初めて
目が覚めると、辺りは真っ暗だった。深い深い闇に覆われている。
「ここは、どこだ…………? 俺は、坂田さん達と船に乗ってた筈では……………」
奥の方に、一筋の光が見えた。俺は、その光を見た途端、そこに向かった一直線に走る。
ある程度走ると、一気に視界が明るくなった。しかし、何も無い。あるのは瓦礫だけだ。
「なんだ? ここは? 一体どこだ!?」
辺りを見渡すが、人の声が聞こえない。
「すいませーん!! 誰かいませんかー!」
大声で叫んでみたが反応が無い。いや、生命の反応が一つもないと言ったほうが正しいだろうか。
「ったく! どこだよ! ここは!」
イラついたので近くの石ころを蹴る。ブニャリとした石ころとは思えない感触が足に伝わる。恐る恐る見てみると、石ころだと思って蹴ったのは人の小指だった。
「うわあああああああああ!!」
俺は、思わず尻餅をついた。すると、今度は辺り一面急にが真っ赤に染まった。辺りの瓦礫が、真っ赤に染まり上がったのだ。
「アハハハハハハハハハ!! 黒く〜ん!」
恐ろしく、冷酷な声が響く。どこかで聞いたことがある声だ。
「誰だ!? いるなら出てこい!」
「やれやれ、僕の名前忘れたの? 酷いなぁ………………」
声の主は、ため息混じりの呆れた声を漏らす。
「どこだ!? 出てこい!」
「ここだよ!」
その直後、俺の背中に凄い衝撃がきた。背中を蹴られて倒れてしまう。
「グハッ…………! だ、誰だ!」
俺は、顔を上げて後ろを見る。そこには、憎きあいつがいた。
コックみたいな長い帽子、ニヤニヤとした人を嘲笑うかのような顔、オシリスだ。
「オシリス…………! てめえ! 逃げたんじゃなかったのかよ!」
オシリスは、目の前で倒れている俺の髪の毛をガシリと掴む。
「君に関わった人は死ぬんだよなぁ。悲しいよねぇ!? そうだよねぇ!?」
コイツは何を言ってるんだ? オシリスは、キュウビに負けて逃げたはずじゃ…………
「どういうことだ!」
「ほら、あそこ見てごらんよ」
オシリスが指をさした方を見る。そこには、血だらけで倒れている仁がいた。
「仁!? 連れて行かれたんじゃなかったのか!?」
生きているのか? いや、あそこにいる仁はもう目の輝きが失われている。
俺が驚いていると、オシリスは髪の毛を掴む手を更に強める。髪の毛がミシミシと悲鳴をあげる。
「ほーら! 君に関わった人は死ぬ! ほら! あそこも!」
「キュウビ? それに、坂田さん……………? ドクさんまで……………」
オシリスの指さした方に横たわる三人は、ピクリとも動かない。
坂田は右肩から腕を切断されており、ドクさんは両足を失っている。キュウビは、身体は欠損してないが二人に比べて全身からの出血が酷い。
俺は、地面に何度も拳を打ち付ける。弱い自分が憎い! 憎くてたまらない! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
「やっと、わかったかな? 君に関わった人は死ぬんだよ。君って悪魔じゃないの? 悲劇を撒きすぎだよ! まったく、酷い奴だよ! 君は! 君が殺したみたいな物だもん! アハハハハハ!! 最低だ!」
オシリスは笑っている。その笑みは、俗世の人間を馬鹿にする死神の笑みだ。
「ちくしょお! 俺に関わった人は死んでしまうのかよ! なんでだよ! 俺なんか死んでしまった方がいいのかな……………」
俺の拳を握る力がが強くなる。憎い、オシリスが憎い。
いや、本当に憎いのは俺か? 人を殺しているのは俺自身なのか……………? なんでだよ! どういうことだよ…………
「そうだよね! ツライよね! 君が殺したみたいな物だもん! 君には力が無い! タダのゴミだ! アハハハハハハ!!」
「そんな事はありません……………! 神崎さんはゴミなんかじゃないです! ゴミはあなた達です!」
「キュウビ………………?」
キュウビは、力なくおぼつかない足取りで立ち上がる。やめろ、もうやめてくれ…………
「ん? まだ生きてたの? 生命力ゴキブリ並みだね。あぁ! 狐って怖い!」
キュウビが、こっちに近づいてくる。左手は変な方向に曲がっており、足取りもフラフラだ。そして、可憐なはずの巫女の服はボロボロで血だらけになっている。
「霊炎 陽炎!」
キュウビがそう言うと、前みたいだったらいくつもの炎の剣が出るが、今回は1つだけしか出なかった。
力が残ってないのか、虚しくカランと音を立てて剣が落ちる。
キュウビは、震える手でソレを持つと、オシリスの方に走って向かう。
「アハハハハハ!! 魔力が底をついたか! さっきまではビュンビュン飛ばしてたのに! 手で持つなんて! 面白いなぁ、まったく!!」
「ハアアアアアア!!」
キュウビの攻撃が、オシリスの喉元に当たりそうになる。
しかし、サラリと避けられる。
「ハアハア………… まだです! 諦めません!」
キュウビはフラフラだ。足取りがおぼつかない。
「やめてくれ! キュウビ! もうボロボロじゃないかよ!」
「そんな事はありません。まだ、戦えます……………!」
キュウビは再び、オシリスに向かう。
「あー、もう君には飽きたよ。バイバイだ。」
オシリスがそう言うと、右手に持っている杖から紫色の光が放出され、その光はキュウビを直撃する。
「カハ……………!」
体の中央に大穴を開けられたキュウビは、地面に力なく倒れる。
あぁ、俺のせいだ! 俺がキュウビに関わったから……………
「分かったかな? 君と関わった人間は死んでいく。君は死神だ!」
俺は、キュウビの元に駆け寄る。腹からは、ドクドクと鮮血が溢れ出し、内臓もグチャグチャだ。
「キュウビ! おい! 目を開けてくれ! 頼む!」
もちろん、ここまでの攻撃を受けたのだから、問いかけにはキュウビは何も答えない。
「オシリス! ゆるさねぇ! お前はだけは絶対に!!」
オシリスの方に拳を固めて走り出す。
「うるさい」
俺の言葉を、オシリスはそう一蹴すると、杖から紫色の光が放出する。
キュウビと同じように腹部に直撃する。意識が遠のいていく。
ああ、俺の人生はここで終わりか。短かったなぁ…………まだ、死にたく…………ない…………!
俺は、再び暗い闇の中に放り込まれた。徐々に意識が遠のいていく。そして、深い深い闇に吸い込まれていく。
「神崎さん! 神崎さん! 」
ああ、幻聴が聞こえてくる。だいぶ俺もヤバイなぁ……………
「神崎さん! 起きてください! 着きましたよ!」
俺は、闇から覚めた。そして、ここはベッドの上だ。
俺の顔の目の前には、銀髪の少女がいた。キュウビだ。
「キュウビ!? 良かったあ…………! 夢で良かったあ」
訳もわからない事を言われて、キュウビはキョトンとしている。
「よく分かりませんが早く出ましょう。もう、千葉県に着きましたよ」
キュウビが俺の手を握る。じんわりと体温が直に伝わる。キュウビは手を掴んだまま扉を開けた。
「ちょ、ちょっと!? キュウビさん!?」
俺は、力を入れてキュウビを止まらせる。キュウビは気づいたのだろう。異性と手を繋ぐ事の恥ずかしさを。
「ハワワワワワワ!! 私ったらなんて事を!」
キュウビがオロオロしている。そして、顔を真っ赤にしながら俺の方を向く。
「ったく! 早く行こうぜ。着いたんだろ?」
俺は、机に投げかけてた学ランを着て、扉の方を向く。
「あ、あの! 神崎さん!」
キュウビが俺の裾を掴んでいる。ったく、手を繋がれたのは俺も恥ずかしいのだから、あまり今は顔を見たくないな。
「どうした? 早くいくぞ」
「あの…………… その!」
キュウビの顔は真っ赤だ。まだ、手を繋いだ事を根に持ってるのか?
「どうしたんだよ? なんか変だぞ?」
キュウビは深呼吸する。何かがおかしいな、事故で手を繋いでしまっただけだぞ? 童貞の俺でも、こんなに焦らないのにキュウビは何故………
「わ、私の初めてが神崎さんで良かったです。初めての男の人が神崎さんで・・・・!」
俺は、思わず咳き込んだ。おいおい、待て待て待て! キュウビのこの表情、もしかして…………………
「ふわあ!? どういうことだ!? 何が初めてだ!? ええ! 俺ってなんか寝てる間に変な事した!? まって! 記憶に無いんだけど!」
俺は頭を抱える。おいおいおいおい、記憶にないぞ!? 変な悪夢のせいだか知らんけど!
「私の初めてをついさっき…………… 神崎さんが奪いました。でも!初めての男の人が神崎さんで良かったです! 女の人とは妖獣界にいた時に何回もやりましたから。男の人は神崎さんが初めてです……………!」
俺は、え?と思った。女の人とは何回もヤっている!? どういうことだ!? 何!? こいつってあっち系!? 嘘だろ!? こんな純粋な見た目の奴が!?
いやいや待て待て神崎 悠真、人は見かけによらないってよく父さんが言ってたから! それに、今は多様な性がある時代だ! 古き考えは捨てなくてはならん! てか、マジかよ……………
「あ、あのお……………? キュウビさん、女の人とは何回も?」
キュウビは首をかしげる。やはり、直球過ぎたか?
「はい。幼い時から何回も。数えきれません。でも、男の人とは初めてです。」
マジかよ!? 幼い時から!? ええ! 待って! こいつヤバすぎるだろお! とんでもない奴だったの!? 俺の今までの純粋っていうイメージを返してえ!
清楚系ビッチとか言うやつなのか…………? ふむ、悪くないな。いやいやいやいや! 何考えてんだ俺!
「男の人の手ってガッチリしていて凄かったです。初めて男の人と手を繋ぎました……………」
キュウビの今の一言で全てが消えた。
「え? 手?」
「はい。手を繋いだ時に最初は気づかなかったけど、男の人の手って凄かったです!」
ヤバイ、情報の整理が追いつかない。え、待ってどういうこと?
「え、初めてって男の人と手を繋いだって事?」
「はい。そうですけど? なんか変ですか?」
俺が勝手に妄想してただけか! 良かった! だって覚えてないって怖いじゃん! マジでビビった………………
てことは、まだ俺は童貞って事か。いや、残念ではないよ!?
「どうしました? 顔が赤いですよ? 熱ですか?」
キュウビが俺のデコに手を当てる。やめろ! 今の俺には色々やばい!
「ふええ!? 熱無いから! 大丈夫だから!」
ヤバイ、変な想像してしまった ……………忘れよう。
こんな事、キュウビに知られたら確実に殺されるな。
「変な神崎さん。じゃ、行きましょう」
「あ、ああ」
俺とキュウビは、部屋の鍵を閉めてフロントに向かう。フロントには、坂田とドクさんが既に待っていた。
「お! 来たか。じゃ、行くぞ」
「すいません、遅れました」
「すいません!」
俺とキュウビが謝る。しかし、坂田は特に困った顔はしない。
「いや、俺たちも今来たばかりだ。さあ、車に乗ろう。もう下ろしてある。」
「はい!」
俺たちが船を出ると、どこかの港に着いていた。初めて千葉県に来たが、港はどこの県も似たようなものだな。
「ありがとな。上田。タダで乗せてもらって」
上田と呼ばれた中年の小太りの男は、坂田の車の横に立っていた。どうやら、この人が車を出してくれたらしい。
「いや、大丈夫だ。こっちも帰りだったからな。礼はいらん」
上田は渋い声で言うと、タバコに火をつけた。そして、使っていたライターを坂田に返す。
「ま、本当にありがとな。」
「何度も言わせるな、礼はいらん。それより、早く行かなくていいのか? お前のとこの奴らが心配してるんじゃないのか?」
坂田は、スーツを少し捲り上げて腕時計に目をあてる。
「5時か、少し遅いな。すまない、先に行かせてもらう。」
「ああ。」
「おい! 早く行くぞ」
「ありがとうございました!」
俺たちは、上田にお礼を言うと車に乗り込む。いち早く助手席に乗り込んだドクさんは、新聞を読んでいる。
「よく眠れたか?」
坂田が急に聞いてきた。
「はい! よく眠れました! ありがとうございます!」
逆に寝すぎて目が痛いぐらいだ。だって、坂田の車に乗ったのが朝の8時だったからな。そして、寝始めたのが11時ぐらい。
最近、受験勉強であんまり寝てないから、これぐらいの時間でも寝すぎたと思うのだろう。
だが、あの妙にリアルな悪夢はもう勘弁したいものだ。
「そうか、良かった。もう少しで着くぞ。港から近いからな。」
「何がですか?」
「俺たち、千葉神対策局のな。対策局でありながら団員の家でもある。いや、正確にはアイツらはまだ団員ではないが…………」
「神対策局…………」
あの強い神達相手に、影から世界を守ってきた人達だ。きっと凄い人達なんだろう。
「会うのが楽しみですね! 神崎さん!」
「ああ!」
15分ほど車を走らせていると車が止まった。どうやら、着いたようだ。
「ここが、千葉神対策局。ま、とりあえず入ってくれ。」
「ここが神対策局…………」
見た目は、大きな昔ながらの旅館みたいだ。三回建で横も広くかなりいい家だ。
いや、対策局とか言うからガチガチの秘密結社みたいなのを想像していたが、普通の町に溶け込んでいるとは…………
「デカいです」
「ああ、デッカいな」
俺とキュウビは目を合わせて言った。ドクさんが背中を押した。早く入れって事だろう。俺が後ろをふり向くとドクさんは頷いた。
そして、坂田の後に続き玄関の前に着いた。坂田がベルを押すと、ベルを押した時に声が聞こえてきた。
「ああ!? それ私のプリン! ちょっと!勝手に食べないでよ!」
「ええ!? くそビッチ!? え!? ちょっと! うわあああああああ!!」
ベルが鳴り終わると声が消えた。ベルが鳴っている間に、内部の音が聞こえるタイプらしい。
「なんだ!? 今のは!? 坂田さん! なんですか今の声!」
「あ、ああ、 すまない。ただのアホどもだ。気にするな」
坂田の顔は、今までに見たこともないような微妙な顔になっている。いったい、中にどんな人がいるんだ!?
「ええ!? 気にしますよ!」
「あ! 誰か来ます!」
俺とキュウビが騒いでいると、ガラガラと扉が開いた。
「ああ、女将さんでしたか。すいません、布団2つ追加で。」
「分かりました。では、どうぞ」
女将さんと言われた人は、どう見ても女将さんとは言えなかった。オカッパで朱色の着物を身につけている。
だって、どう見ても女子小学生だ。なんなんだここは……………
「なんですか? ジロジロ見て? ロリコンですか? 残念ながら、私はロリでは無いですよ。少なくともあなたよりは年上です」
初対面でロリコン扱いされた俺は、むっとして
「いやぁ、坂田さん凄いっすねぇ。こんな小さい子に仕事させるなんて、俺はロリコンじゃ無いけど、それが好きな人にはたまらないんじゃないですかぁ?」
その瞬間、坂田の唇が震える。まるで、蛇に睨まれたカエルのように……………
「お前…………… 死んだな」
坂田が、俺の右肩にポンと手を置く。ん? どう言うことだ?
「え? オボロッシャア!」
直後に少女の爪先が、俺の息子に当たった。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、今までの金的の中で1番痛い……………
「イッテエエ! 何すんだ! ロリ野郎!」
俺は、股間を無様に押さえながら倒れる。キュウビの目が、ゴミを見るような目でダブルで辛い。心なしか、坂田とドクさんは慈悲の目を向けている気がする。
「もう1発くらいたい?」
しゃがみ込む俺はの顔に、ロリはつま先を再び近づける。
「いや、すいません。お姉さん。」
それにしても、目が怖い。この目は人殺めたことあるだろ!
「それと、私はロリじゃない! 座敷わらしです!」
ロリと呼ばれる事がよっぽど嫌なのか、頬を膨らませる。
「座敷わらし!? 妖獣界出身すか?」
「……………そうよ!」
この人が座敷わらしとは………… 確かに子供なイメージがあるが。
「女将さん、そろそろ上がってもいいですか?」
坂田からそう言われると、表情を一変させて座敷わらしは頰を染める。
「はい、どうぞ」
おいおい、俺の時とはえらい違いだな。
「じゃ、入ってくれ」
「お邪魔します!」
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、坂田の後に続く。それにしても、なんなんだここは………………
あー! 息子が痛いなぁ! ちゃんと、使えるよな………………?
下手クソです!
アドバイスお願いします!