呪怨の迅雷
「神崎悠真、お前が本当に千葉神対策局の一員ならば、神吸の名は知っているはずだ。違うか?」
どうする? ここで、俺が神吸さんの事を知っていると言ったらどうなる?
誰がどう見たって、トールは神吸さんのことを恨んでいる。ここは、嘘をついた方が…………
その時、神崎悠真の脳裏にある男の言葉がよぎった。
「カゲは、千葉神対策局の一員だ」
あぁ、そうだ。坂田さんも言ってたじゃないか。神吸さんは千葉神対策局の一員だと。
命の恩人の坂田さんが言っていたんだ。いくら命の危機だとしても、俺は坂田さんの言葉は曲げない!
「トール、お前の言う通りだ。俺は、神吸さんのことを知っているし、会ったことだってある。俺は、神吸さんの知り合いだ」
ぶっちゃけ、どうかしているとは思っている。嘘を吐けば、トールの更なる逆鱗に触れなかった可能性もゼロではないからだ。
「ガハハハハハハハ! そうか、やはりそうだったか!」
激しく激昂するかと思っていたが、トールは何故か大笑いをしている。
「何がおかしい? 俺は、お前の」
「あー、いやいやそれ以上は言わなくて良いぜぇ?」
トールは、俺の言葉を遮ると、片手で顔を覆い笑みを隠す。
「いやぁ、それにしても笑いが止まらねぇ! だってよぉ………………」
そして、再び先ほどまでの殺気を纏ったかと思うと、片手を顔から外し、俺を見る。
「お前を無惨に殺したら、アイツがどんな顔するか楽しみ過ぎるからな。さぁ、覚悟しろよ、人間」
まただ。この殺意! トールの神吸さんへの殺意は凄まじい。
確かに、神と人間は憎しみの連鎖の関係だ。だが、それはそれとして、人格まで変えるのは異常だ!
「おい、ボーッとしていて良いのか?」
「ッ………………!」
全身に殺意と黄金色のオーラを纏った復讐鬼が、俺の間合いに入り込む。
そして、槌ではなく、その筋骨隆々な片腕から繰り出さられる、岩石の如き拳が俺の腹部を襲う。
「グボァ! ウ、ガァ…………………!」
凄まじい衝撃が俺の腹部から、そして全身に流れる。今ので肋骨が、何本か折れるたか、身体の中を反響して耳の内側を通じて分かった。
「ハァ……………ハァ…………………! クソッ……………!」
「どうした? そんなものか? 威勢だけは褒めてやるが、所詮はそれだけか」
指の骨をパキパキと鳴らしながら、トールは膝を地面に付けた俺の前に立つ。
「舐めんなっ!」
「遅いっ!!」
鞘から刀を抜刀し、トールを見上げる感じで、奴の首を斬ろうとした。
「ゴベァッ!? ウ、ガァ………………」
しかし、トールの右足から繰り出された前蹴りが、俺の顎を直撃する。
そして宙を舞い、俺は再び地面に背中をつける。
「まだ伸びるのは早いぞ?」
「ガッ…………………!」
トールは、俺の首を右手でがっしりと掴んで、そのまま宙に掲げる。
「クソッ! は、放しやがれ………………」
足をバタつかせ、俺は両手でトールの片腕を剥がそうとする。
だが、俺の努力は虚しく、トールはびくともしない。
「無様だな、神崎悠真。俺は少しだけお前を過大評価してたみたいだ………………なっ!」
「ガハッ…………………」
そして、トールは左手で俺の顔面を殴る。凄まじい衝撃が、俺の右頬に伝わる。
「おいおいおい! 何にもできないな! さっきの威勢はどうした!?」
「ウ゛ッ……………! ゴボァっ!? オ゛ッ……………」
何度も何度も殴られる。本気を出せば、俺の命なんて一瞬で奪うことの出来る状態なのに、トールは敢えて力を弱めて何度も執拗に殴る。
そして、殴ることに満足したのか、右手を俺の首から離して地面に落とす。
「ガハハハハハ! ひでぇ面だなぁ?」
右半分を執拗に殴られたせいで、俺の顔は右半分だけが異様に腫れている。
そして、口の中は血の味で満たされており、歯も何本か折れた。
「ほら、忘れ物だ」
地面に片膝をつき、睨むことしかできない弱者に対して、トールは弱者の持ち物である刀を足下に投げつける。
「ハァハァ………………」
俺は刀を拾い、それを杖代わりにしながら立ち上がる。意識が朦朧としている。
「人間は、俺たちをそれで殺すんだよな? お前もそうなんだろ? さぁ、やってみろよ?」
トールは、ニヤニヤしながら俺の前に立ち塞がる。
「う、うおおおお!」
俺は最後の力を振り絞り、刃をトールの首を斬りつける。
「遅い」
だが、やはり速さが違いすぎる。俺とトールでは、速さの次元が違う。
「ゴボァ……………………!」
俺の一撃は、トールの首に届いてもおかしくない速さだった。
だが、トールは一瞬光ったかと思うと、真横に避けて俺の腹部に蹴りを入れる。
「ウ……… オエエエエ!! ゲホッ! ハァハァ……………」
「おいおい、汚ねぇな………………」
腹部に強烈な蹴りをくらった俺は、我慢できずに血が混じった吐瀉物を口から勢いよく吐き出す。
「自分で出したもんは、自分で掃除しろよー?」
「ッ!? な、なにす」
「掃除はよぉ! こうするんだよっ!!」
俺の言葉を遮り、トールは俺の髪の毛をガッシリと掴み、吐瀉物目掛けて俺の顔を擦り付ける。
「ヌガァッ!?」
「ガハハハハハハ! 最高の面になったなぁ!?」
顔はボコボコに腫れ、全身は吐瀉物まみれ。そして、反撃もできないほど一方的にやられたと分かる惨めな姿、これこそが弱者だろう。
「最後に、俺がどうして神吸影時を憎んでいるか教えてやるよ」
フラフラと吐瀉物まみれの身体で、立ち上がった俺にトールは語り出す。
「俺がガキの頃、初めての任務先、そう天離島での出来事だ」
天離島………………? 聞いたことはないな。だが、任務と言うからには人間界での話だろう。
「仲間とはぐれた俺は、そこでばったりと二人の人間に出会った!」
二人? アイツが憎んでいたのは神吸さんだけじゃないのか?
「その二人は、最も神に近い男 神谷春馬、そして憎き模倣者神吸 影時だ!」
「春馬さん………………? 二人は別の神対策局のはずだろ?」
奴の言っていることが正しいのならば、刑務所に入れられる前の神吸さんは、春馬さんと同じ対策局で働いていたと言うことか?
いや、でも坂田さんは神吸さんの事を、千葉神対策局の一員だと言っていたぞ?
「お前、神谷春馬とも面識があるのか。まぁ、それは良いとして、神吸影時は神である俺を目の前にして……………!」
ギリッとトールは歯軋りをする。なんだ、何があったんだ?
「初めての一戦はコイツにしよう。ボクの契約魔力でアイツの魔力を模倣しよ|う《・と言いやがった! そして、神谷春馬は見るだけで手出しをせず、俺は神吸影時に命を奪われただけでなく、俺の迅雷という偉大なる父上から頂いた魔力を模倣しやがった!」
そうか、コイツがどうして神吸さんを、こんなにも恨んでいるのかが分かった。
二対一という有利な場面なのに、一人で戦い、そして初めての戦いで負けて、自慢の魔力を真似された。神としてのプライドが、許せないんだろう。
「そして、俺は毎日鍛錬を続けた。身体を鍛え、そして次こそは神吸を殺そうと日々思っていたのに、奴は牢獄にぶち込まれたと聞いた!」
ん? 何故、コイツは神吸さんが刑務所に入れられた事を知っているんだ? 誰から聞いた?
まぁ、普通に考えたら、人を半殺しにして聞いたのか?
「そして、奴を殺せないなら、奴が一番悲しむ事をしてやろうと俺は考えた。だから………………」
地面に置いていた槌を、トールは拾い上げて右手に構える。
「俺の復讐の礎になってくれ、神崎悠真ァ!!」
ダメだ! 避けられない! くそっ! ここまでか………………!
「神崎さんっ!!」
その声が聞こえた時、振り翳した右手はピタリと止まり、その声の主の方向を見る。
トールだけではない。瀕死の俺も、その声の方を見る。
「ミツレ……………」
そう、その声の主は雷の牢獄に閉じ込められた銀髪の少女、ミツレだ。
お久しぶりです! いや、あのマジで全然投稿できなくてすいません!!
サンブレイクが楽し過ぎて、ずーーーーーーっと怪異錬成してました笑
いや、マジで終わり見えませんよね、怪異錬成。あ、良かったら誰か一緒にサンブレイクしませんか?
っていうのは、本気ですけど、本当にお待たせして申し訳ありません!
ネタはあるんで、まだまだ続きますよ〜!!