力が回復するまでは動けない神崎悠真。
両者は、5分ほど睨み合い、そして遂に1人の男が動き出す。
「ハァハァ………………微々たる魔力しか回復してないが、契約魔力を使わなければ、少しは動けるまでには回復したぜ……………」
俺は、太ももを思いっきり叩き、そして立ち上がる。鞘から刀を抜き、ゆっくりと動けなった雷神に足を進める。
「お、れは…………… まだ死なねぇ!」
トールの血は止まっている。だが、神の体の構造なのかは知らないが、魔力より体の回復を優先するのだろうか? 俺が目の前にいるのにも関わらず、トールは睨みを効かせているだけだ。
「さらばだ、トール。これで、終わりだっ!!」
「クソが………………」
ミョルニルすら振るうことが出来ないほど、疲弊し切ったトール。俺は、そのトールに目掛けて日本刀を首目掛けて振るう。
だが、それは叶うことはなかった。俺が、首を断ち切ろうとした瞬間、俺とトールの間に、石ころが凄まじい勢いで飛来する。
「嘲笑う道化師! 王子は、やらせないっすよ〜」
石ころが一瞬だけ輝き、トールの前に道化師が立ち塞がる。
そして、俺の一撃をバタフライナイフで防ぎ、俺を後ろに吹き飛ばす。
「王子〜、酷い傷っすねぇ〜」
プップッと軽快な靴の音を鳴らし、その道化師はトールを上から見下ろす。
「ロキ………… お前も、痛手をもらったなぁ?」
自分よりも明らかにボロボロなトールに、そう言われたからか、ヘラヘラした顔が一瞬だけ真顔になる。
だが、再びヘラヘラした顔に戻ると、
「アハハ、でも、オイラの相手はかなり厄介だったんすよ〜 片腕を切り落とさざるを得なかったっす〜」
ロキは自分の失った左腕をさする。よく見ると、左腕から腹部にかけて深い切り傷がある。
ロキの言っていることが確かだとすると、左腕は自分で落としたのか? 一体、何のために……………?
「ロキぃぃぃ!! まだ、逃げないで!!」
凄まじい怒号、そして殺意。俺は思わず、その怒号が聞こえた方を振り向く。
「うえええ!? もう追いついてきたんすかぁ!? 速すぎるっす!!」
そこにいたのは、真っ赤に染まった白衣を見に纏い、息を切らしながらも、その殺意は切れておらず、ロキを睨みつけている少女だった。
普段の彼女からは想像できないほど、怒りを露わにし、刀を構えている。
「神々廻!? どうして、ここに………………」
憎悪のみで神に追いつき、白衣を返り血で染め上げた、血染めの乙女と言われる彼女が立っていた。
お久しぶりです! あと少しで、この章が終わりそうなので、空き時間を見つけて執筆してみました!
このままの流れでいけば、あと5話で終わりそうです! ま、まぁ登場人物に任せている作者なので、長くなりそうですけど笑