憎悪の狐
「ミ、ミツレ……………」
あぁ、情けないな。顔は腫れ上がって、ゲロまみれの姿なんて見られたくなかった。
「神崎さん! 今、そちらに行きます!」
そう言うと、ミツレは雷の牢獄に手をかける。
「ミツレ、やめ、ろ………………」
「アアアアアア!? クッ……………………!」
ミツレが雷の牢獄に手をかけた瞬間、凄まじい音と共にミツレの体が青白く光る。
まるで、雷に打たれたかのようだ。
「ま、まだまだ! ウァァァァ!? ハァハァ……………」
「やめてくれ、ミツレ…………… 俺を助けるために、そんなことしないでくれ!」
何度も何度も、雷の檻をこじ開けようとする。だが、それは叶わぬ願いだ。触れるたびに、ミツレの体は雷に打たれたかの衝撃を受け、弾き返される。
「おいおい、それ以上触るなよぉ? お前は、キズを付けずに連れてけって親父から言われてんだ」
何度も牢獄を開けようとするミツレを見かねてか、トールがミツレに近づく。
だめだ、それだけはダメだ! 俺は、反射的にトールの右足を地面に這いつくばりながらも両手で掴む。
「や、やめろ! ミツレに指一本もゴボァ!?」
「黙れ」
だが、トールはこちらに一瞥もくれることなく、右足で俺の顔面を蹴飛ばす。
「神崎さんっ!! あなた、何者ですか!!」
「あー、そうか、お前には名乗っていなかったなぁ。俺の名前はトール! 北欧神王国の神王 オーディーンの息子であり、次期北欧神王国の神王だ」
北欧神王国、そしてオーディーンという二つの言葉が出た瞬間に、ミツレの表情は明らかな変わった。
そう、ミツレの両親は北欧神王国のオーディーンに斬殺されているのだ。
その憎き復讐の相手の名前が出て、更にその息子が目の前にいるのだ。表情が変わらない方がおかしい。
「オーディーン? あぁ、そうですか………………… フンっ!!」
「はぁ!? な、何をしているんだぁ!?」
ミツレは、深呼吸をしたかと思うと再び雷の檻をこじ開けようとする。
だが、今度は歯を食いしばりながら、手が焼けながらも檻から手を離さない。
「あなたを殺して、私はオーディーンをこの場に引き摺り出します。そのためだと思えば、こんなもの!!」
「ッ………………! この女イカれてやがる」
あんな顔をしているミツレは見た事がない。確かに、今まで何度か怒っている表情は見たことはある。
だが、あそこまで恨みを顔に出している表情は見た事がない。
「ハアアアアアアアア!!」
ミツレの目は血走っており、その両目からは血涙が溢れる。更に、雷の檻を掴んでいる両手は皮膚が爛れ、爪は衝撃に耐えられなかったのかポロポロと落ちる。
「このイカレが! 少しはおとなしくしろ!!」
中々檻から手を離さないミツレに痺れを切らしたのか、トールはミョルニルを振りかざす。
そして、勢いよく伸びたミョルニルは雷の檻を貫通し、ミツレの胸の部分を強打する。
「グハァ……………」
その衝撃でミツレは吹き飛ばされて、雷の檻から両手を離す。
だが、再びミツレは立ち上がる。そう、眼前にいる憎き相手の息子に近づくために。
「まだ、まだまだぁ!! ハアアアアアア!!」
そして、もう一度檻に手をかける。凄まじい衝撃と、肉が焼ける臭いが辺りを覆う。
「何がお前をそこまで駆り立てる! お前と親父に何があったんだぁ!?」
明らかにトールは動揺している。だが、無理もない。目の前で血涙を流し、憎悪をむき出しにしている相手がいれば動揺ぐらいする。
「あぁ、オーディーンから聞かされてないのですか」
ミツレは檻から手を離す。そして、恐ろしいぐらいに冷静なりながら、淡々と口を開く。
「私の両親は、あなたの父親から殺されたんです。ただ殺しただけで無く、両眼をくり抜かれ四肢は引きちぎられ、そして、私が目を覚ました時には頭と胴体は離れていました」
ミツレの両親がオーディーンに殺された事は知っていたが、殺され方までは詳しくは知らなかった。
「ねぇ、どうしてですか? ただ殺せば良かったものを、どうして酷い殺し方をしたんですか?」
「し、知るかよぉ! そんな事ぉ!!」
トールは額から冷や汗が溢れている。神であるトールが、ただの妖獣のミツレを恐れている。
「なぜ、私は殺さなかったのか、どうして私には傷一つつかなかったのか、そして、田舎に神王自ら、それも一人でやって来たのかとか、聞きたい事はオーディーンには山積みです。だから……………」
ハァと深呼吸をしながらミツレは目を閉じる。そして、その憎しみに満ちた両眼をゆっくりと開く。
「あなたを殺して、オーディーンを誘き出す。息子が殺されたと知れば、いくら神王と言えども黙ってはいないでしょう」
今の状況から考えれば、それはかなり厳しいだろう。だが、ミツレの鬼気迫る雰囲気からは、それすらも可能にしてしまうと断言できる。
「おいおい、ビビらせやがってぇ! お前が俺を殺すぅ? 俺が作った牢獄から出ることさえも出来ない奴が出来るわけがないだろうがぁ!!」
「うるさい男ですね。オーディーンは、魔術と武術両方に秀でた神と聞いてたのですが、息子であるあなたには遺伝しなかったみたいですね」
そして、ミツレは雷の檻をもう一度両手で掴む。もう痛みになれたのか、症状一つ変えずに檻をゆっくりとこじ開ける。
「おいおい! 嘘だろぉ!? やめろ! 親父から教えてもらった魔術を破るなぁ!!」
確実に、ゆっくりとだが檻は少しずつ開く。ミシミシと音を立てながら、確実にゆっくりと。
だが、俺は何をしている? トールは目の前のミツレに目を取られていて俺に背中を向けている。なのに、俺は何もできない。顔はボコボコ、全身ゲロまみれで横になっている。
「あー、傷付けずに連れ帰るって言ってたけど、コレは仕方ねぇなぁ……………」
ハァとため息を吐きながら、トールは両肩をゴキゴキと鳴らす。
「檻を握れないように両手を潰すしかねぇなぁ。親父なら治せるだろうしよぉ」
トールは、両手でミョルニルを握り力を込める。ミツレは、檻を開けることに意識を取られて気づけていない。
「親父、すまねぇ! だが、この女がイカレだったんだ!!」
そう言うと、トールは一瞬光ったかと思うと、ミツレに近づく。
「お前は危険だぁ。手を潰させてもらうぜぇ?」
「なっ!? いつの間に!?」
トールの両手で握りしめられたミョルニルの一撃が、ミツレの両手目掛けて振り下ろされる。
だめだ、ミツレがこれ以上傷つく表情は見たくない! 動け動け動け動け動け動け! 俺の身体!!
そう心で叫んだ瞬間、俺の身体の中で二つの何かが弾けた。
そして、何かが弾けた瞬間に、俺の身体から痛みが消えた。だが、それに気づく前に俺はトールに向かって駆け出していた。
「ミツレに手を出すなっ!!」
「何ぃ!? 神崎悠真!? 貴様、倒れていたはずじゃなかったのかぁ!?」
俺の両手に握られているのは小型の剣。俺の持っている七聖剣より小さく、三の力のナイフよりは大きいぐらいの中間のサイズだ。
右手に持っている剣は持ち手が黒で刃が真紅に染まっており、左手の剣は持ち手が白で刃は蒼天の空が如く蒼く輝く。
「神崎さん、もしかして新しい力を手に入れたのですね!!」
ミツレの言っている事は正しいだろう。エキドナと戦った時も同じような事が起き、身体の怪我や痛みがスッと消えたからだ。
「クソがああ!!」
背後からの急襲、そして焦りという負の連鎖でトールは反応に遅れ、右肩と左手に深手を負う。
だが、そこで隙を見せるようなトールではない。深傷にも関わらず、ミョルニルを振り上げる。
「まだまだ! ハアアアア!!」
身体の傷や痛みが完全に回復し、魔力もオマケで回復したので、十分に動ける。
「なに!? コイツ、速くなってやがる!?」
そう、なぜか攻撃速度が上がっている。いや、正確に言えば攻撃を当てれば速度が上がっていると言った方が正しい。
「うおりゃああ!!」
「何故だぁ!? ゴホァ!!」
トールの間合に潜り込み、胸を2回切り刻む。そして、これ以上、トールとミツレを近くに居させてはいけないと判断したので、トールのみぞおちを思いっきり蹴って、瓦礫に吹き飛ばす。
「さぁ、第二ラウンドといこうじゃねぇか!!」
えー、4ヶ月ぶりの投稿です、はい。いや、皆さんが言いたい事は分かりますよ、「遅すぎんだよ!」ですよね。
ほんっっっとうに申し訳ございませんでした! いや、もう言い訳できないです。完全にサボってました。
それでも、ブックマークを外さないでいてくれた神の如き(あ、作中の神ではないですよ? リアル神様です)皆様には頭が上がりません。
来年からは大学四年生で、更に就活やら卒論やらで投稿出来なくなるとは思いますが、頭の片隅に覚えていてくださると嬉しいです。
では、最後はいつもみたいにいきますね笑 下手くそです! アドバイスお願いします!!