鉄槌
「くそっ! この数、九州地方の時と同じぐらいじゃないか!?」
空一面にある魔法陣。そこから光が射出され、消えたかと思うと、また別の魔法陣が次々に展開される。
魔法陣の数だけで言えば、オシリスの時と同じくらいだ。
「あの魔法陣は………………!」
中央に大樹が刻印された魔法陣、ソレをミツレは歯軋りをしながら睨んでいる。
「ミツレ? どうかしたのか?」
俺の声で、ミツレはハッとして、咳払いをする。そして、俺の方を向き、
「それよりも、急いでテントが貼られた場所に向かいましょう。固まっておいた方が安全です」
「あ、あぁ! そうだな!」
魔法陣を見たミツレの表情が気になるが、今はそれどころではない。
ミツレの言う通り、ここら辺の地区を担当している人同士で集まるのが得策だ。
「私たちは、集合時間から遅れているので、もう皆さんは集まっているはずです。急いで向か」
そして、俺たちがテントに向かおうとした時だった。一際大きな魔法陣が展開されたかと思うと、テントがある場所に向けて光が射出された。
凄まじい落下音と共にソレは地に落ち、ソレに引き寄せられるように他の魔法陣も、そこに向かって光が射出される。
「ッ………………! おい、ミツレ! デカイ魔法陣が展開された場所ってもしかして………………」
「えぇ、皆さんがいる場所で間違いないでしょう」
俺たちは、契約起動をして、急いでテントの方に走る。嫌予感しかしない…………
「あのデカイ魔法陣って、やっぱり………………」
「はい、神崎さんの思っている事は正しいです。一際大きな魔法陣からは、神が射出されます」
クソッ! やっぱりだ! つまり、テントの位置に神が襲撃してきたのか!
「それに、魔法陣が展開された時に空を見渡していたのですが、大きな魔法陣が幾つか確認できました」
ミツレは、言いにくそうな表情を浮かべながら口を開く。
「どう言う事だ? 神が、複数体出現したって事か?」
七聖剣定例会議の時に起きた、床に刻まれた文字が示していた事は本当だったのか!?
近い場所に、神は同時に現れる事は出来ないが、全ての七聖剣が揃った今、それが起きてしまうって話だった。
「本来、近い場所には神は同時出現は出来ません。ですが、目視で確認できる位置に大きな魔法陣が現れたとなると、その法則が覆されたことになります」
七聖剣定例会議で起きた事は、基本は他言無用だからミツレが知らないのも無理はない。
だが、あの場にいた人たち全員が、あの書かれた事が本当になるとは思っていなかったはずだ。
「他の県に神が来ていないと仮定しても、一県でこれだけの数の魔法陣が展開されたのは、神崎さんが言った通りで、オシリスの時と同格でしょう」
「やっぱりか。これだけの魔法陣を福岡のみに展開するとは考えにくいから、九州地方全域に神が来たって事はあり得ないかな?」
もちろん、これは最悪の展開だ。だが、福岡県のみに、これだけの数の魔法陣を展開するなら、満遍なく九州地方全域に展開した方が、神側としてもメリットは多そうだ。
「実際に他県を見てないから何とも言えませんが、可能性は高いですね……………」
「そうなったら、被害はオシリスの時と同格か」
「それは分かりませんよ。今、九州地方にいる人は神殺しの術を持っている人たちです。それに、空をよく見てください」
ミツレが、目線を空の方にチラリと向ける。空をよく見ると、薄紫に点滅しているバリアが貼られていた。
「コレが、対神用防御結界! 初めて見たが、本当に九州地方全域を覆っているんだな」
遥か上空に貼られた、対神用防御結界。魔法陣よりも更に上空にあるので、神が一度入ったら、なかなか抜け出されないようになっている。
「あの時とは違います。今の私たちに出来ることは、状況把握です。ですので、少しペースを上げてテントに向かいましょう!」
「おう! このままのペースなら10分ぐらいで行けるはずだ!」
俺たちは、テントに向かってスピードを上げて更に駆ける。
「ハァハァ…………… 全速力でやっと半分ぐらいですね。道中のリザードやフロッグなどのソウルハンターが厄介でしたが」
テントに向かう途中、合計10体ほどのソウルハンターと遭遇した。全て斬り伏せたが、今のところは誰にも会っていない。少し心配だな……………
「あぁ、だが、そろそろ見えて………………ん?」
俺とミツレの視線の先に、一つの人影が見える。その人影は走っており、徐々にこちら側に向かってきている。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない! あんなのがいるなんて聞いてない!!」
俺たちと同じ学生が、何かを叫びながらこちらに向かってきている。
「神崎さん!」
「あぁ!」
顔色が真っ青なその少女は、明らかに何かに怯えている。そして、何かから逃げている。
「あなた! どうされたんですか!?」
「俺たちは、テントに向かってるんだ! 多分、同じ担当区だろ? 何があったんだ? 話を聞かせてくれ!」
やっと、俺たちのことに気づいたのか、少女と俺たちは目線が合う。
「た、た、助けて! 殺される! ここにいたら殺される!!」
「どういう事ですか!? 話をこちらで聞かせてください!」
少女は、息を切らしながらこちらに向かってくる。その距離、20メートルほどだ。
「少尉もやられた! 福岡県Cエリア担当者は私たち以外、殺されたのよ!」
少女が発した言葉に、俺たちは思わず固まってしまう。
Cエリアには少なくとも30人は人がいたはずだ。そして、その30人を指揮している人は神対策局の少尉の称号を持っている人だぞ!? 簡単にやられるとは思えない。
「ど、どういう事だよ!? 少尉って、かなりの実力者じゃないのかよ!」
「どうやら、かなり深刻な状況みたいですね。ん? あなた!! 上を見てください! 早く避けて!」
俺たち、いや俺と顔を真っ青にした少女は、この時自分達の足を進めて、早く合流することしか考えてなかった。
だが、それが大きな過ちだったんだ。ミツレのみが、周囲全体にアンテナを貼っていたんだ。
「え? 何言って………………」
ミツレの一声で俺はやっと気づいた。少女の真上から、物凄い勢いで振り下ろされる槌の存在に。
「おい! 逃げろ!!」
「早く逃げてください!!」
だめだ! 俺とミツレが今行っても間に合わない! アイツが自分で逃げないと!
「え?」
だが、現実は非情だった。少女目掛けて容赦なく振り下ろされた巨大な鉄槌。その大きさは、幅が10メートルはある。
「お、おぁ、おかぁ………さん……………」
気付くのがもう少し早かったら少女は間一髪避けられただろう。
中途半端に避けてしまったため、身体の右半身のみが抉り取られ、その断面からは臓器がデロリと溢れ出す。
そして、少女は白目を向いたまま、地面にパタリと倒れる。
「あ、あぁ……………」
「助けられなかった……………」
俺たちは、少女の元に向かう。離れたとこから見ていたが分かる。もう、彼女は死んでいる。
「おいおい! 半殺しにして回収するはずだったんだけどぉ? 勝手に死んでんじゃぁねーよぉ!?」
空気中に響く、雷電のような張り詰めた怒鳴り声。ついさっきまでは巨大だった槌は、短剣と同じくらいのサイズになっており、それを片手に持った黄金の髪を逆立てさせた男が立っていた。
鍛え上げられたその肉体を見せつけるが如く、その蒼眼の男は上裸であり、真紅の腰巻のみを身につけていた。
「神崎さん……………」
「あぁ……………」
目の前でひとりの仲間が死んだ。助けられなかった…………
俺とミツレが思っていることは、全く同じだった。
「速攻で蹴りをつける!」
「速攻で蹴りつけます!」
2日連続投稿です! 何気に初めてではないでしょうか!?
やーーーーーーっと、この章の盛り上がる場所まで漕ぎ着けました〜!
自分の予想だと、あと10話でこの章は終わるかな?って思います!←とか言いながら、前章は予想以上に長引いた作者です笑