その雷電の名は
「おーい、おいおい! 俺は、このガキを殺ろうと思ってたんだけどぉ!?」
男は、チッと舌打ちしながら、首をゴキゴキと鳴らす。
そして、俺は尻餅をついていた腰を、ゆっくりと持ち上げて立ち上がる。
「ミツレっ! 大丈」
「おっと! 動くんじゃねぇ!」
「ッ……………!」
俺のせいで吹き飛ばされてしまったミツレのところに向かおうとする。
しかし、男が槌をミツレの方に向けたため、俺は立ち止まる。
「神崎悠真…………… だったか?」
「なっ!?」
何故、コイツは俺の名前を知っている!? この上裸の男と俺は初対面のはずだ。
「何故、俺の名前を知ってるんだ!?っていう模範的な顔すんじゃあねーよ。ハッハァ!」
男は、右手を額に当てて高笑いする。その笑い声は、天にも届きそうだ。
「お前さ、神界じゃあ地味に有名人なんだぜ?」
「有名人? 俺が?」
コイツは、何を言ってるんだ? 俺は、神と関わってから、まだ半年も経っていないんだぞ?
そんな奴が有名人になれる訳がないだろ……………
「あー、まぁ有名人って言っても、神に最も近い男とか、剣聖とか程じゃあねぇぞ?」
神に最も近い男……………… あぁ、確か春馬さんだな。剣聖は聞いた事がないが、有名人ならば実力者なのは間違い無いだろう。
「お前、神に会いすぎていないか?」
言われてみれば、俺は神に会いすぎている。
オシリスによる惨劇から始まった俺の復讐の物語。九尾こと、ミツレとの出会いで、俺は契約という力を身につけて神に対抗する術を手に入れた。
そして、そこからは神との戦いばかりだ。コイツの言う通り、俺は神に会いすぎている。
「あぁ、そうだな………… とんでもない悪運だな」
「ハッハァ! 悪運とは、神としては悲しいぜぇ」
「悲しいだと? お前らが来なければ、全て丸く収まるんだよ」
俺は、刀を持っている手に力を込める。そして、抜刀しようとする。
「おっと! 妙な真似はするなよぉ? 俺は、お前と、もう少し話したいんだ」
「チッ………………」
奴の槌は、ミツレの方に向いたままだ。ミツレは、頭を強打して気絶したのかピクリとも動かない。
俺との契約が切れていない事を考えると、命に別状は無いみたいたが、心配だ。
「で、お前は今まで、どんな神と会ったんだ? 教えてくれよ」
やはり、コイツが考えている事が分からない。急に俺のことを有名人とか言ったかと思えば、次は俺と会ってきた神を教えてくれときた。
「……………オシリス、カグツチ、エキドナ、この3人とは直接的に戦ったな。ツクヨミ、アヌビス、この二人はその場にいただけだ」
「ハッハァ! エジプト神王国の出来損ない、ギリシャ神王国の裏切り者、日本神王国の三極神! 癖の強い奴らと合ってるじゃねぇか!」
裏切り者はエキドナ、三極神はツクヨミと分かるが、エジプト神王国の出来損ないは、どっちか分からないな。
「アヌビスは、俺とよく酒を飲んでるぜ。アイツが持ってくる酒はウメェんだ。カグツチって奴は誰なのかは分かんねぇな。初めて聞いたぜ」
どうやら、エジプト神王国の出来損ないはオシリスのようだ。
まぁ、ミツレも言っていたが、アイツは杖が無いと何もできないらしいから、出来損ないなのだろうか。そんな奴が、どうして単身で九州地方を襲ったのかは謎だがな。
「お前と仲の良い神なんて、俺は別に聞きたくない。さすがに、この質問には何か意味があるんだろ?」
「ったく、つれねぇガキだ。ま、ちゃんと意味はあるぜ」
「流石にそうか。脳みそまで筋肉に侵されてなくて良かったよ」
「おーい、おいおい! それは言い過ぎだろぉ!? ま、そんなことよりも、話を少し戻そうぜ」
コイツと話していると調子が狂う。死んでも思いたく無いが、昔からの友達みたいだ。
「各地でお前と戦った神からの短期間での多数の報告、最後の七聖剣保持者、これだけでも、そこら辺の人間よりは有名人だ」
まぁ、たしかに神もどんなやつと遭遇したとかは報告するだろうな。
それよりも、俺が七聖剣保持者ってのが、もう知られているのが意外だな。
「だが、九尾、いや九尾ミツレの契約者ってのがデカすぎるんだ」
「ミツレだと?」
何故、俺が有名人なのとミツレが関係あるんだ? 俺は、ミツレの出生は詳しくは知らないが、話に聞くだけだと、妖獣界でも目立ってはいなかった的な言い方をしていたはずだ。
「あぁ、アイツは、我が北欧神王国の最重要任務の最後のピースだ」
「ミツレが!? おい! どう言うことだ!」
何故、ミツレが北欧神王国の最重要任務の最後のピースなんだ!?
いや、待てよ? そういえば、ミツレの両親は北欧神王国の神王、オーディーンに殺されたって言っていたよな? もしかして、何か関係あるのか?
「あー、まぁ人間如きには言えないけどな。簡単に言ったら、ゴミ箱に捨てたけど、実は必要な物だったんだ。ほら、お前らでも良くあるだろう?」
ミツレと、ゴミを同格にしているかのような言い方にはイラッとしたが、今は黙っておこう。
捨てたけど必要になっただと? 意味が分からない、どう言うことだ?
「で、そんな九尾との契約者である神崎悠真の名前も、地味に神界で広まっているって訳だ」
なるほどな、俺の名前が広まっている理由はミツレにようものらしい。
北欧神王国の最重要任務の最後のピースの契約者、そりゃ少しは有名人になる訳だ。
「そして、今回の襲撃は九尾を生捕にするのが最重要項目だったわけだ。ま、後は適当に人間半殺しにしてソウル回収とかもな」
「は?」
適当に半殺しだと? 半殺しじゃなくて、コイツらがしている事は拷問に近い。
それに、殺している人だって沢山いるだろ。俺の母さんみたいに……………!
「ま、そう言う訳だからよ。九尾を転送するのを邪魔しないのならば、お前は生かしてやるよ。俺の話にも付き合ってくれたしな」
「は?」
そう言うと、男は俺に背を向けてミツレの方に歩き出す。
よく怒りを表す表現で、はらわたが煮え繰り返るとかがあるが、今の俺は少し違った。
言葉で表すのはとても難しいが、何かが切れたかのような感情だ。
「調子に乗るんじゃねぇ! 目の前で人を殺し、そしてミツレに手を出しておいて、俺が引き下がる訳ねぇだろうが!」
俺は、刀を鞘から引き抜き、一の力を起動する。そして、その霊炎を刀身に纏わせる。
「ハッハァ! 神崎悠真ァ! お前なら、そう言うと思ったぜぇ!!」
そして、それを読んでいたかのように男は振り向き、俺の刀と男の槌がぶつかる。
「そうだ、自己紹介が、まだだったなぁ」
男は、槌に力を込めて俺を吹き飛ばす。凄まじい力だ…………!
「俺の、名前はトール! 北欧神王国の神王 オーディーンの息子にして次期神王だ!」
トールは、そう叫ぶと、足を一回地面に叩きつけて踏み込む。
「そして……………」
すると、トールの周りの空気が電気を帯びている。その電気は少しずつ力を増しており、まるでオーラかのようにトールの周りを包み込む。
「お前たち人間に、一度殺された男だぁ!!」
男の雷かのような怒号が、辺りを震わせる。その怒りの叫びは、まるで人間に対する復讐かを思わせていた。
そう、雷かのような男は、神崎悠真と同じ復讐鬼だったのだ。
約1ヶ月ぶりの投稿です! ほんっっっとうに待っていた方には申し訳ないです!
言い訳としては、リアルが凄い忙しかったんですよね笑
これからは、少しずつ投稿していきたいと思います!